富士時報
第67巻第3号(1994年3月)

特集論文

コンピュータ・エイジにおける解析・評価技術

白鳥 正樹

半導体表面・界面の分析評価

石渡  統,立町 寛児,熊谷 明恭

パワーデバイスやICの表面・界面の分析評価技術のなかで、最も一般的に用いられている透過形電子顕微鏡による高分解能での形態解析と、二次イオン質量分析法による高感度の成分分析技術に的を絞り、応用例を述べる。すなわち、電極や配線材料である多結晶シリコン薄膜の抵抗制御には、導入するドーパントの濃度のほかに結晶粒径が密接にかかわっていることや、ゲート酸化膜界面の形態解析例などを示す。

記録媒体の微細構造解析

植田  厚,山口希世登,高橋 伸幸

磁気記録媒体などの記録媒体において、薄膜の表面および内部の微細形状観察、磁区構造観察、結晶構造解析などのアプローチが高記録密度化、低ノイズ化を実現するうえで重要となっている。
本稿では磁気記録媒体の微細構造解析に焦点を絞り、その評価方法について述べ、透過形電子顕微鏡、原子間力顕微鏡による解析例を示す。また、磁化状態(記録ビット)の観察法についても述べ、ローレンツTEM、磁気力顕微鏡による観察例を示す。

太陽電池用アモルファスシリコン膜の光劣化現象の解析

大沢 通夫,浜  敏夫,藤掛 伸二

光によるa-Si:H膜の欠陥生成を、電子スピン共鳴法により調べ、次の結果を得た。(1)欠陥生成の飽和は、熱または光が関与した回復過程による。(2)成膜温度を280℃程度に高くすれば、光劣化を増大させることなく成膜速度を速くできる。(3)a-Si:H,a-SiC:H,a-SiO:Hに共通して、指数関数テイル状態を示す弱いSi-Si結合が、光照射によりSiダングリングボンド欠陥に変換する。SiH2結合の水素濃度が約3×1021atms/cm3上で、弱いSi-Si結合を増加させる可能性がある。

電気機器の水冷部の防食技術

斎藤 雅男

電気機器の寿命を律する損傷のなかで、腐食損傷が最も大きな割合を占めるといわれている。特に電気機器の使用環境が多様化するなかで、防食思想を取り入れた製品設計は、品質保証のうえからも今後重要な技術分野となる。
このような背景から電気機器の水冷部の防食技術について、使用環境側から見た評価基準を紹介する。

金属ベースプリント基板の評価・分析技術

齋藤 重正,岡本 健次,前田 孝夫

汎用インバータなどパワーエレクトロニクス製品では、小形化・高機能化のための高密度実装配線板として熱放散性に優れた金属ベースプリント基板の適用が拡大している。
薄層絶縁材と金属で構成される金属ベースプリント基板の実用化にあたっては、絶縁材の信頼性が重要となる。本稿では銅イオンマイグレーションの評価方法、その要因となる絶縁材料自身および基盤製造工程での汚染によるイオン性残査の評価・分析方法について述べる。

水車ランナの三次元乱流数値解析

銭   逸,新倉 祥之

近年のコンピュータの急速な発展・普及に伴って、数値解析技術が飛躍的な進歩を遂げ、数値シミュレーションの工業上の位置づけは非常に重要になってきている。富士電機では従来から水車の設計ツールとして、流れの解析技術の開発を進めてきている。
本稿では最近開発した三次元乱流数値解析技術の概要と、フランシス水車、ポンプ水車のランナに適用した解析例を紹介する。

反射形光弾性解析装置の開発とプラスチックの応力解析

新野 文達

プラスチック成形品は他の材料と組み合わせた構造で使うことが多く、成形時に残留応力が発生しやすい。残留応力を正確に把握し、信頼性の高い製品を生産するため、反射形光弾性解析装置を開発した。等色線や等傾線を精度良く測定するための解析装置の光学系構成、等色線しま次数の判定方法、等傾線の抽出方法など、富士電機独自の考え方で自動化を図った部分ついて述べる。また、開発した装置によるプラスチックの応力解析事例として、小形リレーの可動接点板ばねを支持するプラスチック部分の応力解析結果についても紹介する。

先端製品の開発現場における微視解析

塚田 昭次,齋藤 重正,西沢  茂

半導体、磁気記録媒体などの最適ラインの構築には、各プロセスでの製品の表面、界面の解析評価が必要不可欠である。このため、これらの製品の開発、製造現場である松本地区には、最新鋭の物理分析装置の導入が図られ、現場直結のメリットを生かした微視解析が行われている。
本稿では、実際の製品の解析事例をツールとともに紹介する。

高温工学試験研究炉(HTTR)の黒鉛構造物の非破壊検査

石原 正博,神戸  護,辻  延昌

HTTRの炉内の黒鉛構造物として使用されている原子炉級黒鉛IG-110とPGXを対象として、超音波探傷試験法(内部欠陥探傷)と渦流探傷試験法(表面欠陥探傷)の適用を検討した。そのために、専用の探傷装置を開発し、これを用いて探傷方法・探傷条件および欠陥の検出特性を明らかにし、実用可能な超音波探傷試験法と渦流探傷試験法を確立した。これらの試験は、実機黒鉛構造物の受入検査に導入され実施されている。

普通論文

最近の中形電動機技術

針江 博史,千田 悦博,南部  勤

中形誘導電動機「R90シリーズ」は、省エネルギー、省保守、高信頼性へのニーズにこたえ、新通風方式の採用とアルミかご形回転子の適用拡大により、小形軽量化、効率の改善、信頼性の向上を達成したものである。本稿では、R90シリーズの特長を中心に、最近の温度、応力、振動などの解析技術、巻線・アルミ鋳造の製造技術および品質保証技術を紹介するとともに、伸長の著しい可変速駆動における冷却、騒音、サージなどの回転機側の問題点と対応についても述べる。

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。