富士時報
第81巻第6号(2008年11月)
特集 半導体
嶋田 隆一
東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構教授工学博士
関 康和,高橋 良和,藤平 龍彦
環境問題が大きな社会問題となる状況になる中で,パワー半導体がその解決の一端を担える存在であると期待が大きい。パワー半導体の主な製品群の現状と将来展望を述べる。パワーモジュールでは,最新の第6世代IGBT「V シリーズ」および高耐圧大容量化への動向を述べる。パワーディスクリートでは高耐圧MOSFETのE3シリーズを,パワーICではいくつかの低損失化・小型化の成果を紹介する。自動車用トレンチMOSFETではCOC技術搭載の新製品を紹介する。
市川 裕章,市村 武,征矢野 伸
ハイブリッド車のさらなる燃費改善とコスト低減のためにはインバータの小型化と,回生ブレーキによるエネルギー回収効率の向上が必要であり,これらの市場ニーズに応えるために自動車用IGBTモジュールを開発したので紹介する。600V用FS(フィールドストップ)型トレンチゲートIGBTを適用し,インバータ変換効率の向上とモジュールサイズの小型化を図りつつ,ダイオードチップサイズ最適化により回生ブレーキ動作時の電力回収効率を改善した。またオンチップ温度センサをIGBTに内蔵し過渡的な温度上昇に対する応答性が向上した。
西村 孝司,高宮 喜和,中島 修
富士電機は,近年,地球温暖化を抑制するため,化石化燃料を使用しない新エネルギー分野(風力・太陽光発電)の市場が急速に伸びている。本分野への適用をねらい,U4チップを搭載し,熱的特性の向上と耐環境性能を改善した1,200Vおよび1,700Vの耐圧を持ち,600から3,600Aまでの電流容量を持つ大容量のIGBTハイパワーモジュールを新たに開発した。パッケージは,130×140mm,190×140mmで,1in1および2in1モジュールを構成する。
森 貴浩,中森 昭,山村太久生
地球環境保護のためにパワーデバイスのさらなる小型化,高効率化が占める役割は大きい。IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)駆動用のドライバIC(Integrated Circuits)を一つのパッケージにモジュール化したIPM(Intelligent Power Module)において,さらなる高効率化,高機能化,低価格化,安定供給の要求に応えるため,IPM 用小型高性能ドライバIC を開発したのでその概要を紹介する。
久保山貴博,山田 忠則,新村 康
スイッチング電源における重要課題である高効率化・低ノイズ化に対応した「SuperFAP-E3 シリーズ」を,2007年に500から600V耐圧にて製品化した。今回,同シリーズの900V耐圧品を開発した。900Vの高耐圧製品であるため,特にアバランシェ耐量,ゲート電圧VGSのリンギングについて改善し,低損失化に加え壊れにくく,かつ使いやすい製品を開発した。本稿では,その「SuperFAP-E3 900V シリーズ」の概要を紹介する。
荒木 龍,原 幸仁,渡邉 荘太
スイッチング電源の高効率・低ノイズの要求が急速に高まる中,スイッチングデバイスとしては低損失と低ノイズの両立が必要不可欠である。今回開発した「SuperFAP-E3S 低Qgシリーズ」は,プレーナ型MOS構造での業界最小の低オン抵抗性能はそのままに,ゲートチャージ特性Qgを従来比約20%低減し,かつゲイン特性gfsを最適化することにより,スイッチング損失とノイズのトレードオフ改善を実現した。これにより電力変換効率向上と低ノイズを両立した電源システムが容易に実現可能となる。
有田 康彦,中村 賢平,西村 武義
電動パワーステアリング用ならびにハイブリッド車などのDCDCコンバータ用として,低オン抵抗性,高ゲートしきい値電圧特性,高信頼性を備えたトレンチMOSFET製品を系列化している。近年自動車の低燃費化,環境負荷低減を目的として,自動車の電装部品の消費電力を低減することが求められており,自動車用MOSFETに対してさらなる低オン抵抗化が要求されている。この要求に対応するため,トレンチ構造の設計ルールを微細化した新型のトレンチMOSFETを開発している。
岩田 英樹,岩水 守生,豊田 善昭
富士電機では, 従来の高機能MOSFETに負荷断線検出回路と,状態出力用ステータス回路を内蔵し,オン抵抗を従来の600mΩmaxから350mΩmaxに低減した高機能MOSFET「F5060L」を開発した。本製品は,擬平面接合(QPJ:Quasi Plane Junction)ウェーハプロセス技術により低オン抵抗化を,第3世代1.5μm自己分離型プロセス技術によりIC回路の微細化を図り,チップの小型化を実現した。機能・性能がアップしたにもかかわらず,従来品と同じくSOP-8パッケージに2チャネル分のチップの搭載が可能となった。
丸山 宏志,手塚 伸一,渕先 寛教
近年,地球温暖化問題が注目され,液晶テレビやオーディオ製品,パソコンなどの効率改善・待機電力低減が重要な課題となっており,国際エネルギースタープログラムなどの省エネルギー基準もより厳しいものへバージョンアップされている。富士電機では,低消費電力化に有効な起動素子内蔵タイプのスイッチング電源用制御ICの系列化を進めている。本稿では,電気製品の待機状態である軽負荷時や無負荷時に間欠動作あるいは周波数低減動作をすることで,待機電力削減を可能とする擬似共振型制御ICについて紹介する。
園部 孝二,陳 建,手塚 伸一
近年,電気製品全般での省エネルギーや高調波規制の要求が厳しくなりつつあり,高調波電流を抑えるためにアクティブフィルタ方式が使われ,オフラインコンバータは高効率・低ノイズの電流共振方式の採用が増えつつある。富士電機では今回,臨界型PFC制御ICと電流共振制御ICを統合した電源ICを開発したのでその概要を紹介する。このICの電源評価の結果,高力率・高効率・低スタンバイ電力用途の電源として適用可能であることを確認した。
大和 誠,山田谷政幸,一岡 明
近年,デジタル家電の急速な普及や産業用市場の拡大に伴って,製品の高効率化,小型化,高信頼性,低電圧化が求められており,降圧コンバータICにはこれらの対応が必要となっている。富士電機では今回,これらの市場要求に対応し従来機種より高効率化,高周波化,高信頼性化,低電圧化および外付け部品削減を図るため,45V耐圧で負荷電流1.5AのハイサイドnチャネルMOSFET内蔵,電流モード制御,位相補償内蔵,ヒカップ動作の降圧コンバータICの開発を行ったので紹介する。
遠藤 和弥,大和 誠,一岡 明
デジタルスチルカメラなどの携帯型電子機器は小型・軽量化,バッテリーによる長時間動作が求められている。それに伴い,これらの機器の電源装置も小型化,軽量化,低消費電流化,高効率化が要求されている。富士電機ではマルチチャネル電源用に,パワーMOSFETを内蔵した同期整流・電流モード制御対応の7チャネルDC-DCコンバータIC「FA7763R」を開発した。
石井 憲一,宮沢 繁美,山本 毅
自動車の安全性,快適性,省エネルギーや環境問題への対応のため,車両構成部品の多くが電子化されている。自動車に搭載され,過酷な環境で使用されることから高い信頼性が要求される。富士電機では,実車で想定されるさまざまな電気的ストレスや条件に対応するため,イグナイタ自身に保護機能を搭載し,高機能化に取り組んだ。また,従来の小型パッケージを踏襲するために,オン電圧を電源とする回路構成,微細化プロセスを適用したイグナイタを開発した。
斉藤 和典,芦野 仁泰,栗又正次郎
自動車産業における環境への取組みは規制強化とともに高まってきており,自動車のエンジンマネジメントの高精度化・高効率化と,そのキーデバイスの一つである圧力センサの重要性が高まってきている。本稿では,第5 世代デジタルトリミング型圧力センサチップを用いて,自動車が高地を走行する際の高地補正用途として用いられるECU基板上にSMD(Surface Mount Device)として搭載可能な小型大気圧センサを開発した。開発した製品は,実装面積で当社従来比約65%低減を実現している。
高久 拓,五十嵐征輝,井川 修
半導体デバイスを使用した電力変換装置の製品開発における熱設計の重要性が高まっており,インバータ回路におけるIGBTモジュールの発生損失と温度上昇を一次元の熱抵抗モデルから容易に計算できるシミュレータをバージョンアップし,一般に公開した。このシミュレータは,以前のバージョンと比較して,(1)ヒートシンクの熱抵抗を考慮した計算機能,(2)実機の運転パターンを入力して損失・温度を連続的に計算する機能を追加した。これにより富士電機IGBTを用いた装置の実動作に基づいた計算が可能となった。
,高久 拓,五十嵐征輝
コンピュータ技術やシミュレーション技術の発展により,高い精度でノイズレベルが予測でき,設計時間が短縮できる。富士電機ではPSIMシミュレーションツールによりコモンモード漏れ電流を再現でき,シミュレーションでのノイズ低減効果と実験結果が一致することを確認した。さらに,提案する電圧型アクティブフィルタは,コモンモード電圧をモータ浮遊容量と接地コンデンサで分圧した大きさでよいため,小型化と低電圧化を図ることができる。
栗林 均,山口 一哉,矢嶋 理子
シリコン基板に形成した深いトレンチをエピタキシャル成長によって埋め込む,埋込みエピタキシャル技術を紹介する。選択エピタキシャル成長条件とトレンチを形成する結晶方位を最適化することにより,ボイドがなくトレンチを埋め込むことが可能になった。埋め込む際に不純物を導入することで超接合基板が形成できる。トレンチ埋込みにより形成した超接合基板について,SIMS,SCMによる不純物分布は均一であることが分かった。
豊田 善昭,原田 祐一,上西 顕寛
自動車電装システムの小型化,高信頼性化に対応するため,富士電機は出力段パワーデバイスと周辺回路を自己分離方式により同一チップに搭載した車載用IPS(Intelligent Power Switch)を開発してきた。本稿では,縦型パワーデバイス技術を改良し,横型1.5μm CMOS技術との融合により新たに開発した自動車用IPSデバイス技術について紹介する。この技術により,従来比でサイズを30から50%縮小化し,面積あたりのオン抵抗も同時に25%低減した。
河田 泰之,俵 武志,中村 俊一
SiCパワーMOSFETの特性向上のため,トレンチ形状制御と側壁平滑性改善を検討した。1,700℃のSiH4/Ar雰囲気中アニールでトレンチ形状を変形させることができ,1,500℃のH2雰囲気中アニールでトレンチ形状を変えずにトレンチ内壁を平滑化できる。1,700℃のSiH4/Arアニールと1,500℃のH2アニールを連続で行うことにより,トレンチコーナのラウンドおよびトレンチ底の半円形状制御と,トレンチ側壁平滑性を同時に実現した。本技術は,デバイスの耐圧向上とチャネルの電子移動度の向上に寄与することが期待される。
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注
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