富士時報
第83巻第4号(2010年7月)
特集1 磁気記録媒体
特集2 感光体
略語
特集2 感光体
略語
特集1 磁気記録媒体
[巻頭言] The Role of Universities in the Development of Hard Disk Drives
Professor James W. Harrell
磁気記録媒体の技術動向と今後の展望
竹野入 俊司 ・ 松尾 壮太 ・ 藤平 龍彦
磁気記録媒体の記録密度は、年率約40%のスピードで順調な進展をみせているが、このまま記録密度を伸ばし続けるためには、ここ1から2 年の間に技術的なブレイクスルーが必要である。例えば、SWR(Shingled-Write Recording)、エネルギーアシスト磁気記録、パターンドメディアなどが有望な候補である。富士電機では、これらの技術の検討とともに、高密度化のために、基板、ECC(Exchange-Coupled Composite)媒体の積層構造、HDI(Head Disk Interface)、新規高異方性磁性層材料の検討を行っている。
新しい高密度記録技術 ─高Ku磁性材料─
片岡 弘康 ・ 小宮山 和弥 ・ 高橋 伸幸
高い磁気異方性定数Ku を持ったL11 型CoPt規則合金膜のスパッタ法での合成に、東北大学と共同で初めて成功した。本材料のKu 値は、最大で3.6×107 erg/cm3に達している。加えて、低い規則度から高いKu を持つ点で、ほかの規則合金と比較して優れている。また、Niを添加した三元合金にすると、広い組成域で構造および高いKuを維持したまま、飽和磁化Ms の制御が可能である。例えば、二元合金で、希少なPt が75 at% のとき得られる磁気特性が、三元合金では、同じ磁気 特性を得るのに、Pt 量を25 at% まで削減することができる。
新しい高密度記録技術 ─エネルギーアシスト磁気記録媒体─
稲葉 祐樹 ・ 中田 仁志 ・ 井上 大輔
次世代高記録密度技術の一つであるエネルギーアシスト磁気記録方式は、室温で信号の書込みが困難である記録層に外部からエネルギーを付与し、低い磁場でも書込みを可能にする方法である。富士電機は、次の二つの方法を検討している。熱源としてレーザ光を使った熱アシスト磁気記録では、SNR が約3 dB 向上するという原理検証を行った。熱アシスト向け材料では、Co系材料で保磁力の温度勾配を従来の-15 Oe/K から-85 Oe/Kに向上させることに成功した。マイクロ波アシスト磁気記録では、Co-Pt 系材料のPtをほかの元素で置換した、ダンピング定数の小さな材料の開発を進めている。
垂直磁気記録媒体の磁性関連技術
渡辺 貞幸 ・ 久保木 孔之 ・ 穂積 康彰
垂直磁気記録媒体を高記録密度化するために開発した、記録層、中間層、軟磁性裏打ち層の三つに関する技術について述べる。記録層については、4層に機能分離して最適化設計を行い、トラック密度を高めることが可能となる新しい多層磁気記録層構造を開発した。中間層については、直上に形成される磁性粒子の粒子サイズを低減・均一化し、結晶配向が向上できる新しい材料の開発に成功した。軟磁性裏打ち層については、新しく飽和磁束密度の高い材料を開発・適用し、電磁変換特性を改善することができた。
垂直磁気記録媒体のHDI 関連技術
小林 良治 ・ 磯﨑 誠 ・ 草川 和大
磁気スペーシングを低減し、媒体特性を改善するためには、(1)カーボン保護膜と潤滑層の薄膜化、(2)磁気ヘッド浮上高さの低減、が必要である。保護膜・潤滑層を薄膜化すると、腐食抑制機能や耐久性などの信頼性の劣化が顕著になる。そこで、保護層は、膜質を制御して、薄膜化しながら耐食性と摺動(しゅうどう)耐久性の向上を同時に達成している。潤滑層は、PFPE(パーフルオロポリエーテル)の分子量・組成制御や添加剤、後処理技術を開発して、薄膜化と高信頼性化の両立を図っている。HDI(Head Disk Interface)の浮上特性の評価技術を開発しながら、磁気スペーシングの低減を行っている。
垂直磁気記録媒体の評価・解析技術
林 崇 ・ 門田 良一 ・ 林 善智
ハードディスクドライブ(HDD)の高容量化は磁気ヘッドや磁気記録媒体に代表される記録再生部品の発展に加えて、信号処理技術やトラッキング技術などのドライブ技術の発達との相乗効果によって成し遂げられている。垂直磁気記録媒体では、低周波数領域まで含めたR/W 特性が重要である。また、高密度記録化に備え、約1.3 nm までのトラッキング精度を実現している。これに加えて、サイドシールドヘッドで生じるサイドシールド近傍の記録磁化の乱れを可視化して評価を行い、媒体層構成の最適化で改善を確認している。
3.5インチ1TB 磁気記録媒体用アルミ基板
貝沼 研吾 ・ 坂口 庄司 ・ 武居 真治
2011 年には1TB/3.5”枚の磁気記録媒体がリリースされると予想される。高密度の磁気記録媒体用基板に求められる主な技術課題は、表面の超平滑化と100 nm クラスの微小欠陥を低減することである。そのために、富士電機では、グラインド基板作製工程やめっき成膜工程、ポリッシュ工程、洗浄工程などのアルミ基板の製造工程の高度化を図っている。基板工程で生じる代表的な微少欠陥には、パーティクル、スクラッチ、ピットなどがある。欠陥を一つずつ解析して、分類と原因を明らかにする作業を通じて各工程の改善を行い、品質の向上と次世代の媒体への対応を図っている。
特集2 感光体
[巻頭言] 感光体の物理過程と新しい展開
内藤 裕義
大阪府立大学教授
感光体の現状と展望
成田 満 ・ 大日方 孝
エネルギー・環境の観点から、電子写真の分野でも省エネルギー(省エネ)化が求められている。電子写真方式のプリンタや複写機の今後の伸長率は、約8% が見込まれている。これに伴い、電子写真技術のキーデバイスとしての感光体も同様な伸長率が見込まれている。富士電機は、OPC の生産拠点を中国・深地区に統合して、全世界の需要に対応している。また、省エネを追求した正帯電積層型を新たに加え、五つの製品系列(負帯電型のプリンタ用、アナログ複写機用、デジタル複写機用および正帯電型でプリンタ用の単層型と積層型)をそろえ、省エネと地球環境にやさしい製品を提供している。
有機感光体用材料技術
鈴木 信二郎 ・ 北川 清三 ・ 中村 洋一
富士電機では、画像形成機能への要求(高感度化、高安定化など)とともに電子写真装置の環境負荷低減技術に対応した有機感光体(OPC)の開発を進めている。独自のコンピュータ分子設計と化学合成技術を使って、機能材料、高分子材料、添加剤の開発を行っている。装置の小型化、資源保護、リサイクル化、高耐久化といった要求に対応するため、下引き層の樹脂、電荷発生材料、電荷輸送層の添加剤などの新規材料開発により、OPC の環境特性の向上、感度特性の改善、省エネルギー化対応や耐刷性向上を実現した。また、材料安全評価や環境関連法令にも対応した体制を整えている。
プリンタ用有機感光体
森田 啓一 ・ 池田 豊 ・ 田中 靖
富士電機は、負帯電型有機感光体の製品系列として、さまざまな露光光量に対応できるように低感度、中感度、高感度の3 種類を用意している。また、多様化する用途と高機能・高品質化の要望に応えるために、独自の評価技術、分析技術、材料設計により、高応答性、高精細性、高耐久性および高信頼性を実現している。さらに、環境にやさしく解像度が高いという特徴を持つ正帯電型有機感光体では、低速型から高速・高耐刷型の単層タイプに加え、高感度・高速応答が得られる積層タイプを業界で初めて本格的に製品化した。
デジタル複写機用有機感光体
宮本 貴仁 ・ 濱田 修一 ・ 中村 友士
富士電機は、デジタル複写機用OPCとして、複写機の光源であるLD(レーザダイオード)やLED(発光ダイオード)の600から800 nmの波長に感度を持つタイプ10A(低感度)、タイプ10B(中感度)、タイプ10C(高感度)をそろえている。従来よりも、ファーストコピー時間の短縮を図るため、帯電性の改善を行っている。帯電特性の劣化を防ぐため、コンピュータ分子設計などを活用して、下引き層と電荷輸送層用材料を開発し、適用した。その結果、耐刷性を従来よりも2 倍以上改善し、複写機のランニングコストの低減に貢献している。
有機感光体の評価技術 ─潜像評価─
会沢 宏一 ・ 長谷川 知貴
電子写真の高速化、カラー化、軽印刷分野への展開のため印字の高解像度化が重要である。感光体上の電気潜像形成機構解明のため、検知レーザ照射による感光体表面電荷変化を誘導電流として測定する微小面積表面電位測定プローブ(MASPP:Micro Area Surface Potential Probe)法と静電気力顕微鏡(EFM:Electrostatic Force Microscope)法を開発した。高移動度感光体では、露光(印加電圧)に対応した電位分布よりも潜像電位は広がり、低移動度感光体では、印加電圧に忠実で表面電位分布に近い精細な潜像電位となることを示した。
略語(本号で使った主な略語)
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注
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