富士時報
第61巻第4号(1988年4月)
アドバンスト制御・シミュレーション特集
アドバンスト制御・シミュレーション特集(実用化支援ツール)
制御技術の新しい展開
有本 卓
アドバンスト制御とシミュレーションの実用化の概要
太田 徳二,竹山 良雄
アドバンスト制御の実用化の動向を述べるとともに、富士電機での具体例を整理してその特徴を紹介し、工業製品として実際に納入できるものを明確にした。
新しい制御方式を適用するためのエンジニアリング作業に注目し、その中でのコンピュータシミュレーションの重要性を述べる。このような作業が非常に高度なものを必要とするために、近年のAI技術の有効利用にも注目している。
本稿は、アドバンスト制御・シミュレーション特集の概要である。
アドバンスト制御設計用対話形ソフトウェアSAPL
竹山 良雄,黒谷 憲一
プロセス制御における制御性向上や操業の信頼性向上、自動化、無人化のために、アドバンスト制御の導入、実用化が計測・制御の分野で進められている。アドバンスト制御設計用対話形ソフトウェアSAPLは、アドバンスト制御の実用化を効率良く迅速に行うための設計用ツールである。プロセスデータベースを利用して、古典制御理論形、現代制御現論形のPID制御、無駄時間制御や最適制御などの各種制御パラメータの設計ができる。このSAPLを利用したアドバンスト制御の実施例についても紹介した。
二方向適応制御システムGISTLAX
伊藤 正満
一般に非線形な特性を持つプロセスは操業条件の変更によりその特性が変化し、制御パラメータの最適値はプロセスの非線形特性に対応して変動する。また、プラントの経年変化によっても変動する。
このような問題を解決するためには、プロセス特性の変化をプロセスの非線形特性による急激な変動とプロセスの経年変化による緩やかな変動の二つに分類し、両方向に制御パラメータを適応させる二方向適応制御が有効である。本稿では、この二方向適応制御を実現するための設計ツールであるGISTLAXを紹介した。
評価関数による位置決め制御システム
永田 正伸
従来、産業プラント設備(鉄鋼プロセスライン、抄紙機など)に対する位置決め制御では、設備が大形で、負荷変動が多きいことから、高精度な位置決めと減速時間の短縮を同時に満足することが困難であった。
本稿では、従来から行われている制御方式に、評価関数を導入することによって、これらの問題を解決した位置決め制御システムについて説明した。
汎用ファジィコントロールシステムFRUITAX
伊藤 修,柳下 修
ファジィ制御は熟練者と同等の制御をコンピュータで実現する制御方法である。このファジィ制御システムを容易に構築できるツールFRUITAXを開発し、実プラントで稼動している。FRUITAXはマイクロコンピュータと制御用コンピュータ上で動作し、制御規則の拡充のための種々の対話処理機能、シミュレーション機能、操業データから制御規則を設計するための支援システム備えている。
FRUITAXの構成、特長及び適用方法を浄水場の前塩素注入制御を例に紹介し、その適用高価についても言及した。
プロセス制御用AIツールEIXAX
津田 宗,高山 貞子,金野 聡
専門家のもつ知識を内蔵して同レベルの回答を行い、知識の整理メンテナンスの容易なエキスパートシステムは知識工学の中で実用化されている唯一のものである。EIXAXはプロセス制御向きES構築ツールであり、日本語と数式で知識ベースの構築を行い、リアルタイムで推論を行う。本稿では、EIXAXの構造、特長、及び支援機能について述べ、知識表現と推論方法を説明した。
物流制御システム構築ツールΦNET
川合 成治
FA技術がローカルなFMSからトータルな自動化を目指すCIMへ進展していくなかで、生産管理システムと現場の制御システムを結合する物流制御が重要になってきた。物流制御システムは、頻繁な仕様変更に対応できる柔軟性かつ拡張性に富んだシステムが要求される。ΦNETはこれに対しネットワーク技術とAI技術を結合させて作られた物流制御システム構築用ツールである。本稿ではΦNETの考え方、システム構成、システム構築手順とその効果について述べた。
AI・アドバンスト制御用ワークステーション
太田 徳二,川原 浩,黒谷 憲一
プロセス制御において、より高い生産性・品質の向上、自動化領域の拡大が求められている。そのため、アドバンスト制御やAIの適用が進んでいる。AWSはこれらの適用のためのエンジニアリング作業を効率良く行うためのワークステーションである。プロセスデータをもとにプロセスの特性を把握し、最適制御や適応制御といったアドバンスト制御用の各種パラメータの設定を行う。更に、エキスパート制御を実施するための知識ベースの構築並びにシミュレーションによる検証を行うことができる。
アドバンスト制御・シミュレーション特集(実用例)
同期発電機の適応制御システム
植木 芳照
同期発電機制御と、STR形適応制御を適用した実用レベルのディジタル制御システムTAGECを開発した。本システムは、励磁系と調速系を統合し、系統特性変化や発電機動特性変化に適応した制御を行う。この結果、従来はその制御が困難であった長周期の電力動揺抑制が可能となった。また、電力系統の安全度を大きく改善し、既設設備の有効利用による経済的効果も期待できるシステムである。
水道におけるアドバンストコンピュータシステム
伊藤 晴夫,上本 憲嗣,渡辺 光範
水道においてはライフラインの確保、維持管理体制の充実が主要な課題である。これを達成するには、従来のプロセス監視制御システムのレベルアップに加えて、水道施設全体を水の生産・輸送システムとしてとらえ、各サブシステム間の有機的、効率的な運用管理を担う統合管理システムの構築が必要である。
水の運用管理面での中核となる水運用・配水管理システム、及び施設情報管理システム、最新の技術を盛り込みアドバンストコンピュータシステムとして体系化した。
下水道流入プロセスのアドバンスト制御
臼井 正和,長原 洋二,高見澤真司
近年の下水道における自動制御は、急激な都市化により広域に分散した下水道施設(管きょも含む)全体を対象とした総合的水量管理制御が求められている。このような要求に対して雨水流入プロセスには、ARモデルによる雨水流入予測とファジィ抑制を適用した雨水ポンプ制御とを結びつけ、浸水の危険性を抑え、効率的なポンプ運転が期待できる制御技術を確立した。また、汚水流入プロセスに対しては、統計的手法とカルマンフィルタ法による汚水流入予測と、DP法による汚水ポンプ制御を結びつけ、汚水流入量の平滑化を実現した。
電動力応用プラントのオブザーバの適用
大内 茂人,栃木 勉
産業界においては、年々、高品質・高信頼性、省力化などの要求が高まっている。一方、マイクロプロセッサの発達に伴い、制御のディジタル化も進んでいる。このような状況のもと、ディジタル制御理論に基づいた新制御方式の確立が急務となってきた。
本稿では、電動機負荷トルク推定用最小次元ディジタルオブザーバを、電動機速度変動抑制及び軸ねじり振動抑制、また張力推定及び張力振動抑制の各制御分野へ適用した場合について、その概要を紹介した。
知的エネルギー管理制御システム
荻野 慎一,渡辺 光宏,津田 宗
プロセス制御システムへは、省力化、ソフトウェア開発・保守コストの低減化が近年強く求められている。今回、自動制御を目的としたAIツールであるEIXAXを核とし、徹底したプログラムレス志向のもとに、エネルギー管理制御用のエキスパートシステムを開発した。本システムは、32ビットマイクロコンピュータに、EIXAX、数理計画法、統計解析法を有機結合して実施させた点、及びあらかじめ基本的アプリケーションプログラムとルールを組み込んだ即時利用可能システムとして構成されている点に特徴がある。
密閉OGにおけるアドバンスト制御の適用
坂梨 暢泰,福本 武也,川合 成治
転炉排ガスを未燃焼のまま冷却、集じん、回収するOG設備において、排ガス回収量の向上を図ることが省エネルギー対策上極めて需要である。今回最適制御、適応制御を用いたアドバンスト制御を導入して、密閉OG炉圧制御システムを完成し、排ガス回収量の増大のみならず製鋼歩留りの向上及び操業の自動化に大きな成果を得た。本稿では適用したアドバンスト制御方式の概要と、実操業結果について紹介した。
連続焼鈍炉板温制御
中谷 一彦,川合 成治
鉄鋼における連続焼鈍炉設備は、他の設備のコンビネーション化、高速化、多品種多処理化の傾向が強く、これらの設備に対して、高度な計装技術が望まれている。本稿では、製品の品質決定に重要な役割を担っている板温制御について、プロセスモデル、板温制御機能、シミュレーションについて記述した。また、連続焼鈍炉設備に関し、分散制御システム(MICREX)を使用したシステム構成例を紹介した。
セメントプラントのアドバンスト制御
小池 康治,川合 成治,海藤 勝
セメントキルンプロセスはバーナマスタと呼ばれるエキスパートの活躍に依存し、自動化が遅れている。そのプロセスを自己回帰モデルで表現し、「最適制御を行う安定制御」と「論理形制御による回復制御」、「オペレータガイドによる修正制御」の三つのモードで構成されるキルン制御モデルを適用する方法と、そのモデルの実操業における適用結果について紹介した。実操業では燃料原単位、安定運転に顕著な効果を示した。今後は継続的な改善のためファジィ制御及びAIとの組合せを提案した。
ロボットマニプレータのアドバンスト制御
大柴 雄夫,伊藤 正満
ロボットマニプレータの性能向上に対する要求から、位置決めの高精度化、高速化が求められ、新しい制御方式の適用が課題となっている。
本稿では、DDモータを用いた2自由度のマニプレータについて、慣性の変動に対する適応制御の有効性をシミュレーションにより確認した結果について紹介した。また、マニプレータの位置決め終了時に問題となる、構造的な不安定さから生じる振動現象についてもシミュレーションで解析した結果を述べた。
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注
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