富士時報
第82巻第5号(2009年9月)

特集 未来を切り拓くオートメーション技術

オートメーションが支える未来と人材育成

川田 誠一
産業技術大学院大学教授

オートメーション技術の現状と展望

松村 基史 ・ 黒谷 憲一

富士電機は電力・産業をはじめ、さまざまな分野でオートメーション事業を展開し、多くの実績をあげてきた。わが国 の技術戦略とグローバルな市場・技術の動向を踏まえ、安全・安心で持続可能な社会の実現に向けて、エネルギーと環境・ 安全に注力した技術開発を進めている。スマート化、セーフティ化、グリーン化を三つの鍵とし、エネルギー、インダストリ、ソシオ分野に事業領域を区分し、セーフティ技術、組込みシステムなどのプラットフォーム開発、ならびに3Rエンジニアリングの実現に向けた取組みを進めている。

スマートエネルギーを実現するオートメーション

大池 克幸 ・ 大橋 一弘 ・ 福山 良和

低炭素社会やエネルギーの安定供給の実現に当たり、エネルギー利用の高効率、高品質、高信頼度を目指すスマート化へ期待が向けられている。富士電機は、長年にわたりこのエネルギー課題に取り組み、技術開発、製品開発を通し貢献してきた。分散型エネルギー需給の制御では太陽光発電、風力発電、バイオマス発電を組み込んだ地域需給制御の研究開発に参画した。分散型電源システムでは電力安定化装置を開発し、適用した。系統運用では潮流制御で系統の安定化を図り、 エネルギープラントでは最適化と見える化を進め、エネルギーの高品質化に貢献している。

安全で安心なものづくりを実現するセーフティインダストリオートメーション

斉藤 純一郎 ・ 垣堺 健 ・ 小林 益之

富士電機は、従来の高信頼度化・高品質化などの安全技術に加え、国際安全基準を満たした当社独自の安全ソリューションの提供を目指している。安全ソリューションはエネルギーオートメーション、インダストリオートメーション、ソシオオートメーションの三つの分野をカバーし、お客さまの生産設備・システムをライフサイクルにわたり安全に稼動するよ うに構築・維持する。安全ソリューションはコンサルティング、安全制御ソリューション、安全コンポーネント、アフターサービスなどの商品で構成され、“安全・安心なものづくり”を行うセーフティインダストリの実現を支援している。

快適な社会を実現するグリーンソシオオートメーション

川尻 幸一 ・ 平山 博之 ・ 笛木 豊

富士電機はグリーンソシオを“環境に調和した快適な生活を送る社会”と定義し、その実現に向け、センサ、ワイヤレ スネットワーク、広域分散システムなどをコア技術として、環境・省エネルギーと安全・安心にかかわるソリューションを提供している。環境・省エネルギーでは、エネルギーの使用量やムダの見える化、省エネルギー活動を支援する「グリーンユース」などのソリューションを提供している。安全・安心では、農産物の育成履歴管理や食品の製造履歴管理などの食の安全の提案や緊急医療のための所在管理システムなどのソリューションを提供し、グリーンソシオの実現を目指している。

制御システムプラットフォームによる生産性と品質の向上

廣瀬 文彦 ・ 笹谷 俊幸 ・ 森 伸一郎

富士電機は、制御システムの生産性と品質の向上のために、実行系と支援系で構成される制御システムプラットフォーム(PF)の構築に取り組んでいる。実行系ではシステム規模に応じて大規模システム、中小規模制御システムと広域監視システムの三つのPFを提供している。支援系では、削減(Reduce)・再利用(Reuse)・再資源化(Recycle)を徹底して 推進する3RエンジニアリングPFを提供している。これらの制御システムPFの提供を通じて、エネルギー・産業・社会のあらゆる分野で生産性と品質を向上させたいというお客さまの要求に応えている。

現場の安全を守る安全制御ソリューション

小塙 明比古 ・ 長谷川 正美 ・ 金森 重晴

機能安全や機械安全の国際規格化を受け、国内の規格化や安全の取組みが活発化している。富士電機は、この国際的な安全基準と、システム制御で培ってきた高い信頼度や稼動率などを実現する基盤技術とを融合させた安全制御ソリューショ ンを展開している。安全計装システムでは、リスクアセスメントに基づいたリスク低減対策によりSIL3までの安全度水準を提供する。鉄鋼コイル搬送システムでは、要求安全度に応じた回路やコンポーネントの多彩な選択肢を用意している。 電力系統では、高い信頼度のディジタルリレーが電力の安定供給を保つために貢献している。

効率と品質の向上に寄与するモデリングと制御技術

勝野 徹 ・ 松本 宏治 ・ 松井 哲郎

近年、オートメーションシステムに対して、品質や安全性に対する要求がますます厳しくなってきている。富士電機は高度なモデリング技術や制御技術を用いることにより、これらの課題解決に向けて積極的に取り組んでいる。製造プロセスの異常診断や製品品質の推定が可能な多変量統計的プロセス管理・品質シミュレーションパッケージの開発、富士電機独自の外乱オブザーバ機能の開発、およびモデル予測制御の汎用PLCへの実装を行っている。これらのモデリング技術と製品で、製造やプロセスオートメーションの高度化に貢献している。

安全・安心に貢献する放射線管理用機器・システム

藤本 敏明 ・ 石倉 剛 ・ 伊藤 勝人

富士電機は放射線の利用とモニタリングに取り組んでいる。モニタリング分野では、新設・増設される原子力発電所や増加する放射線利用職場に対応した個人線量管理システムや、サーベイメータなどを開発し、提供している。個人線量管理システムでは、半導体式の個人線量計で検出した線量を無線でリアルタイムにモニタリングできる線量の状態監視システムや入退室時の体表面モニタを提供している。さらに、放射線取扱い施設周辺の環境放射線をサーベイメータで測定し、 データを自治体と共有し公開することで、住民の安全・安心を実現するシステムおよびサーベイメータを提供している。

排ガスを監視する環境計測システム

中村 裕介 ・ 金井 秀夫 ・ 平山 紀友

日本・欧州・中国などの各国では大気汚染を防止するため、法律による排ガス規制が実施されている。煙道の排ガスを採取し前処理するサンプリング式ガス分析計からなる現状の連続排ガス計測システムでは、長期安定測定を実現するため に、サンプリング配管の詰まりや汚れの除去、分析計の定期的な校正、サンプリング導管加熱による消費電力の大きさなどの課題があった。富士電機の7成分同時測定ガス分析装置では、HCl測定にこれらの課題を解決できる直接挿入レーザ方式を適用した。さらにほかの測定成分についても直接挿入レーザ方式を適用できるよう研究開発を進めている。

オートメーションを支えるインテリジェントフィールド機器

福住 光記 ・ 小高 秀之 ・ 中川 昌文

富士電機は“現場の見える化”により、現場情報を経営レベルの計画・管理処理に反映させて、経営課題解決のためのオートメーションシステムを提供している。“現場の見える化”のためのキーコンポーネントであるインテリジェントフィールド機器は、ネットワーク技術、計測・制御技術、電子化技術、組込みソフトウェア技術、セーフティ技術および小型化・ 省電力化技術などから構成されている。スマートエネルギーやセーフティインダストリ、グリーンソシオなどの分野で、インテリジェントフィールド機器を用いたオートメーションシステムを実現している。

オートメーションを支えるワイヤレスネットワーク

畠内 孝明 ・ 小林 芳邦 ・ 町田 潤一

富士電機は、監視や計測・自動検針などの用途で、多くのワイヤレスネットワークの応用システムを提供している。プ ロセス制御用途でも、無線規格ISA100.11aを適用した製品を試作している。近距離無線通信の国際規格(IEEE802.15)に、 富士電機で実績のあるメッシュネットワークに適したアクセス方法を提案している。メッシュネットワークの設置調整を簡単化するツールなどを共通プラットフォームとして整備している。特徴ある技術としては、低消費電力メッシュネットワークや多数タグ読取り技術などがあり、電力量計の無線遠隔検針やタグ型モータ振動診断などの製品で実用化している。

インテリジェント化を支えるMEMSセンサ

相馬 伸一 ・ 矢尾 博信 ・ 武居 正彦

富士電機では20年以上にわたり、システムを差別化するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用したセンサなどの製品化を推進してきた。MEMS 応用製品には圧力センサ、フローセンサなどがあり、プラズマエッチングや陽極接合技術を応用して三次元加工を行っている。最新の事例として、超低消費電力を実現する薄膜ガスセンサと、設備や建築物などの診断応用を視野に振動センサを開発している。さらに国家プロジェクトであるBEANS に参画し、抗体な どを表面修飾したセンサの研究やエネルギーハーベスティング技術などを大学と共同で研究している。

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