富士時報
第82巻第6号(2009年11月)

特集 エネルギー・環境分野に貢献するパワー半導体

次世代のパワーデバイスに向かって

松本 俊
山梨大学工学部教授 工学博士

パワー半導体の現状と展望

関 康和 ・ 宝泉 徹 ・ 山添 勝

地球環境保護への取組みが注目され、パワーエレクトロニクスの基幹部品であるパワー半導体の重要性が増大している。 第6世代IGBT「V シリーズ」技術を用いて高温動作、高耐圧・大容量のパワーモジュールの製品化や開発を行った。ポストシリコンとして、ワイドバンドギャップ半導体を用いたデバイスの開発やSuperjunction MOSFETの開発を行ってい る。さらに“きぼう”で使われている宇宙用MOSFETでは高信頼性化や低損失化、電源制御用ICでは低ノイズ・省エネ ルギー化を達成している。自動車用の排気系圧力センサやハイブリッド車用の制御ICを新たに製品化した。

ハイブリッド車用第2世代めっきチップ

藤井 岳志 ・ 今川 鉄太郎 ・ 洞澤 孝康

普及が進むハイブリッド車のシステムは、高出力化、小型化の要求が増している。これに対し、高電流密度化、両面冷却構造に対応した半導体チップが要求され、表面電極にNi めっき膜を形成した構造のチップを開発した。第2世代めっきIGBTチップには、表面トレンチ構造と表面セル構造の最適化および新FS構造を採用した。第2世代めっきダイオードチップでは表面アノード層構造の最適化とFZウェーハの適用により順方向特性の改善を図り、チップの信頼性を向上させた。これらの特性改善により、IGBT、ダイオードのチップサイズ縮小を実現し、システムの高出力化、小型化に対応した。

ハイブリッド車用IGBT 駆動IC「Fi009」

鳶坂 浩志 ・ 中川 翔 ・ 今井 誠

ハイブリッド車の電力変換システムに用いるIGBT駆動IC「Fi009」を開発した。本製品はIGBT駆動用の15 V 系ドラ イブや保護機能(過熱、過電流、電源電圧低下、ソフト遮断)を持ち、従来品より汎用性を高め、微細なプロセスルールを用いてワンチップ化した。本製品によりIGBTの安定動作、異常時の焼損回避、およびシステムの小型化に貢献できる。 パッケージはSSOP-20で鉛フリーに対応できる。また、175 ℃での放置に耐える高い信頼性耐量を確保している。

3.3 kV IGBT モジュール

古閑 丈晴 ・ 有田 康彦 ・ 小林 孝敏

産業用インバータや車両インバータなどの市場ニーズに応えるため、3.3 kV 耐圧、1.2 kA 電流定格の大容量IGBT モジュールを開発してきた。今回、パッケージにIGBTハイパワーモジュールの技術を適用したモジュールを開発した。改良前に比べ、内部インダクタンスを33%低減し、絶縁基板間の電流均一化も良好である。このモジュールで、パワーサイクル試験を実施し、十分な耐量を持つことを確認した。また、製品ラインアップとして、3.3 kV-1.5 kAおよび3.3 kV- 0.8 kA IGBTモジュールを開発中である。

高速IGBT モジュール

堀江 峻太 ・ 小川 省吾 ・ 高久 拓

近年、MRI やⅩ線などの医療用電源、溶接機やプラズマカッタ用電源といった市場が拡大している。これらの機器のスイッチング周波数は20から50 kHz の領域である。このような高スイッチング周波数領域での使用に適した高速IGBTモジュールの開発を行った。IGBTチップの裏面p層の濃度コントロール、表面セルピッチ間隔の短縮、FWDチップのトレードオフの最適化によりスイッチング損失の低減を実現した。また、モジュールの放熱特性を改善したパッケージを採用することにより、チップの温度上昇を抑え、高速スイッチングを可能にした。

IGBT モジュール「V シリーズ」の系列化

高橋 孝太 ・ 吉渡 新一 ・ 関野 裕介

富士電機では、最新世代の「Ⅴシリーズ」IGBTを用いた製品の系列化を進めている。ⅤシリーズIGBTモジュール は、チップ損失の低減とパッケージ放熱性の改善により、IGBT モジュールの小型化、高パワー密度化を達成している。また、チップおよびパッケージの特性向上により信頼性を高め、175 ℃における動作(ただし非連続)を保証している。富士電機では、高パワー密度かつ信頼性の高いⅤシリーズとして、大容量2 in 1 や小型化7 in 1 などの新規パッケージの開発、1,700 V への系列拡大なども進めている。

インテリジェントパワーモジュール「V シリーズIPM」

清水 直樹 ・ 高橋 秀明 ・ 熊田 恵志郎

産業用「ⅤシリーズIPM(Intelligent Power Module)」を開発した。本製品は、IPM 用に最適化した高性能第6世代Ⅴ チップと新制御ICを適用して発生損失を低減し、パッケージの小型化を実現した。短絡保護機能の高速化を行い、定常損失と短絡耐量のトレードオフを改善することでスイッチング損失を低減した。さらに新制御ICとパッケージの最適化により、ターンオン損失の低減と放射ノイズの改善に成功した。従来の保護機能に加え、アラーム要因ごとにアラームパルス幅を変えて出力する機能を搭載した。また、小容量パッケージでも地絡保護が可能となっている。

Superjunction MOSFET

大西 泰彦 ・ 大井 明彦 ・ 島藤 貴行

不純物濃度制御に優れた多段エピタキシャル技術を適用し、定格600 V/0.16 Ω(パッケージ:TO-220)のSuperjunction(SJ) MOSFETを作製した。作製したSJ-MOSFET は、SJ構造の不純物濃度最適化により、従来MOSFET 「SuperFAP-E3」に対し約70%のRon・A 低減を達成した。これは業界最高レベルのRon・A であり、従来MOSFETの理論限界を超える値である。また、SJ 構造の不純物濃度プロファイル、n型バッファ層の最適化により、定格電流以上のL負荷アバランシェ耐量を確保した。

第2世代宇宙用高信頼性パワーMOSFET

井上 正範 ・ 小林 孝 ・ 丸山 篤

人工衛星などの宇宙機での使用を可能とした第2世代宇宙用高信頼性パワーMOSFETを開発した。一般用途のMOSFETとの大きな違いは、高エネルギー荷電粒子と電離放射線に対する耐性を持たせた点である。耐量を持たせるために電気特性を犠牲にしてきた。第2世代では、高エネルギー荷電粒子に対する耐量を持たせるために、ドリフト拡散モデルに修正を行いメカニズムのシミュレーションができるようにした。その結果、対策として、低比抵抗のエピタキシャル層を厚く設けることでSEB(Single Event Burnout)耐量を確保し、世界トップレベルの宇宙用パワーMOSFETを製品化した。

超低I R ショットキーバリアダイオード

北村 祥司 ・ 一ノ瀬 正樹 ・ 中沢 将剛

スイッチング電源の小型・低損失・高効率・高温動作の要求に対し、高耐圧ショットキーバリアダイオード(SBD)の バリアメタルの種類とその形成方法を改善した。現行品に対しVFの増加を抑えつつ、I Rを1/10 以下とした100 V、120 V、 150 V、200 V 耐圧の超低I R-SBD シリーズを開発した。SBDの弱点である高温動作時の逆損失増大による熱暴走のリスクを軽減した。接合部温度175 ℃保証により高温環境化での安定動作を実現し、ヒートシンクの小型化による電源の小型・高密度実装化に貢献できる。

EPA5.0 規格対応カレントモードPWM 制御IC「FA5592 シリーズ」

朴 虎崗 ・ 藤井 優孝 ・ 山根 博樹

電気製品全般での低消費電力化と高周波数規制の要求が厳しくなりつつある。2009年7月に米国環境保護庁発効のEPA5.0規格に適合するため、従来以上に電源ICの軽負荷時特性を高める必要がある。富士電機では、低消費電力化に有効な起動素子内蔵タイプのスイッチング電源用制御ICの系列化を進めている。カレントモードPWM-IC「FA5592 シリー ズ」は、EPA5.0規格に対応し、750 V 起動素子の内蔵、軽負荷時周波数低減特性の改善、低EMIノイズ、保護機能の充実などの特長がある。

多機能ボルテージモードPWM 制御IC「FA5604 シリーズ」

佐藤 紘介 ・ 丸山 宏志 ・ 本井 康朗

電源装置には小型化、低待機電力化、高効率化、高安全性が求められている。これらの要求に対応するため8ピンボルテージモードPWM-ICを開発した。主な特徴として、電源電圧絶対最大定格35V、低スタンバイ電力機能、軽負荷時制御系電源維持機能、過負荷時ヒカップ機能、定電流垂下機能などがある。特に、定電流垂下特性を少ない外付け部品で実現できることから、バッテリなど定電流特性が求められる負荷に接続される電源を含め、さまざまな用途の電源への応用が可能である。

低ノイズ電流連続モードPFC 制御IC「FA5610/FA5611」

藪崎 純 ・ 陳 建 ・ 境 保明

スイッチング電源の普及に伴い、高調波電流が問題になっている。その対策としてアクティブフィルタ方式のPFC(Power Factor Collection)回路が広く使われている。PFC回路には、高効率・小型化に加え、低ノイズ・低コストが強く要求されてきている。今回、8ピン小型パッケージを採用しながら、スイッチング周波数を独自の方式で分散することによる低ノイズ、高力率、さらには起動時や負荷変動時などに発生する音鳴り対策や負荷変動時の出力電圧低下対策など、使いやすさを向上した電流連続モードPFC 用の制御IC「FA5610/FA5611」を開発した。

排気系圧力検出用センサ

植松 克之 ・ 田中 寛子 ・ 加藤 博文

自動車の排出ガス規制は年々強化され、内燃機関の効率化と低排ガス化が進む中で、ディーゼルエンジン車を中心に排気系の圧力検出の要求が高まっている。今回、富士電機では、吸気圧測定用として実績があるCMOSプロセスによるワンチップタイプの半導体式圧力センサを応用し、腐食性物質を含む排ガス環境に耐えうる排気系圧力検出用センサを開発した。開発したセンサは、DIN規格のSO2ガス試験において対従来比2.5 倍以上の耐腐食性を持っており、絶対圧検出用または相対圧検出用に対応している。

IGBT モジュールのサーマルマネジメント技術

西村 芳孝 ・ 大野田 光金 ・ 百瀬 文彦

IGBTモジュールを適用した電力変換装置の熱設計においては、熱伝導率が最も低いサーマルコンパウンドが大きな設計因子である。そのため、サーマルコンパウンドの厚みはIGBT チップ温度に影響を与える。本報告では、そのサーマルコンパウンドの厚さの最適化を図ってFEM 解析を行った内容、およびその結果に従った量産工程において、品質を安定させるために適用した技術について記載する。応力分布を考慮したメタルマスクパターンを使用することにより、従来の塗布方法と比較しサーマルコンパウンドの厚みを約1/3まで薄く均一に塗布することができるようになった。

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