富士時報
第61巻第11号(1988年11月)
パワーデバイス特集
特集論文
パワーデバイスの第四世代に向けて
正田 英介
パワーデバイス技術の現状と動向
内田 喜之
パワー半導体デバイスの開発の重点は、大容量化、高機能化、インテリジェント化と時期的に重複しながらも、移行しつつある。本稿では、主として高機能化の動向を、高hFEパワートランジスタ、インバータ用MOSFET、MBT(IGBT)、各種高速ダイオード、GTOサイリスタなどの富士電機における新製品を例にとって解説する。更に、今後の最重要開発テーマであるインテリジェントパワーデバイスについて、そのメリット、第一世代デバイスのコンセプト、現行の開発アプローチなどを述べる。
高hFEパワートランジスタモジュール
伊藤 伸一,小林 真一,小川 省吾
インバータ装置の効率化と小形化のニーズに対応し、ベース電流の低減と駆動回路の共通化をねらいとして高hFEパワートランジスタモジュールを開発した。npn 構造3段ダーリントンチップパターンの最適化とセルの微細化により、従来品より10倍以上高いhFEを有し、150Aクラスまで0.1Aのベース電流で駆動することが可能になった。本稿では、この新しいパワートランジスタモジュールの開発のねらい並びにチップ設計・系列・定格特性の概要を紹介する。
インバータ用パワーMOSFETの開発
桜井 建弥,藤澤 尚登,藤平 龍彦
インバータ応用に最も適した新形パワーMOSFETを開発した。従来、デバイスの欠点であった内蔵フリーホイリングダイオードのdi/dt耐量、L負荷スイッチング耐量は従来品のそれより10倍以上の耐量をもち、保護のための外付けダイオードその他保護回路なしにインバータ応用に使用可能なパワーMOSFETである。この新しいパワーMOSFETは、新しいプロセス技術と新セル構造の開発によって達成された。
MBT(IGBT)モジュール
古畑 昌一,宮坂 忠志,山口 信司
静止電力変換装置の分野では、小形軽量化と可聴周波数帯の騒音を低下させるためにスイッチング周波数を10kHz 以上に上げる傾向にある。こうした要求に対して、MBT(IGBT)は、大電力を高周波にて制御できる素子であり、今回バイポーラパワートランジスタとほぼ同じ容量まで系列化を行った。本稿では、MBT(IGBT) モジュールの系列・構造・特性と応用技術についてその概要を紹介する。
電子レンジ用高圧シリコンダイオード
菅沼 信孝,井出 哲雄,渡島 豪人
近年、電子レンジの需要は著しい伸びを示しており、その中でも、特に注目されるのが性能及び付加価値の向上を目的とした高周波インバータ電子レンジである。富士電機では、以前から電子レンジに使用される高圧ダイオードの系列を製品化していたが、今回それに加え、インバータ電子レンジ用として、従来からの大電流整流性能、高信頼性に新たに高速性を兼ね備え、高温雰囲気においても優れた高周波駆動性能を有する高圧ダイオードESJC30-05を開発・製品化したので紹介する。
高速ダイオード(SBD、LLFRD)の系列拡大
甕 建志,神崎 隆洋,桜井 敬二
近年、急速な半導体技術の発達に支えられ、各種電子装置の進展拡大には目を見張るものがある。こうした背景の中で、高性能化、小形軽量化、低価格化が常に求め続けられているスイッチング電源市場に対し、富士電機では従来から各種高速ダイオードの開発、製品化を行い、要求に対応してきた。
今回、このますます多様化する市場ニーズにこたえて、60Vショットキーバリアダイオード、300V低損失高速ダイオードの2機種を開発、系列化したので紹介する。
3,000A平形ショットキーバリアダイオード
村上 幸男,塚田 剛三,兼田 博利
スポット溶接機など直流低圧大電流電源の分野において、装置の高周波化による高効率化、小形軽量化を図るため、低損失、高速スイッチング特性をもつ大電流ダイオードの開発が切望されている。
これらの要求にこたえるため、平均順電流3.000Aという大電流ショットキーバリアダイオード(SBD、FRR81-004)を開発した。
本稿では、SBDと結合形ダイオードの比較、ERR81-004の概要及び適用例について紹介する。
4.5kV 3,000A逆導通形GTOサイリスタ
橋本 理,桐畑 文明,高橋 良和
本稿では、ACモータドライブ用として開発された4.5kV 3,000A逆導通形GTOサイリスタについて述べる。
本素子は、高耐圧でありながら、GTO部とダイオード部との定常損失が極力小さくなるようにn+バッファ層を設け、Si厚をできるだけ薄くしている。また、アノードショート構造と、n+バッファ層濃度の最適化を図り、GTO部の点弧特性を損わずにスイッチング損失を小さくしている。
電力用半導体素子用イオン注入技術
渡辺 雅英,石渡 統
イオン注入でAl、Gaの拡散層を形成する方法を開発した。従来、イオン注入されたAl、Gaのアニール時における外方拡散のために、Al、Gaの電気的活性化率が低く、パワーデバイスへの適用が不可能であった。今回、酸化膜、及び窒化膜からなる保護膜により外方拡散を防ぐ技術を確立し、Gaで80%、Alで5%の電気的活性化率を得ることができた。この技術は、直径115mmの6kV 2,500A光サイリスタに適用されている。
本稿では、イオン注入技術の内容及び適用例について紹介する。
普通論文
大形カプランランナの近代化(米国ウェルズダム発電所の更新)
斉藤純一郎,吉井 清,鈴木 良治
最近、国内外で増加している水力発電所の更新の一例として、米国ウェルズダム向けに富士電機が受注したランナ径7.4mに及ぶ大形カプランランナ10台の更新について紹介する。この計画は、20年前に製作され種々のトラブルにために10台中9台がランナブレードを固定して運転されているカプランナランナ10台を更新して、効率増加による発生電力量の増加と保守費の低減を図るものである。本件は世界有力メーカーとの一年間に及ぶモデル水車の開発競争で、富士電機のカプラン水車の効率の高さが認められて受注に至ったものである。
大容量発電電動機及びサイリスタ始動装置の現地試験結果(パルミエット揚水発電所向け)
奥野 貴之,氏家 隆一,柳谷 好男
パルミエット揚水発電電機(250MVA、2台)は、リム通風による冷却方式、軸受のセルフポンプ作用による油循環方式及び効率の向上と軸受の信頼性の向上を目的とした磁気軸受を備えた最新の発電電動機である。更に、始動方式にサイリスタ始動装置及びDDC装置により始動装置の制御と監視を行った。これらの機器は、現地試験において十分な成果を得、2号機は昭和63年4月に、1号機は、昭和63年5月に営業運転に入った。本稿では、この度得られた現地試験結果の一部を紹介する。
最近の短絡試験の自動化技術
志賀 悟,金高 康彦,佐藤 浩
電力用遮断器やGIS、変圧器、ケーブルなどの短絡性能を検証する短絡試験・研究所では、機器開発の信頼性を向上させるため、検証条件の高密度化、測定データの多量化高精度化、データ解析の高度化が要求される。
今般、富士電機は、電力分野特有のサージ対策を考慮したコンピュータによる自動計測及び機器監視を完成させたので概要を紹介する。また、合成短絡試験における現状及び最新の技術についても紹介する。
じんかい焼却計測制御システム(IICS)
松本 祥一,西村 勉
じんかい焼却プラントは地域に融和した優美な建造物であると同時に、多くの設備の集合体でもある。この設備を効率良く、安全に運転するにはコンピュータを含む計測制御システムが必要である。
本稿では、都市ごみ処理計測制御システムIICS(Incinerator Instrumentation & Control System)の代表的な2タイプであるパネルオペレーション形IICS-100と、パネルレスオペレーション形IICS-1000の概念及びシステム構成、並びにごみ処理ソフトウェアパッケージを紹介する。
-
注
-
本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。