富士時報
第85巻第2号(2012年3月)

特集 受配電・制御機器コンポーネント

特集 受配電・制御機器コンポーネント

〔特集に寄せて〕再生可能エネルギー利用と受配電・制御機器

松村 年郎
名古屋大学大学院工学研究科教授 工学博士

最新機器の特徴技術

受配電・制御機器コンポーネントの現状と展望

淺川 浩司

受配電・制御機器コンポーネントは、工業の原動力である電気設備に不可欠な構成要素として大きく進化してきた。富士電機は市場動向を踏まえ、さまざまな取組みを行ってきた。海外の主要規格に対応することでグローバル化を進め、直流高電圧用機器の開発でエネルギー・環境分野への対応を強化している。高度情報化を支える受変電設備においては電力供給の安定性・信頼性を向上するとともに、保守点検を容易にすることでライフサイクルコストを低減した。また、開閉機器や低 圧遮断器、中国・アジアなどの新興国向け専用品、電力監視機器では、小型化や高性能化を実施した。

ミニコンタクタ「SKシリーズ」

大久保 幸治 ・ 堤 貴志 ・ 秦 淳一郎

生産設備や機械装置において、小型化・省電力化の要求が高まっている。ミニコンタクタ「SKシリーズ」は、この要求に対応して開発した世界最小サイズのコンタクタである。
外形寸法の小型化により設置できる範囲を広げるとともに、高い絶縁性を兼ね備えることで高電圧での適用を可能にしている。接点部構造は絶縁機構や耐熱絶縁材料で工夫し、電磁石構造はスプリング特性の最小化や効率化を追求した。また、海外規格への適合や豊富なオプションの品ぞろえにより、顧客のさまざまな要求に応えている。

サーマルリレー「TK12シリーズ」の小型化技術

森下 文浩 ・ 古畑 幸生

近年、省資源化・省エネルギー化が進む中で、生産設備などに使用する制御盤や機械装置には、省電力化に加えて省スペース化が求められている。これらの装置の構成部品であるサーマルリレーにも、小型化・消費電力低減の要求がいっそう高まっている。富士電機はこれまで培った技術を生かして、部品点数の削減や筐体への熱可塑材料の適用、ヒータ設計の改善などで小型化を追求し、サーマルリレー「TK12シリーズ」を開発した。安全性・操作性のグローバル対応を行い、IEC60529 に準拠した端子カバーを標準で装備した。

小型32から63AF低圧遮断器

浜田 佳伸

富士電機では多様化する市場ニーズに応えるため、グローバルツインブレーカ「G-TWIN シリーズ」の新たなラインアップとして、小型32から63AFの低圧遮断器を開発中である。設置面積を従来品の72% に縮小しており、盤および装置の小型化に貢献できる。さらに、遮断性能を1.5倍に向上して業界最高レベルの小型・高遮断性能を実現した。小型化技術では新型リンク機構や熱動電磁形の過電流引外し機構を採用し、高遮断技術では独自の1接点アーク転流遮断方式を採用したことが特徴である。また、付属装置の拡充によるユーザインタフェースの向上を図った拡張性の高い製品である。

データセンター向け低圧遮断器

佐藤 佑高

データセンターの電源設備には、電力供給の高信頼性やノイズ発生の低レベル化ならびに設備の変更・メンテナンス性の容易化が要求されている。富士電機では、電力供給の高信頼性を実現するために高い限流性能を持つ「BM3シリーズ」を採用して選択遮断協調を行っている。また、作業の効率化のためにブスバーにプラグインで取り付ける低圧遮断器を開発するとともに、高調波対策としてN相強化形の低圧遮断器を開発した。これらの低圧遮断器を用いた設備事例において、データセンターの電気工事における適用課題と技術的対処法を検証した。

ドライエア密閉形キュービクル用真空遮断器

大澤 雪雄 ・ 臼井 英人 ・ 藤城 智

真空遮断器(VCB)は、保守点検のための停電時間や要員の確保が難しくなってきていることや、ライフサイクルコスト低減の要求があることなどから、保守点検の省力化が求められている。また、VCBの開閉動作特性を監視して保守点検を決める予防保全の要求も高まってきている。富士電機は、ドライエア密閉形キュービクル用の電磁操作形VCBを開発した。投入状態保持用ラッチ機構を投入用電磁石に内蔵した永久磁石の磁力に置き換え、電磁石のプランジャと真空バルブを連結して構造の簡素化を図った。点検項目が少なく、コイルの電流や電圧の測定で開閉動作異常を検出できる。

高圧受配電用ディジタル形保護継電器「QHAシリーズ」

國分 多喜雄

最近の保護継電器には、電力システムの信頼性向上や日常点検の負荷の低減とともに、太陽光発電などの分散型電源の電力系統連系への適用が求められている。富士電機は、保護特性の充実や動作整定値を拡充し、信頼性を向上させた高圧受配電用ディジタル形保護継電器「QHAシリーズ」を開発した。高圧受配電用に加えて、太陽光発電などの分散型電源と商用電源との系統連系に適用するために、動作値や動作時間整定値のきめ細かな設定を可能にした系統連系用の保護継電器2機種をシリーズにそろえている。

設備監視およびエネルギー監視システム用機器
―「F-MPCシリーズ」の拡充―

田澤 勇治 ・ 谷 敏明 ・ 町田 悟志

富士電機では、受配電系統における省エネルギーと電力供給の高信頼化の実現に向けて、さまざま製品を提供している。省エネルギーの推進のために、分電盤など末端の設備を効率的に監視する小型の電力計測装置「F-MPC04E」、電力パルスの計測や電力以外のエネルギー量の監視と警報出力を行うディジタル入出力ユニット「F-MPC I/Oユニット」、インテリジェント化した重要設備の漏電を常時監視するIgr 絶縁監視装置「F-MPCIgr」を取りそろえた。従来の「F-MPC シリーズ」機器およびパッケージソフトウェアと組み合わせて、電力監視と絶縁監視を同時に実現できる。

機器を支える基盤技術・生産技術

受配電・制御機器コンポーネントにおける技術の変遷と動向

高橋 龍典

クリーンエネルギー電源を扱う機器コンポーネントには、小型化かつ直流高電圧化の要求が高まっている。直流を遮断、開閉するには、機器の小型化に反して接点ギャップを大きくし、電源電圧以上にアーク電圧を瞬時に上昇安定させて絶縁性を確保する必要がある。この課題の解決に向けて、これまで交流で蓄積してきた受配電・制御機器のコア技術について、機種共通の基盤技術や固有の独自技術の変遷と動向を、商品とものつくりの観点で整理した。電流を気中で遮断、開閉する方法に縛られない有接点機器の技術分野を開拓することで、高信頼性を有する交直流相互の機器ブランドを目指す。

直流配電システムの開閉保護技術

恩地 俊行 ・ 工藤 高裕 ・ 外山 健太郎

太陽光発電に代表される再生可能エネルギーの適用拡大、蓄電池システムの普及などにより、直流による配電システムが急速に拡大している。富士電機は、直流配電システムの安全を支える保護技術の開発に取り組んでおり、高電圧化などの市場要求に応えた直流遮断器の提供を始めている。直流電流の遮断のために必須となるアークの制御技術や電気回路とアークの相互作用を利用した遮断方式の原理を検証した。また、直流漏電を検知するため、高感度な電流検知方式であるフラックスゲート方式の要素技術を開発し、同方式の有効性を検証した。

直流高電圧用ブレーカの遮断技術

森合 浩

近年、太陽光発電など再生可能エネルギーやデータセンターの普及とともに直流送配電の適用が増えている。富士電機では、市場の要求に対応し、直流回路専用ブレーカの適用範囲を拡大させてきた。今回、太陽光発電設備のパワーコンディショナに使用される直流高電圧(DC750V、DC1,000V)用ブレーカを開発した。遮断シミュレータと遮断試験によるアーク電圧の検証、磁界解析と遮断試験によるアーク駆動の検証によりブレーカの消弧室構造を最適化し、従来品よりも高電圧に対応し高い遮断安定性を獲得した。

受配電・制御機器コンポーネントの環境対応材料技術

吉澤 利之 ・ 関口 潔 ・ 古川 雅晴

RoHS指令、REACH 規則、POPs条約などの環境対応規制の強化や地球温暖化などの環境問題への対応のため、材料に対する要求は年々厳しくなってきている。富士電機は、部品に使用する材料の熱硬化性樹脂から熱可塑性樹脂への代替や、グリースの鉛フリー化を実現した。また、難燃樹脂材料の非ハロゲン化に取り組み、りん化合物系難燃剤を用いることで実現可能であることを確認し、切替を予定している。金属材料については、接点のカドミウムフリー化を推進し、溶着性や温度上昇値の目標を達成し代替を実現した。PFOSフリー化についても代替めっき液を開発し切替を完了した。

受配電・制御機器コンポーネントの設計を支えるシミュレーション技術

坂田 昌良

受配電・制御機器コンポーネントのシミュレーション技術には、ケースの強度や構造部品の小型化などを検討する構造強度解析、接点の開閉やハンドル操作などの効率を向上するために行う機構解析がある。製品の小型化に直接影響する熱問題では、ケースやプリントの板などの熱解析を行い、最適な部品レイアウトに生かしている。その他にも、電磁界解析や樹脂流動解析、熱導体・電磁界連成解析などを行っている。現在では、構想設計の段階でシミュレーションを用いることにより、機能や仕様を満足する設計となっているかどうか判断できる。

受配電・制御機器コンポーネントのものつくりを支える生産技術

涌井 正平

富士電機はユーザのニーズに応えるさまざまな新商品を開発している。これらをタイムリーに供給することは、生産技術の責務であり、近年の経済環境の変化に対応できるものつくり体制の強化を図っている。国内拠点では在庫の半減、サプライチェーン改革、効率的な自動化ラインの研究などに取り組み、また海外拠点で生産リードタイムの短縮に効果的な部品や部材の現地調達、品質を保証するための簡易自動化や試験設備導入などを行っている。さらに、継続的な製造技術開発や技能の伝承を確かなものにする人材育成により、安心できる商品を安定的に供給する体制を構築している。

解説

EC指令、CCC強制認証

略語・商標

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