富士時報
第80巻第2号(2007年3月)
特集 産業分野で貢献するパワーエレクトロニクス
川村 逸生・笹川 清明
パワーエレクトロニクス機器は,社会の広い分野で活躍している。用途,容量とも幅広く,情報機器用電源,無停電電源,圧延機用インバータ,アルミ精錬用整流器など多岐にわたっている。本稿では,このように多様で部品の共通化が困難なパワーエレクトロニクス機器を,少ない経営資源で効率よく開発するための設計手法と設計ツールの概要を紹介するとともに,パワーエレクトロニクス機器が使われるプラントやコンポーネントの市場動向とそれに対する富士電機の取組みについて述べる。
滝沢 聡毅・徳田 寛和
無停電電源装置や可変速駆動用インバータなどのパワーエレクトロニクス製品には,小型化・高効率化・高性能化・高信頼化の要望が強い。また製品サイクルも早まりつつあり,タイムリーに製品を発売することが必要となっている。そのため製品開発には,スピーディかつ精度を有した設計技術力が必要不可欠となる。本稿では,上記設計技術の中で,パワーエレクトロニクス装置におけるIGBTモジュールの熱設計と,制御ソフトウェア設計をサポートするツールについて紹介する。
阿部 康・田畑 壮章・松原 邦夫
近年,IGBT の高耐圧化が進み,サイリスタと同様な定格電圧を持つ高耐圧IGBT が製品化されている。これらのIGBT は回路の簡素化に対しては有利であるが,スイッチング損失が大きくキャリヤ周波数は1 kHz 以下に制限され,フィルタの大型化などの原因となる。富士電機では,スイッチング損失を大幅に低減するため,高耐圧 IGBT の代替として多直列接続した1 kV 級定格のIGBT を適用する技術を開発している。本稿では,本技術を用いた鉄道車両および産業向けインバータを試作・評価したので,その内容について述べる。
安藤 俊明・木谷 剛士
鉄鋼・製紙・石油化学などの産業プラントにおいて電動機の可変速駆動システムが数多く適用されている。電動機の可変速駆動システムとして,近年は交流電動機とインバータを組み合わせての適用が多い。可変速駆動システムにはファン・ポンプや単体機器に単独で用いられる汎用インバータと,製鉄や製紙のような産業プラントにおいて多数の組合せで用いられるプラント用可変速駆動システムがある。本稿では,可変速駆動システムの推移と富士電機の産業プラント用可変速駆動システムの代表機種について紹介する。
藤本 潔・花澤 昌彦
高圧インバータはパワーエレクトロニクス応用製品の中では比較的新しく,世界的に見ても製品化されてまだ10年たっていない。富士電機は1999年に発売し,これまで300台以上の納入実績があり,今後さらに国内外への拡販を進めていく。製品は3.3 kV(280から3,750 kVA),6.6 kV(560 から7,500 kVA) 系列で, センサレスV/f 一定制御とベクトル制御の2タイプがある。また,豊富な機能(同期投入・解列,瞬時停電対応,同期電動機駆動)を選択でき,ファン,ポンプ,ミキサ,圧縮機などの多方面に使われている。
武藤 和弘・西條 学・森山 琴也
輸送機械業界を中心に部材の軽量化のため,アルミニウム(アルミ)の需要はここ数年間年率平均5 % で拡大している。アルミは,周知のとおりアルミナを電気分解することにより生産されるが,その際に多大な直流電力を必要とする。富士電機では,1960 年以来,電解用変圧整流器(以下,S フォーマという)を技術開発・改良を加えながら製作し続けており,その最先端の高効率・高信頼性のSフォーマは,世界中のユーザーから大きな評価を得ている。このたび,アルコア社の新鋭アイスランド製錬所に世界最大級のダイオードS フォーマ設備を納入したので,その特長を紹介する。
宇都 克哉・篠原 博・鈴木 明夫
電力供給の「電気の質」に対する要求がより厳しくなってきている現在,フリッカ補償装置(SFC)の役割はより重要なものとなってきている。パワーエレクトロニクスを駆使したSFC には,サイリスタを用いた他励式SFC および自己消弧デバイス(IGBT など)を用いた自励式SFC がある。本稿では,フリッカ補償システム(他励式および自励式)の最新制御技術について述べる。
倉田 巌・亀田 昇・三浦 敏栄
誘導加熱および誘導溶解はさまざまな特長を持ち,産業界で幅広く活用されている。本稿では新たに製品化した750から6,000 kW,50から500 Hz,複数の誘導炉を同時に運転可能な溶解電源と,50から500 kW,200から500 kHz 電縫管溶接機について,その特長,仕様などを紹介する。また,新たに開発した大容量高周波電源装置についても,その概要を報告する。
福田 幸夫・日永田 守・幸林 久詩
近年のコンピュータシステムの高度な情報統合やネットワーク化に加え,システムの効率化や安全性が重要度を増している。こうした背景から,無停電電源装置(UPS)にも「高効率・高信頼性」の要求が高まっている。さらにIDC(Internet Data Center)を含めたビル市場では配電系統も400 V 系配電システムが主流になりつつある。これらの要求に応えた高効率・高信頼性の400 V 系高効率オンラインUPS「7000D シリーズ」を製品化した。本稿では,その特長および仕様を紹介する。
松尾 浩之・大島 雅文・石井 紀好
コンピュータシステムの急速な発達に伴い,電力の安定供給の要求が高まっている。そのため,これらの電源として用いられるミニUPS(無停電電源装置)に対して高信頼性の要求が高まっている。また,サーバの大容量化や環境への意識の高まりによりUPS も大容量化・高効率化が求められている。今回,富士電機ではデュアルコンバージョン方式を採用し,高性能と高効率の両立を実現したミニUPS を製品化した。本稿では,それらの仕様および特長を紹介する。
保高 伸洋・軽部 邦彦・多和田信幸
情報通信装置に使用される各種LSI[ メモリ,FPGA(Field Programmable Gate Array),CPU など]の高速化,低電圧・大電流駆動化により,1 V 以下の動作電圧に対応できる電源が要求されており,交流入力からLSI までの電源構成が変化してきている。本稿では,これらの要求に対応した分散電源システムの例を紹介し,富士電機のフロントエンド電源,中間バスコンバータ,POL(Point of Load)コンバータについて製品例を示す。
井上 亮二・大庭 政利
2005 年2月に京都議定書が発効に至り,国際法としての効力を持つようになった。鉄道はエネルギー効率が最も高く,経済的で環境に優しい大量輸送機関であり発展を続けている。今後は小型軽量・省エネルギー・省メンテナンスに加え,車内静粛性や高齢化対応などの快適性がますます求められるであろう。安全性,信頼性,経済性に対する要求とその後の高速化,省エネルギー化,環境問題への対応などの時代の要請に応えながら,技術革新を実現してきた新幹線車両主回路システムと在来線車両用補助電源装置における技術開発の取組み,先進技術および今後の技術動向について紹介する。
仁井 真介・神通川 亨
自然エネルギーを利用した分散型電源の電力系統への連系が増加している。しかし,自然エネルギーを利用した分散型電源は,自然条件に応じて出力が変動するため,系統の周波数や電圧の変動を生じさせ,問題となる場合がある。その欠点を補う手段として,二次電池やフライホイール,あるいはキャパシタを利用した電力安定化装置や複数の分散型電源と負荷により構成され,需給制御を行うマイクログリッドが有効である。本稿では,これらの電力安定化技術について,最新の技術を紹介する。
長倉 善則・安久津信也・山本総一郎
1997 年12 月の京都議定書の採択に始まった地球温暖化防止への取組みは,CO2 のほか環境ホルモンなど有害物質の抑制を加え,地球環境全体の保全に取組みが拡大している。上下水道事業でも,改正省エネ法の施行以来,さらに電気・熱エネルギーの消費原単位の計画的縮減が求められる中で,ますます環境負荷を低減した事業運営が必要となってきている。本稿では,省エネルギー評価シミュレータをエンジニアリングツールとして,マトリックスコンバータ,PM モータ,高圧VVVF を省エネルギー関連機器として紹介する。
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注
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