富士時報
第66巻第4号(1993年4月)
シミュレーション技術特集
矢川 元基
内田 喜之,矢加部正幸
コンピュータ利用環境の拡大に伴い、コンピュータシミュレーションは幅広い製品・システム分野において、研究・開発、設計などの効率化に不可欠な手段となってきている。富士電機は1950年代の半ばから制御系のシミュレーションへの取組みを開始し、その後、プロセス制御、FA(Factory Automation)、電機製品、電子部品、電子装置などへと適用範囲を拡大してきた。本稿では、各分野における代表的なシミュレーション技術とその適用状況および今後の動向について概説する。
黒谷 憲一,窪田 真和,守本 正範
水道シミュレーションの目的は、水道設備の設計と運用に対する援用である。最近は、シミュレーションプログラムをコンピュータシステムに組み込んで提供し、ユーザーが利用する例が増えている。シミュレーションの代表的な用途は、配水コントロールと水運用制御である。最近の例には、高度浄化処理設備の水運用制御、配水管網内の汚染水の拡散解析などがある。今後の開発で重点を置く必要があるのは、水質関連のシミュレーション技術ならびにマンマシンインタフェース技術である。
元治 崇,亀谷 勝久,小田 俊幸
都市部における電力需要密度の増加および電力供給品質の高度化要請に対処するため、将来の高機能400Vネットワーク配電系統の運用における供給信頼性、制御性、経済性の向上と供給電力の高品質化を目的とした電圧および潮流制御方式の開発を行った。
本稿では、400Vネットワーク配電系統と制御アルゴリズムを模擬するシミュレーションプログラムを開発し、シミュレーションケーススタディにより制御アルゴリズムを検証した結果について述べる。
山本 隆夫,霜田 和彦,岸 郁朗
大容量蒸気タービンの運転信頼性に対する品質要求にこたえるため、東北電力(株)と共同で、新設の能代火力発電所向け1号機600MWタービンを対象として、コンピュータにより軸振動、伸び差などの運転特性の数値シミュレーションを行うタービン運転信頼性予測システムを開発したので、その概要を紹介する。
中島 昌俊,高尾 宣行
EMTP(Electro-Magnetics Transient Program)は、米国のエネルギー省ボンネビル電力局(BPA:Bonneville Power Administration)で開発された汎用過渡現象解析プログラムである。このプログラムを用いた電力系統過渡現象に適用した例として変電所侵入雷サージ解析、送電用避雷装置の設置効果解析、真空遮断器による多重再発発弧現象の解析結果について述べる。
米澤 栄一,遠藤 研二,池口 修一
回転機の設計計算にはこれまで機種ごとに独自の手法が使われてきたが、コンピュータを利用した磁界解析の実用化が進んだことにより、設計の手段としてシミュレーションが日常的に行われるようになってきた。本稿では、解析法として最もよく用いられている有限要素法についての概要と、具体的な応用として三次元解析のタービン発電機端部磁界解析への適用、二次元解析のHDD用スピンドルモータおよびACサーボモータへの適用例について紹介する。
高萩 隆司,池田 健二,寿上 宏司
電力供給設備では高信頼度化、縮小化、保守の省力化、不燃化のために、従来の油入変圧器に代えてガス絶縁変圧器を採用した防災形変電所の適用が拡大してきた。ガス絶縁変圧器では冷却特性が重要な課題で、局部過熱を防ぎ、冷却性能を向上させるためには、温度分布のシミュレーションを行い設計に反映する必要がある。本稿では、有限要素法による熱流体解析ソフトウェアをガス絶縁変圧器の冷却系全体に適用して、内部のガスと巻線の温度分布を把握したので紹介する。
横幕 博行,寿上 宏司,田代ゆかり
64MビットDRAM相当の半導体製造プロセスでは、超高清浄空間を実現するために各種の自動化がなされているが、その自動化設備そのものによる清浄空間の乱れが問題となっている。その一例として、ウェーハ搬送用の自動搬送車によって誘因される気流の乱れが挙げられる。本稿では、走行開始時および停止時における自動搬送車まわりの気流の把握のために実施した、有限要素法による二次元気流解析結果について紹介する。
川合 成治,小林 晴夫
FAシステムのリアルタイムシミュレーション技術として、FAシミュレータであるPROMIZと、自動認識システムであるPコードシステムを連携させたPOPシステムを紹介する。
リアルタイムシミュレーションでは、生産状態の初期分布をいかに入力するかが課題であった。本稿では省スペースで書込み可能なPコードを用いて、リアルタイムで進捗管理を行ったデータと連係することによりデータ入力の自動化が実現できた。適用例として、プリント板組立ラインのPOPシステムを紹介する。
山下 満男,新野 文達,浅川 修二
電子部品に対する熱伝導、熱応力数値解析手法について概説し、半導体部品に対し適用した解析例を紹介する。パワーデバイスモジュールに使用されている電子回路搭載用基板であるセラミックと銅の接合体について、はんだ接合時の発生応力を、非定常熱伝導解析、定常熱応力解析を実施し把握した。銅とセラミックを直接接合した基板について、熱履歴による発生応力を弾性および弾塑性解析で調べた。また、MOSFETアレイの動作時の発生熱応力を明らかにした。
田上 三郎,岡本 章信
電力用半導体デバイスシミュレーションは、新しい半導体素子の特性予測、最適設計など高性能化、開発の高効率化に不可欠な手段となっている。最近、複数の半導体素子からなる応用装置そのものの特性を厳密にデバイスシミュレーションで解く試みがなされ、新しい動向として注目される。本稿では、こうした最近の動向についてその概略を紹介する。
細田 直樹,大野 勝史
プリント板の設計検証に、CADによるシミュレーションの適用が不可欠となってきている。
本稿では、論理シミュレーションを中心に適用方法、効果と限界、部品ライブラリの重要性および今後の進むべき方向について紹介する。
本郷 保夫,下村 昭二,吉田 收志
パターン認識技術で高速に文字を読み取る日本語OCRの製品化において、文字認識シミュレーションは文字認識アルゴリズムの評価に不可欠な手段である。ここでは文字認識の性能を支配する特徴量の決定と、空間密度を用いた非線形正規化の有効性とについて、シミュレーションの結果を紹介する。手書き漢字の文字認識結果では、背景成分8面を特徴量とする場合で高い認識率を得た。また、非線形正規化でも従来の方法より高い認識率を得た。さらに、日本語OCRの課題とその解決への取組みについても述べる。
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注
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