富士時報
第79巻第4号(2006年7月)
特集1 磁気記録媒体
特集2 感光体
特集2 感光体
特集1 磁気記録媒体
磁気記録媒体の現状と展望
今川 誠・中村 邦広
ハードディスク装置(HDD)は,記録密度を向上させることで「小型・大容量化」への進化を遂げてきた。この「小型・大容量化」への進化は,これまでのパソコンの枠を越え,HDDを搭載した音楽プレーヤ,ビデオムービー,携帯電話などの優れた製品として,市場を確立するに至っている。本稿では,今後も拡大が期待されるHDDの市場動向・技術動向について述べるとともに,富士電機の磁気記録媒体の技術開発状況と今後の展望について述べる。
アルミポリッシュ基板
鄭 用一・西村 通徳・若林 秀樹
アルミ基板としての観点から,高記録密度化へ対応すべく技術的課題は,磁気ヘッドが10nm以下の超低浮上走行下でも記録再生できるような0.1nmオーダーでの基板微小うねりや表面粗さの制御と数nmサイズの表面欠陥低減を図ることにある。本稿では,めっき技術,ポリッシュ技術の両プロセスにおいて,より高度な新材料を開発し,かつ適正な製造パラメータを組み合わせることによって,次世代160ギガバイト/枚仕様のアルミ基板の開発を目指しており,その過程での成果を報告する。
アルミ長手磁気記録媒体技術
二村 和男・坂口 庄司・柏倉 良晴
アルミ長手磁気記録媒体は,主にパソコンやサーバに使用されている。その記録容量は,3.5インチサイズ1枚あたり100ギガバイト(GB)を超えている。富士電機では,基板表面加工技術,磁性技術を中心に,それを可能とする技術開発を進めている。また,一部家電にも搭載され始めており,温度,湿度,耐衝撃性などの面で,使用される環境がこれまで以上に厳しくなっている。これに対応するために,従来とは違った評価方法を取り入れた表面潤滑技術の開発を行っている。現在,160GB/枚の量産を目指している。
ガラス長手磁気記録媒体技術
松尾 壮太・下里 学・宮里 真樹
ガラス長手磁気記録媒体は,2.5インチのモバイルハードディスク装置(HDD)用として,40ギガバイト(GB)機種をメインに生産している。富士電機では,独自技術のガラステクスチャ技術,シード層技術,AFC磁性層技術,2層保護膜技術そして混合ルブ技術を採用してきた。2005年度からガラス長手磁気記録媒体としては,最後の機種である60GB機種の開発を進めている。上記独自技術を全面改良し,顧客要求品質を達成してきた。本稿では,その開発技術について紹介する。
垂直磁気記録媒体の開発状況
酒井 泰志・竹野入俊司・上住 洋之
一部には垂直磁気記録方式を採用したハードディスク装置(HDD)が発売され,垂直方式の実用化に向けた開発がにわかに活気を帯びてきている。富士電機では,層構成,材料,成膜プロセスなどの最適化により250Gbits/in2超の面記録密度を有する垂直磁気記録媒体を開発するとともに,層構成の単純化,各層の薄膜化などにより,量産性ならびにコストを重視した製品開発を行ってきた。本稿では,垂直磁気記録媒体の特徴の一つである軟磁性裏打ち層の最適化,ならびにグラニュラー構造を有する磁気記録層の構造制御に関して,開発状況を紹介する。
垂直磁気記録媒体の信頼性技術
横澤 照久・貝沼 研吾・磯﨑 誠
垂直磁気記録媒体は,量産が間近である。富士電機では,信頼性の高い垂直磁気記録媒体を提供するために,ガラス基板の表面設計から保護膜までを開発してきた。具体的には,ガラス基板の表面加工,垂直ガラス基板用洗浄,スパッタ層構成,保護膜の開発を行ってきた。これにより,垂直磁気記録媒体の特徴である,高記録密度でありながら,長手磁気記録媒体と同等以上の信頼性を確保することができた。今後も改善を継続することで,世界のトップレベルの垂直磁気記録媒体を生産していく。
磁気記録媒体の分析・解析技術
熊谷 明恭・渡辺 武
磁気記録媒体の記録密度向上に伴って,微小化するエラーやその原因となる欠陥,あるいはヘッドの安定浮上のためのディスク表面の分析評価技術が重要となってきている。本稿では,信号読み書きエラー部における数十nmオーダーの欠陥分析技術と,ディスク表面に吸着する水分を分析し,ディスク表面設計の指針として適用した例を紹介する。
特集2 感光体
感光体の現状と展望
成田 満・山本 輝男
情報通信分野において,さまざまな機器がネットワークでつながるNGN(Next Generation Network)が展開される中にあって,その一翼を担う画像入出力装置のネットワーク化は急速に普及している。特に,カラー情報・画像を表示・記録するプリンタ,複写機は,高機能化が進むとともに,今後より一層重要性を増すものと予想される。本稿では,これらのプリンタ,複写機の市場動向と,その中で電子写真方式のプリンタ,複写機の動向を概説し,これに対応した富士電機の感光体について概要を述べる。
有機感光体用材料技術
中村 洋一
近年,プリンタ,複写機などの感光体応用機器はデジタル化,カラー化などの進展により,情報量が多い原稿が増え,かつその取扱量も増えている。これらに用いる有機感光体を製品化するための基礎技術である材料技術と化学技術の概要を紹介する。具体的には,コンピュータによる分子設計技術や劣化抑制剤による廃棄ロスが少ない地球環境に優しい塗布液技術などの現況を報告する。
プリンタ用有機感光体
森田 啓一・池田 豊・田中 靖
デジタル化,カラー化,ネットワーク化の進展に伴い,プリンタなどの出力機器は情報量の多い原稿・データを扱うようになった。こうした市場動向で感光体に要求される機能・品質は年々高度化している。富士電機ではこれらの要望に応えるべく,各種ニーズに適した感光体を開発・製造している。本稿では,負帯電型および正帯電型プリンタ用有機感光体の概要とその特徴について紹介する。
プリンタ用長寿命有機感光体
宮本 貴仁・小川 祐治・中村 友士
電子写真方式のプリンタ,ファクシミリ,複写機,およびこれらの機能を兼ね備えた複合機の高速度化,高画質化,動作安定化,低価格化に対応するため,その主要デバイスである有機感光体の感度特性,応答性,環境安定性,信頼性,耐刷性の改善がなされている。本稿では,環境配慮,ならびにランニングコスト低減に直結する長寿命特性を中心に,富士電機の有機感光体製品について,その性能・品質を紹介する。
有機感光体の生産技術
松橋 幸雄
富士電機は,業界トップレベルの生産技術をベースに,2006年には有機感光体の生産機能を中国の工場に集約し,感光体素管および感光体材料の製造から,感光体の塗布,検査,組立に至るすべての工程を集結した一貫ラインを構築する。本稿では,この一貫ラインにおける個々の要素工程について,その最新製造技術の概要を紹介する。
-
注
-
本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。