富士時報
第64巻第10号(1991年10月)
交流可変速駆動装置とその応用特集
高橋 勲
中野 孝良,堀 重明
中・大容量範囲の交流可変速駆動装置の技術動向(現状と展望)について紹介する。半導体パワーデバイスの最近の成果は、高圧・高周波逆導通GTOであり、これを応用した大容量PWMインバータや3レベルインバータについて言及し、さらに低速大容量サイクロコンバータの特微について述べる。次に、各種制御方式の特徴とディジタル化の進展によるアドバンスト制御の実現、ならびにプラントの上位制御プログラマブルコントローラの伝送ネットワークについてその概要を紹介する。
橋井 眞,高坂 憲司,上原 深志
大容量の逆導通GTOサイリスタ(2,500V/2,000A)を用いたベクトル制御GTO PWMインバータを製品化し、プラント用の可変速システムに適用した。インバータ1台あたりの容量は650kVAであり、インバータの多重化と多相電動機の組合せにより、最大1,950kVAのシステムとなる。制御装置には、フレキシブルなハードウェア、ソフトウェアに特色のある制御向き言語DDCシステムを適用している。また、高周波逆導通GTOを適用した4,500kVAまでの新しいGTOインバータを系列化している。さらに9,000kVAまで系列拡大する計画である。
佐久間 新,高橋 薫,河合 隆文
全DDCを採用した産業プラント向け直流配電形トランジスタインターバ(FRENIC 4000 シリーズ)をこのたび開発した。適用用途別に、(1)ベクトル制御を採用し、高精度速度制御およびトルク制御が得られるFRENIC4000VM3、(2)搬送ローラテーブルなど複数台電動機の同時駆動用としてV/f一定AVR制御のFRENIC4000FM、(3)磁束制御を採用した合繊工業向け専用のFRENIC4000T3について紹介する。併せて、これら駆動装置のマンマシンインタフェースとして開発したローダについても述べる。
長尾 義伸,廣津 和則,尾崎 覚
FRENIC5000VG3はFRENIC5000VGの後継機種としてフルモデルチェンジしたものである。高性能・多機能化および小形化を実現し、マンマシンインタフェースも向上させた取り扱いやすいベクトル制御インバータである。また、設備の自動化・FA化の市場要求にこたえ、プログラマブルコントローラとの通信機能、故障時のRAS機能などを具備させ、プロセッシングラインなどのシステムにも十分対応できる交流可変速駆動装置として開発したものである。
千足 正吉,大沢 博,遠藤 和弥
交流可変速駆動システムは、自己消弧素子を使用したインバータの適用が拡大されてきたが、低速大容量用途ではサイクロコンバータが適用されている。サイクロコンバータによる駆動システムは、電源力率と設備容量の点からは非循環電流式の同期電動機駆動が最も優れ、保守性では誘導電動機駆動、制御性では循環電流式が優れる。富士電機では、いずれのシステムも製品化を完了し、目的に応じた最適なシステムを提供できる。また、電源力率を1に制御できるGTOサイクロコンバータの開発も進めている。
倉地 庸夫,南 英倫,東 鉄三
21世紀を見据えた合理的な鉄鋼設備の市場ニーズを満たすために、パワーエレクトロニクス技術とマイクロエレクトロニクス技術の融合を図った交流可変速駆動・制御システムを導入した。その内容は、交流可変速駆動装置、プログラマブルコントローラ、操作監視CRTの機能分担による信頼性と制御精度の向上を図り、操作・故障状態のビジュアル化ならびに集中監視システムとエンジニアリング支援システムによる保守合理化とエンジニアリング・ソフトウェアの品質向上を実現しているものである。
井上 保夫
製紙プラントでは、ブラシレス化による省力化と、劣悪な電動機設置環境への対策として交流可変速駆動装置の適用が積極的に行われており、今日では誘導電動機とDDCベクトル制御トランジスタインバータとの組合せが主流である。抄紙機、コータマシン、スーパーカレンダおよびリワインダ設備の特長とおのおのの最新の駆動システムについて紹介する。
喜納 政宏,平野 雅紀
合繊・フィルム用電気品はトランジスタインバータ化が主流となっている。合繊設備には専用化を、フィルム設備には高機能汎用化を志向した交流可変速システムが適応される。合繊紡糸機用としてはインバータFRENIC4000T3とパーモシンモータ(永久磁石式同期電動機)が、フィルム用としてはインバータFRENIC5000VG3とかご形電動機の組合せが代表例として挙げられる。
田渕 正博
化学分野における交流可変速駆動装置は、かご形誘導電動機やサイリスタモータを駆動する。これらの電動機は、原理的に火花を発するブラシが無いので防爆性能に優れている。したがって、化学分野では省電力効果に加えて、防爆構造に適しているという利点により、交流可変速駆動装置が数多く適用されている。一方、最近の交流可変速駆動装置はハードウェア技術や制御技術のめざましい進歩により、全ディジタル制御の要求をも満足してきているので、これらの応用についても簡単に述べる。
廣津 和則,長浜 秀昭
風水力機械の省エネルギー駆動用として普及し始めた交流可変速駆動装置は、その適用範囲を急速に拡大してきている。本稿では特色のある応用例として、試験装置用移動台車のリニアモータドライブ、機械式立体駐車場の移動台車および昇降装置、スキー場人工降雪設備のポンプドライブ、大形構造物制振装置、風洞試験装置などへの適用について述べる。
山本総一郎
水処理分野において交流可変速駆動装置は、省エネルギー、池の容量の最適化やポンプ台数の縮小化、漏水防止、最適圧力供給を目的としてポンプ、ブロワの駆動を中心に固定速機では満足させ得ないきめ細かな制御を実現するために採用されてきた。近年、この分野でもさらなる高信頼性と環境協調性が要求されるとともに、ポンプ、ブロワ以外の負荷の駆動にも適用が広がっている。本稿では、水処理分野における交流可変速駆動装置の適用の特色と、適用範囲の拡大について例を挙げて紹介する。
阿武 英文,藤井 一司,仲井 康二
プラント構成の複雑化、大規模化に伴い、プラントの信頼性維持、管理が複雑なものになってきている。そのため、プラントに使用される可変速駆動装置およびシステムの状態監視機能の向上、故障現象の把握、原因の追求を容易に行えるシステムが望まれている。
本稿では、そのシステムの一例として、可変速駆動装置集中監視システムFORSとDDCローダLOAD MASTERについて紹介する。
谷坂 彰彦,矢野 浩司,海田 英俊
産業プラントなど、可変速駆動システムが適用される分野においては、製品品質向上、高付加価値などに対する強い要求がある。これらの要求に対応するため、富士電機では現代制御理論を適用した制御装置をいち早く実用化し、条鋼圧延プラントなどにおいて顕著な効果を上げてきた。
本稿では、可変速制御システムに対するこれまでの取組みについて制御理論の説明と実プラントへの応用例を示すと同時に、今後の取組みについても紹介する。
戸高 雄二,河野 正志
可変速駆動装置のディジタル化が急速に進み、最近の強いニーズであるRAS機能の向上、特に故障診断の充実に対して知識工学を導入したエキスパートシステムによりこたえることが可能となった。故障診断に適用したエキスパートシステム(COMEX)は問題選択形でしかも汎用タイプであるからAIの専門技術を必要とせず、知識ベースの更新や追加が容易で、パーソナルコンピュータ上で実行できる特長を有する。本稿では故障診断の内容を事例を挙げて紹介する。
-
注
-
本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。