富士時報
第61巻第2号(1988年2月)

燃料電池の商業化を目指して

吉田 邦夫

燃料電池技術の現状と展望

穴原 良司,三重野 勲

世界の燃料電池技術開発とその実用化は米、日、欧を巻き込んで活発な展開をみせており、特にリン酸形については実用化への足取りが早まり、溶融炭酸塩形に対しては世界的に開発ムードが高まっている。
富士電機はリン酸形燃料電池開発について第一人者の地位をもっており、その状況を具体的プロジェクトごとに概説し、あわせてその実用化への考え方を述べた。また、溶融炭酸塩形についても富士電機の技術的特長を述べ、更に将来開発への展望を述べた。

リン酸形燃料電池1,000kW発電プラントの建設
(ムーンライト計画)プラントの概要

篠部 健治,鈴木 和夫,金子 秀男

リン酸形燃料電池は、近未来に実用化が可能である電源として有望視されている。富士電機は1981年以来、新エネルギー総合開発機構の委託により、リン酸形1,000kW発電プラントの試作研究を続けており、最近1,000kW発電に成功するとともに多くの貴重な経験を得つつある。本稿では、プラントの概要と現在までに得られた研究成果、今後の課題について概要を述べた。

リン酸形燃料電池1,000kW発電プラントの建設
(ムーンライト計画)燃料電池本体

広田 俊夫,山崎 善文,山川 嘉之

昭和48年から行われてきた触媒、電極などの自主研究とともに、1981年から新エネルギー総合開発機構の研究委託を受け、冷却技術、ガス等配技術、締付技術、シール技術などの積層技術に関する要素技術開発を行い、それらを基に昭和59年度から1,000kW発電プラント用DC260kWのスタック2基を製作した。その工場試験結果では、各種の初期電池特性はすべて目標値をクリアするとともに、小形セルにより今まで実施した13,000時間の寿命評価試験において、寿命に関しても良好な結果が得られた。

リン酸形燃料電池1,000kW発電プラントの建設
(ムーンライト計画)燃料改質装置

金子 秀男,山口 克誠,片桐  務

燃料電池発電システム用の天然ガス改質器は、化学工業用のそれと異なり、負荷追従性が良い、コンパクトである、などの必要がある。
ここではそのために行った燃焼技術、動特性についての要素技術の内容、実際の1,000kW リン酸形燃料電池発電システム用改質器の構造及び試験結果について概要を述べた。

リン酸形燃料電池1,000kW発電プラントの建設
(ムーンライト計画)直交変換装置

江口 直也,井村 輝夫,桑山 仁平

ムーンライト計画1,000kW 燃料電池発電プラントの中で、燃料電池から出力される直流電力を交流に変換し、電力系統に供給する直交変換装置について述べた。この装置は、GTOによる準24相位相制御式電圧形自励インバータ方式を採用し、高効率(96%)、低ひずみ(各次1%、総合2%)、無効電力処理・各種保護機能など、実用レベルに準ずる性能となっている。本装置の構成、動作原理、制御方式などを説明し、工場及び現地〔関西電力(株)堺港発電所〕において得られた試験結果の概要を紹介した。

50kWリン酸形燃料電池発電試験設備

齋藤 哲郎,波多野誠喜,長村 正夫

東北電力(株)と富士電機(株)は、昭和60年8月に「リン酸形燃料電池の実証研究に関する共同研究契約」を締結した。この契約の中で、50kWのリン酸形燃料電池発電プラントを製作した。このプラントは、小規模ではあるが将来の事業用燃料電池発電設備の縮小モデルとして構成されている。
国産初の加圧形プラントであり、昭和62年5月から実証運転に入っている。現在、各種運転データを採りつつあるが、本稿では主として設備概要を紹介した

小容量燃料電池発電装置の開発

辻  義克,田島 博之,鴨下 友義

富士電機では燃料電池の早期実用化を目指して、「小容量リン酸形燃料電池」を開発している。これは、空冷式で、燃料にはメタノールを採用している。
汎用機の開発に先立って製作され、現在運転中の北陸電力(株)向けDC4kW機と四国電力(株)向け
4kW/5kVA機の内容を説明した後、小形汎用燃料電池の構成と標準仕様を紹介した。

リン酸形燃料電池の技術開発

桜井 正博,近藤 一夫

リン酸形燃料電池は早期の実用化が期待されており、現在活発な研究開発を行っている。本稿では、電池本体の要素技術の中で、電池の電流・電圧特性及び寿命特性に大きな影響を持つと考えられる触媒電極技術を中心に、寿命評価及び電解質マトリックスを含めて、富士電機における最近の研究結果の概要及び技術開発状況について報告した。特に、触媒電極においては触媒の組成、触媒電極の製作法に改良を加えることで電池特性向上を図るとともに、特性低下を引き起こす要因について検討を加えた。

溶融炭酸塩形燃料電池の開発

小林  喬,仲西 恒雄,小関 和雄

溶融炭酸塩形燃料電池は、リン酸形に次ぐ第二世代の燃料電池として期待され、国内外で精力的な研究が行われている。
富士電機は、昭和62年に電極面積2,500cm2の大形7kW積層電池(積層数24セル)を開発し、新エネルギー総合開発機構の目標性能をクリアした。大面積化に当たっては、特に電解質版について抄紙法という新しい製法を開発し、耐ヒートサイクル性も優れていることを示した。
本稿では富士電機の開発経過、電池構造、セル特性、システムなどを紹介した後、今後の開発課題を述べた。

アルカリ形燃料電池の開発

原嶋 孝一,渡辺 俊二

アルカリ形燃料電池は、米国で宇宙用など特殊用途について開発が進められている。日本では富士電機が一般用途向けの開発を目標に、電極、セル構造及びシステム構成について研究を行ってきた。この技術を基に、昭和60年度から製品化の開発を進め、CVCF非常用電源の試作、現地試験を行った。現在、可搬式(移動用)電源の試作、評価を行っている。これまでに確立した技術と、製品化開発の現状について報告した。

燃料改質装置の技術開発

谷口 義貞,新海  洋,大澤  勇

今日、燃料電池開発装置に利用される原燃料は、天然ガスとメタノールが最も一般的である。
燃料電池用の水蒸気改質器に必要とされている要求事項について述べたあと、メタノール改質器について小容量燃料電池用とオンサイト燃料電池用の技術開発について紹介した。
オンサイト用は、ムーンライト計画による離島用燃料電池発電システムとして開発中のものである。

燃料電池発電プラントの実用化に向けて

三重野 勲,篠部 健治

燃料電池発電プラントは、特性実証のための各種プラントの開発・試作が実施されている。富士電機もオンサイト用として50kW 装置や、電力事業用としての1,000kW 発電プラントを試作あるいは運転中である。
燃料電池の実用化には多くの技術課題が残っているが、実用化の最大阻害要因はプラント価格が高いことにある。
富士電機はこれら課題を克服して、実用化に向けて努力する覚悟である。

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