富士時報
第66巻第5号(1993年5月)
AIニューロ・ファジィ技術特集
沖野 教郎
竹内 実,浅見 昭
富士電機はAI、ファジィ、ニューラルネットワークを活用して、さまざまな分野にインテリジェントシステムを構築、納入してきた。
インテリジェントシステムの狙いは、システムの自動化を押し進めることとソフトウェアの開発効率の向上の実現である。
このインテリジェントシステムの動向、特徴を述べるとともに富士電機の要素技術開発への取組み、実用化への取組み、現状の課題と今後の展開を紹介する。
佐藤 實,新貝 和照,伊藤 修
プラント操業の自動化、省力化にAI技術の果たす役割と期待は近年ますます高まっている。特に最近はビジネス全体系としての最適運用解を要求されており、AI技術の適用によるアプローチが種々試みられている。このような背景から、より使いやすく信頼性の高いAI技術の適用法と完成度の高い製品が望まれている。本稿では、富士電機のAI技術の製品化への考え方と製品について紹介する。
竹中 道夫,岡田 良一,田中 美苗
電力分野では、運用者の経験と専門的知識による判断を必要とする業務が多く存在する。事故部位判定もその一つであり、運用時にその判定を支援するシステムの開発が強く望まれていた。
本稿では、四国電力(株)の制御所で実運用されている本システムについて述べる。本システムは、リレーの機能を保護範囲と時限で表現し、系統モデルをシミュレーションする推論方法を採用している。これにより、迅速かつ的確な判定、理解しやすい判定理由の提示、設備増設などの柔軟な対応が可能なシステムになっている。
柳下 修,高見澤真司
上下水道の分野では早くから知的情報処理の技術の導入が図られてきた。ファジィ薬注制御はその先駆的なものである。上下水道における適用分野を概説し、システム構成と適用例を紹介する。上水道では、大規模な送配水系統の運用計画で、数理計画法と組み合わせた実用的なシステムの例である。下水道では、雨水ポンプ場の制御で、雨の強さに対応して効率的な運転とするか、安全優先の運転とするかを判断し、適切な運転を行う例である。いずれも実プロセスで実績を上げているシステムである。
入江 康文,伊藤 潤,右田 博久
製鉄所、各種工場などの荷役作業に使用する天井クレーンの自動化において、目的位置に正確にかつ、つり荷の振れがないように到達させることが求められている。そこで、位置決めと振れ止めの操作方法を協調させたファジィ制御方式を開発した。この手法を用い、シミュレーションおよび実運転試験により、位置決め・振れ止め制御時に目標位置までの距離と振れ角がつり荷の振れ周期の約2.3倍程度の時間で収束することを実証した。
田原 祐次,広瀬 文彦,新村 隆英
本稿では、NKK京浜製鉄所エネルギーセンターのEIC統合化制御システムに応用した電力系統運転支援システムの概要を紹介している。本システムは、経験豊富な運転員の知識に基づくエキスパートシステムを製鉄所内電力系統の運転支援に適用することによって、系統事故に対応した総合的な系統信頼性の向上と、経験の浅い運転員の日常業務の負担を低減することを目的に、(1)事故時復旧支援、(2)操作手順書作成支援、(3)保護リレー動作シミュレーション、の三つの機能を実現した。
菅井 賢三,丸山 忠
FA分野での工場操業計画を立案するための支援ソフトウェアAIMAX-Pを開発した。本ツールは、AI (Artificial Intelligence) 技法を用いて、生産設備の標準モデル・設備へのオーダ割当てルール記述を削減する知識表現を用意していることを特長とする。標準モデルは、工場設備 (設備モデル)、生産品 (製品モデル)、生産オーダ (操業モデル) の3タイプに分け、表現するものである。本稿では、これら表現の詳細とAIMAX-PがFA分野でどのように適用されるかを述べる。
中谷 智良,須藤 晴彦
オープンショーケースにおいて除霜制御は庫内商品の鮮度管理性能、ランニングコストなどを左右する重要な制御である。その除霜制御にファジィ制御を適用しオープンショーケースの高鮮度管理化および省エネルギーを目的としたファジィノンデフコントローラを開発した。ファジィノンデフコントローラは、周囲環境と着霜量を的確に把握し、除霜回数を必要最小限に抑えることにより前述の目的を達成した。本稿では、そのシステム概要と効果をフィールドテストでの実績を交じえて紹介する。
寺崎 健,松井 照明,萩原 賢一
AIシステムは、利用者の判断業務を合理化し、また設備の変更などがあっても、それに伴う新しい知識を追加更新していくことで、容易に対応できることが期待されている。しかし、知識獲得などの作業はナレッジエンジニアと呼ばれるAI技術者が手作業で行うことが多く、AI技術者はその困難さを「知識獲得のボトルネック」として痛感している。そこで、知識獲得の作業を容易にするため、コンピュータの支援により現場でも知識入力ができる知識獲得型AIソフトウェア「ちし木」を開発し、知識ベース構築に適用した。
山本 正典,松井 哲郎,岩森 純好
ニューラルネット技術の概要と富士電機における適用例を述べる。ニューラルネットワークには、パターン認識などに優れた階層型と最適化計算を行える相互結合型とがある。
前者の事例として、自動車の車種を外形から判別するシステムと、過去の電力使用実績に基づいて需要予測を行うシステムを紹介し、後者の事例として、電力系統の発電計画を支援するシステムを紹介する。以上の例から、ニューラルネット技術の有効性と実際の問題に適用可能であることを示す。
植木 芳照,福山 良和
制御所において今後導入されるインテリジェントテレコンを使用して、動作したリレー・遮断器情報および事故時電流・電圧を入手し、エキスパートシステムおよびニューラルネットワークにより事故解析を行うシステムを開発した。システムは、富士電機の電力システム用ドメインシェルFREXS/PSを用いて構築しており、制御所システムのオンライン機能の一つとして導入することが可能である。
浅井 正幸,大庫 和孝,前田 昌宏
トヨタ自動車(株)の金型製造部門では、生産計画立案時の製作時間の見積りに使用している経験式では製造工程条件の変化に対応できず、製作時間の見積りが実製作時間とかなり異なるため改善が要望されていた。この問題に対して、学習機能により製造工程条件の変化に対応できるニューラルネットの適用を研究レベルで検討し成果を得た。この成果をもとに、金型製作時間を見積もるシステムをトヨタ自動車(株)、(株)豊田中央研究所、および富士電機(株)にて共同開発した。本稿では、本システムの概要、機能、および運用後の評価について紹介する。
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注
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