富士時報
第84巻第2号(2011年3月)

特集 品質保証と信頼性技術

〔巻頭言〕信頼性技術の今

夏目 武
筑波技術短期大学名誉教授

富士電機の品質保証と信頼性活動

柴田 和郎

科学技術の進歩や生産の海外拠点へのシフト、顧客ニーズの多様化、地球環境への配慮など、企業活動を取り巻く環境は大きく変化している。富士電機は、“お客さまに満足いただける良い製品を提供する”ために、“品質第一”を基本姿勢として、品質保証体制や生産技術の標準化、開発・製造における品質・信頼性の作り込みを行っている。また、信頼性活動として、シミュレーション技術の活用による信頼性設計への対応、生産活動を支える品質教育の推進、ならびに失敗を生かしたトラブルの再発防止などに取り組んでいる。

地熱発電プラントの信頼性を向上させる技術

中村 憲司 ・ 村尾 敦史 ・ 牧元 静香

地熱発電で利用する蒸気には不純物やガスが含まれており、腐食やガス停留による機器の稼動率・性能低下の要因となる。これに対し富士電機では、蒸気タービンの耐食性を高める加工技術や材料選定、復水器性能を向上させる効率的なガス排出、および腐食性ガスから発電機を保護する種々の策を実施している。また、プラント設計にHAZOP (Hazard and Operability Study)を取り入れるとともに、蒸気性状自動分析装置を開発し、運転上の安定性と安全性を高めている。このように、機器単体とプラント全体の両面から、地熱発電プラントの信頼性を向上させている。

缶飲料自動販売機の品質・信頼性の作り込み

富松 和成 ・ 中条 孝則 ・ 井下 尚紀

缶飲料自動販売機は、いつでも利用者に安全に安心して満足いただける商品を提供できることが必要である。さらに、あらゆる環境で商品販売機能を維持できる高品質と高信頼性が要求される。富士電機の缶飲料自動販売機は、企画段階からデザインレビュー(DR)による品質および信頼性の作り込みを行って目標とする顧客の要求仕様(FQCDS)を達成している。DR には、開発から市場まで品質保証を行うための主体となる本体DR、新たに自動販売機に採用する機能のための先行機能DRおよび自動販売機制御のためのソフトウェアDRがある。

車載用半導体製品の品質・信頼性の作り込み

山口 浩二 ・ 増渕 肇 ・ 岡本 泰作

自動車分野では安全性・利便性・快適性の向上に向けて、機構部品の電子化が急速に進められている。車載用半導体の故障は、車両停止につながる可能性があるため安全確保が最優先であり、品質・信頼性の要求水準が高い。富士電機は、目標品質達成のために開発・設計から生産段階までのすべてのフェーズにおいて入念な取組みを行っている。設計段階のポイントとして、車載用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)ではパワーサイクル寿命評価とシミュレーション検証を行っている。生産段階では量産工程における品質の作り込み、特に異常検出感度の向上と流出防止技術の強化を図っている。

器具製品の品質・信頼性の作り込み

空本 高寧

器具製品の中でも配線用遮断器と漏電遮断器は重要な保安機器として、製品規格の認証でも厳しい条件が課せられており、すべての製品に対して高い品質と信頼性が求められている。富士電機は、最新の解析技術や要素技術、信頼性評価技術を取り入れるとともに、開発設計段階から製品組立段階までの各段階において製品の品質と信頼性の作り込みを行っている。製品構造へのものづくり思想の盛込み、樹脂成形部品の内製化、接合技術の信頼性向上、IT 技術の活用、製造管理システムの構築、保守管理体制の構築を推進することで、製品の品質と信頼性の作り込みに努めている。

製品の品質・信頼性に貢献する金型技術

宮本 幸雄

コンポーネント製品は、構成部品の多くが、金型を用いたプレス・成形による加工部品であり、金型の品質の良否は最終製品の品質に大きく影響する。富士電機は、品質に多大な影響を及ぼす変動要因を事前に調査・予測し、変動による加工部品のばらつきを最小化させる金型技術や加工ノウハウに基づいた金型を製作し、各生産拠点に供給している。金型技術向上の取組みとして、解析技術と品質工学の適用による加工部品の寸法安定性向上や金型の長寿命化による成形稼動率の向上、金型の汚染防止による成形品の品質向上により、製品の品質・信頼性に貢献している。

機械系シミュレーションによる信頼性向上

山本 勉 ・ 大野 和彦

富士電機では、応力や振動・温度上昇の低減を通じた製品の信頼性向上を実現するため、強度・振動や熱冷却を中心とした機械系シミュレーション技術の開発と適用を進めている。振動解析では、タービン発電機の固定子コイルエンドにおける電磁力との共振回避を目的とした振動シミュレーション技術を構築し、製品開発に適用している。冷却設計の分野では、汎用インバータを対象に、主回路配線で生じる発熱分布を電流解析によって計算し、ヒートシンクやプリント基板を含む製品温度を推定するシミュレーション技術の開発を実施し、製品の熱的信頼性の確保に努めている。

パワーエレクトロニクス機器のEMC 対応設計技術による信頼性向上

玉手 道雄 ・ 林 美和子 ・ 皆見 崇之

電気電子機器の誤動作などの電磁妨害に対する信頼性向上のための技術にEMC(Electromagnetic Compatibility)が挙げられる。インバータなどのパワーエレクトロニクス(パワエレ)機器は、半導体の高周波スイッチングにより大きな電磁ノイズを発するため、十分に電磁ノイズを低減することが求められている。富士電機は、複数の解析ソフトウェアを活用して発生する電磁ノイズ(伝導ノイズ、放射ノイズ)を推定し、試作前に対策を行うEMC 対応フロントローディング設計の製品適用を進めている。この技術は、パワエレ機器自身と周辺機器の信頼性向上に寄与する。

組込み機器における信頼性技術

伊藤 徹 ・ 大野 勝史

組込み機器に実装される機能は多様化し、求められる性能も向上の一途である。富士電機は、ハードウェア開発においては、熱流体解析、SI 解析、電磁界解析の技術やツールを早くから導入しプリント板開発の品質向上に効果を上げるとともに、統一部品データベースを構築して信頼性を確保している。ソフトウェア開発においては、組込みプラットフォームやプロダクトライン開発技術、および開発プロセスの継続的な改善活動により信頼性を確保している。また、機能安全の要素技術を組込み機器製品の信頼性向上に活用している。

製品の品質・信頼性を支える評価技術

塩川 国夫 ・ 岡本 健次 ・ 岸 郁朗

製品の品質・信頼性を確保あるいは向上するためには、故障・劣化モードを特定し、それに基づいた部品のスクリーニングや信頼性改善による初期品質の確保、使用条件での信頼性評価が必要となる。富士電機は、初期故障の防止に重要な品質評価では、製品の基本特性である電気特性評価や強度特性評価のほか、非破壊試験や騒音特性評価などを実施している。耐久性を評価する信頼性評価では、製品の信頼性向上と長寿命化に伴い加速寿命試験(腐食、疲労、振動評価など)を行っている。また、故障解析を基にした再発防止や、余寿命診断による予防保全に取り組んでいる。

製品の品質・信頼性を支える分析・解析技術

植田 厚 ・ 寺西 秀明 ・ 森 大輔

製品の品質・信頼性を確保するためには、その開発や製造過程において、信頼性を裏付けるデータを蓄積し、反映させるための多種多様な分析・解析技術が必要である。富士電機のパワー半導体では、二次イオン質量分析法によるドーパント(微量添加元素)の深い拡散構造の分析や、後方散乱電子回折法による接合状態の微視的な結晶構造の解析などを行っている。磁気記録媒体では、磁気記録層や保護膜の膜質、膜厚などを正確に評価するため、透過型電子顕微鏡や放射光施設を活用したX 線吸収微細構造解析法を用いて検証している。

解説

略語(本号で使った主な略語)

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