富士時報
第65巻第3号(1992年3月)
自動車用電子デバイス特集
堀 孝正
西浦 真治
富士電機の半導体デバイスは、トランジスタ、ダイオード、ハイブリッドICの点火系への適用以来、広く自動車の電子制御に用いられてきている。圧力センサの適用による低公害車への貢献に続き、近年では、MOSFET,インテリジェントパワースイッチ(IPS)などを用いて、電子制御の高度化に貢献している。今後これらデバイスのインテリジェント化をさらに進め、車内制御システムの高度化を進めたい。また、絶縁ゲートトランジスタ(IGBT)などの性能向上によりモータ制御、電気自動車の発展に寄与してゆきたいと考えている。
古畑 昌一,木内 伸
カーエレクトロニクスの高度化に伴い、小形軽量で高機能なパワーデバイスが要求されるようになってきている。
今回、ドライブ回路、各種保護回路、およびCPUとの通信機能を備え、小形軽量化、高効率化、高信頼性をねらいとした60V/3A,80V/3A定格の2機種のMOS出力形ハイサイドインテリジェントパワースイッチ(IPS)を開発したので紹介する。
藤平 龍彦,吉田 和彦,藤島 直人
車載用ローサイドインテリジェントパワースイッチ(IPS)F5002Lの試作・評価を完了した。TO-220F-5pinに収納したローサイドIPSF5002Lは、60V-10A-50mΩmaxの定格で、過熱、過電流、過電圧に対する保護、負荷開放検出、状態出力の各機能とドライブ回路、ダイナミッククランプ回路を内蔵し、マイクロコンピュータからの直接駆動が可能である。低オン抵抗、高サージ耐量、電流制限機能の内蔵を特徴とするF5002Lは、車載用IPSのために開発された60V接合分離CMOS/DMOSプロセスによるワンチップで構成されている。
加藤 和之,佐々木 修,酒井 利明
小形、軽量、低コストであり、かつ厳しい環境下でも高精度、高信頼性を維持できる圧力センサの要求が高まってきている。これらの要求を同時に満足させるため、圧力センシング部と信号処理回路をワンチップ上に集積化した超小形、超軽量の半導体圧力センサを開発した。特性の調整、温度補償はシリコンチップ上の薄膜抵抗をレーザトリミングすることで行っている。用途に応じて金属パッケージ、DIPパッケージなどの実装構造を選択することができる。試作の結果、良好な特性、信頼性を有することが確認されたので紹介する。
有村 健一,佐々木 修
自動車の電子化に伴い、多くの電子部品が搭載されるようになり、バッテリーおよびACジェネレータの能力向上、高精度化が要求されてきている。ACジェネレータに組み込まれて、この制御を行うICレギュレータは、エンジンルーム内で使われるため、ノイズ、振動、温度変化などに耐える高い信頼性が要求される。
富士電機では、このような要求にこたえるため実装上の信頼性が高いCCB(はんだバンプによる実装)技術で、自動車用レギュレータICチップを開発したのでその概要を紹介する。
岩原 光政,堀内 康司,岡林 健木
自動車におけるエレクトロニクス化の進展に伴い、電子システムの信頼性向上がより重要な課題となっている。このようななかで、近年特に半導体デバイス静電気放電(ESD)に対する耐量向上が強く求められている。
富士電機では、リレー制御、ソレノイドサージ吸収用などに多量に使用されている整流ダイオードについて、静電気耐量を大幅に向上させた車載用静電気対策形清流ダイオードを開発した。その製品系列は、面実装タイプを含め、8形式をそろえている。
山田 忠則,西村 武義,藤澤 尚登
自動車電装品の無接点化が進むなか、オン損失が低いという利点から、パワーMOSFETが採用されるようになってきた。しかし、自動車という特殊な環境に搭載される電子部品には高い信頼性が要求される。今回、この要求を満たす高アバランシェ耐量、高静電気破壊耐量を有するパワーMOSFETを開発したのでその概要を紹介する。
西浦 彰,宮坂 忠志,関 康和
第二世代IGBTモジュールと比較して、インバータ応用において発生損失を約40%低減可能な第三世代IGBTモジュールを開発した。600Vクラスで平均オン電圧2.0V,フォール時間0.1μsである。今後、1,200Vクラスとともに系列化を進めてゆく予定であり、容量系列が完成すると、モータ駆動用インバータ装置、サーボアンプ、無停電電源などさまざまな用途において、大幅な性能向上に貢献することができる低損失デバイスである。
小川 省吾,宮坂 忠志
バッテリーフォークリフトに最適なパワートランジスタ系列を紹介する。本系列の特徴は、ベース駆動電流の低減のために高hFE化を図り、さらに、スナバ回路の簡素化のために高耐圧、高アバランシェ耐量を実現したことである。また、本系列は非絶縁のパッケージに組み込まれているため、回路敗戦の簡素化と放熱性の向上が可能である。
菅沼 信孝,井出 哲雄,渡島 豪人
自動車のエンジン制御の最適化を図るため、エレクトロニクス化による高度な機能を有する点火装置(ディストリビュータレスイグニション:DLI)が実用化されるに至った。本稿では、先進の点火装置であるDLI装置用として開発した樹脂モールド形高圧ダイオードについて紹介する。今回開発の高圧ダイオードは、自動車用途を考慮した最適耐圧設計、高サージ耐量設計、高耐熱設計を施すことにより、ガラスモールド品に匹敵する性能を達成した。
嶋田 康幸,大沼 崇
カーエレクトロニクスに不可欠の回転センサでは、信頼性向上と小形化面から、半導体の磁気効果を利用したホールICが注目を集めている。ドイツ・シーメンス社は、自動車部品の厳しい動作条件に十分対応した各種のホールICを製品化し、これまでに数千万個を市場に供給してきている。
本稿では、スイッチ形、差動形、リニア形の各ホールICにつき、その概要と特長を紹介する。
鎌田 達雄
非常に厳しい使用状態にさらされる、自動車用電子デバイスの品質保証を行うための方策について述べる。まず顧客のニーズの要約を示し、次に市場の意識の変化、使用状態の想定および検証すべき事項を考察する。そのための品質保証について、基本的な考え方と実施方法を、富士電機の品質保証体制を中心に記述、信頼性保証についての留意点、故障解析事例を示す。今後とも、機能強化のための電子化の動きに合わせ、より高い性能・品質の保証をめざし、システムメーカーと連係の強化を指向する。
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注
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