富士時報
第81巻第4号(2008年7月)
特集1 磁気記録媒体
特集2 感光体
特集2 感光体
特集1 磁気記録媒体
ストレージ技術の発展と"ものつくり"
島津 武仁
東北大学電気通信研究所
21世紀情報通信研究開発センター准教授工学博士
磁気記録媒体の現状と展望
松尾 壮太,伊藤 芳昭
ハードディスクドライブ(HDD)は垂直磁気記録技術が製品化されたことにより,記録密度は年率約40% の伸びを示し,2007年には3.5インチドライブで1テラバイト(TB)の製品がリリースされた。このような大容量が可能となったことにより,ハードディスクレコーダなどのパソコン用途以外のコンシューマエレクトロニクス(CE)用途などの新市場が生まれ,HDD 市場は今後も年率10%以上の拡大が見込まれる。本稿では,近い将来実現の可能性が高い,磁気記録媒体の高記録密度化技術についてその概要を述べる。
アルミ垂直磁気記録媒体用基板
貝沼 研吾,坂口 庄司,鄭 用一
磁気ヘッドの浮上高さは高記録密度化のため10nm 以下のレベルに下がってきた。安定した記録再生のためには,このような超低浮上走行を可能とする基板表面状態が求められ,サブnm オーダの基板表面の平滑性や欠陥の制御が重要である。富士電機ではアルミ基板のポリッシュおよび精密洗浄プロセスにおいて,新規の材料の適用およびプロセスを最適化した新しい基板技術を開発し,3.5インチ1枚で334GB を実現する垂直記録媒体用のアルミ基板を開発した。本稿ではこれらの開発した技術について紹介する。
アルミ垂直磁気記録媒体
酒井 泰志,武居 真治,原 直毅
アルミ垂直磁気記録媒体は,従来より磁気記録媒体が使用されてきた,パソコンやサーバといったコンピュータ関連製品から,ビデオレコーダなどのコンシューマ市場へとその応用範囲を拡大している。富士電機では,1999年から垂直磁気記録媒体の開発を開始し,当初から独自技術を展開し,常に業界のトップを走り続けている。本稿では,成膜技術の開発を中心に,富士電機におけるアルミ垂直磁気記録媒体の開発状況を紹介する。
ガラス垂直磁気記録媒体
及川 忠昭,安宍 善史,上住 洋之
現在,垂直磁気記録媒体の主流となっているCoPtCr-SiO2グラニュラー垂直磁気記録媒体において,さらなる高記録密度化を達成するためには,媒体ノイズの低減と熱安定性の向上が必要不可欠である。本稿では,CoPtCr-SiO2 グラニュラー垂直磁気記録媒体の磁気記録層組成の最適化による高記録密度化への取組みと,垂直磁気記録媒体の開発を効率的に進めていくうえで欠かすことのできないリードライト評価技術について紹介する。
新しい高密度記録技術 - ECC 媒体 -
竹野入俊司,李 図強,久保木孔之
ECC(Exchange-coupled Composite)媒体は,通常トレードオフの関係にある”高密度化”,”記録の長期安定性”,”記録容易性”を同時に満たすことが可能な技術として注目されており,Tbits/in2に迫る記録密度が実現可能と期待されている。富士電機では,実現可能なECC 媒体として,ソフト層をセミハード層あるいは弱いハード層で置き換えたSemi-ECC 媒体を開発しており,シミュレーションと実験によりその原理検証を行った。また,電磁変換特性を評価し,通常の媒体と比較して優れた性能が得られることを確認した。
新しい高密度記録技術 - ディスクリートトラックメディア -
佐藤 公紀,熊谷 明恭,片野 智紀
500Gbits/in2を超える次世代媒体の一つとしてディスクリートトラックメディア(DTM)の開発を進めている。DTM は,磁性層に幅100nm 以下,深さ約20nm の溝を形成することで隣接トラック間の磁気的干渉を低減して,トラック方向の記録密度を30% 以上向上させることができる。トラック幅60nm のDTM を試作,MFM(磁気力顕微鏡)を用いて観察した結果,トラックが磁気的に分離していることが確認できた。今後は量産化に向けたプロセス開発を進めていく予定である。
新しい高密度記録技術 - 熱アシスト媒体 -
渡辺 貞幸,由沢 剛,古田 旭
1 Tbits/in2 以上の記録密度の実現が期待される”熱アシスト記録方式”におけるシミュレーション技術や記録媒体の開発状況について報告する。温度分布解析と記録再生の二つの部分から構成される,熱アシスト記録再生シミュレーションシステムを新たに構築した。媒体試作に関しては,記録層の磁気特性の温度依存性を比較的簡単なプロセスパラメータで制御できたこと,熱アシスト記録評価用スピンスタンドを用いて熱アシスト効果を確認したこと,耐熱性を向上させた新しい潤滑剤を開発したことを示した。
特集2 感光体
アナログからデジタル電子写真への感光体の発展
陳 以南
コンサルタントPh.D.
元ゼロックス社(米国)Principal Scientist
感光体の現状と展望
成田 満
電子写真方式のプリンタや複写機の伸長に伴い,感光体は今後約8% の年伸長率が見込まれている。感光体に期待される性能は,より鮮明な画質や高い耐久性など,ますます高くなってきている。富士電機はこうした市場要求に応え,材料設計,製品設計,生産技術の高度化に挑戦し,顧客にとって魅力ある製品を市場に提供してきている。今後とも,グループの総力を結集して技術力の強化を図り,顧客のニーズを先取りした高性能で信頼性の高い製品を提供していく。
有機感光体用材料技術
中村 洋一,北川 清三,鈴木信二郎
プリンタ,複写機などの感光体応用機器はデジタル化,カラー化,などの進展により,情報量が多い原稿が増え,かつその出力量も増えている。これらに用いる有機感光体を製品化するための基礎技術である富士電機の材料技術と化学技術の概要を紹介する。具体的には,コンピュータによる分子設計技術,設計した分子の合成技術,精製技術などについて報告する。さらに国際的な環境への関心の高まりに対応した安全性技術,環境技術にも触れ,廃棄ロスの少ない地球環境に優しい生産についても報告する。
プリンタ用有機感光体
森田 啓一,池田 豊,田中 靖
電子写真応用機器は,小型・低価格機から高速カラー機まで,今後も引き続きバリエーションの広がりが続く。こうした市場の動向から感光体に要求される機能・品質も多岐にわたる傾向が見られる。富士電機ではこれらの要望に応えるため豊富なラインアップの感光体を開発・製造し,市場展開を行っている。本稿では,負帯電型および正帯電型のプリンタ用有機感光体(OPC:Organic Photoconductor)の概要とその特徴について紹介する。
デジタル複写機用有機感光体
宮本 貴仁,高野 晋,濱田 修一
電子写真応用機器の中でもデジタル複写機分野については特に高耐久性・高寿命化が求められている。さらにはカラー化やマルチファンクション化といったバリエーションが広がりつつある。このような市場動向の中,これらに搭載される感光体についても要求される性能・品質も向上が求められている。富士電機では,顧客の要求に応えるべく感光体を開発・製造し,市場に展開を行っている。本稿では,デジタル複写機用有機感光体の概要とその特長について紹介する。
有機感光体の生産技術
松橋 幸雄,郷原 達善
富士電機は,業界トップレベルの有機感光体の生産技術をベースに,2006 年に生産機能すべてを中国の工場に集約し,感光体素管および感光体材料の製造から,感光体の塗布,検査,組立てにいたるすべての工程を集結した一貫ラインを構築した。本稿では,この一貫ラインにおける個々の要素工程について,その最新製造技術の概要を紹介する。
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注
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