富士時報
第68巻第2号(1995年2月)
電気鉄道技術特集
曽根 悟
番場 忠省,丹羽 公一
電気鉄道の大量高速輸送機関としての役割はますます高まりつつある。富士電機は電気鉄道の現状と展望を考えるうえで、「輸送力の向上」を基本の柱とし、そのベースとなる柱には「安全性」を置き、この基本の柱を左右から支えるのが「トータルコストを低減」した「人に優しい」鉄道であるという基本コンセプトに立っている。本稿では市場の動向およびこの四つの柱に沿った技術課題に関する富士電機の現状および展望について、車両システムおよび地上システムの二つの分野に分けて紹介する。
岩堀 道雄,神田 淳,大庭 政利
富士電機製世界最大級高耐圧IGBT(2,000V 400A)を適用した3レベルインバータシステムを開発した。本システムは、1台のインバータで1台の電動機を駆動する個別制御方式であり、新しい電動機制御、空転滑走制御により、特に、雨天時の加速性能、乗り心地に優れたシステムになっている。富士電機独自の低損失スナバ回路の適用により、インバータの高効率化・小形軽量化を、また豊富な自己診断機能を有する制御装置、インバータのファンレス化などにより、高信頼性・省保守化を実現している。
藤原 宏和,依田 和之,吉川 春樹
近年、冷房などの乗客サービスの向上に伴い、車両用静止形補助電源装置の大容量化が進んでいる。また、車両用静止形補助電源装置の市場のニーズは、小形、軽量、低騒音、メンテナンスフリー、省エネルギーなどである。今回、新開発の高耐圧IGBT(2,000V 400A)を適用し、これらのニーズにこたえる静止形補助電源装置を開発した。本稿では、この装置の特長、概要、試験結果を紹介する。
長谷 吉二,田野 良三
最近の主電動機(車両駆動用電動機)はかご形誘導電動機が主流である。主電動機の軽量化、高速化、メンテナンスフリーなどの顧客要求に対し、新幹線および在来線で採用している設計、製作の最新技術について述べる。具体的には最適温度設計手法、フレームレス固定子、アルミロータ、絶縁軸受、長寿命グリース、耐熱絶縁システムなどを紹介する。
佐藤 良寛,柴山 國夫,宮内 広二
札幌市地下鉄の東豊線延長部は高騰化する建設費の一層の低廉化を図るため、ずい道断面を縮小することになった。この縮小部においても従来車両で走行するには、折りたたみ高さが低くて作用範囲の大きいパンタグラフの開発が重要課題になり、さまざまな計画、検証を重ねて動作安定性、高機能、長寿命、保守性向上の要望にこたえ、導電レール剛体架線用として菱枠形では国内初の折りたたみ高さ170mmを実用化した。このパンタグラフの開発項目、検証内容、特徴を紹介する。
平川 正澄,馬場 謙二,樋口 雅朗
鉄道輸送の大道脈である東海道新幹線では、利用客の増加に対して、列車ダイヤを高密度化することによって輸送力の増強が行われている。一方では、これらの列車負荷が電力系統に対して悪影響を及ぼすことのないよう強く求められている。なかでも、無効電力の急激な変化は系統の電圧変動を招くことから、その補償技術が輸送力の増強のかぎとなる。本稿では最新のパワーエレクトロニクス技術を適用した自励式の無効電力補償技術の概要について紹介する。
小森 一米,中森 昭,牧野 喜郎
電気鉄道では初めて東海道新幹線の変電所に自励式無効電力補償装置を設置した。この装置を系統に連系した際の諸現象および特性を事前に把握するためにEMTPによるディジタルシミュレーションを実施した。シミュレーションは可能な限りシステムを忠実にモデル化することを試みた。本稿ではモデルの内容と、解析例として「系統起動方式による直流過電圧現象」、「装置の制御応答特性」、「現地列車負荷突入現象」について紹介する。
津田 信吾,小高 英明,須藤 隆志
大量高速輸送の担い手である電気鉄道(電鉄)の電力供給設備としての電鉄用変電所は、高信頼性、経済性、環境調和などが要求される。一方、制御保護システムにおいては、ディジタル化が一般化してきている。本稿では、電鉄用変電所システムにおけるニーズとその具現化技術、制御保護システムの変遷および最近の制御保護システムについて概説する。
粟飯原一雄,中村 豊忠,寿上 宏司
都市部の電気鉄道では電力回生車両が投入され、車両制動時の回生エネルギーの有効利用などを図るため電力回生インバータ、サイリスタ整流器が導入されつつある。これらの変換装置は自然冷却方式を前提とし、実現手段としてヒートパイプ冷却方式がある。本稿では、ヒートパイプ冷却方式変換装置内部の自然空冷のとらえ方、および有限要素法による熱対流解析と試験による測定結果との比較について紹介する。
新井 隆,岡田 和宏
駅舎電源用制御・保護システムには、静止化および自動監視点検機能の充実による信頼性向上とシステムの高機能化、高性能化を目的として、プログラマブルコントローラ、ディジタル保護継電器、情報処理装置などを導入する事例が増加している。情報処理装置は、履歴・点検結果などの保全データ、計測量・積算電力量などの負荷管理データを保存管理するものである。最近では、この保存管理データを保守担当部門で有効活用するため、処理装置をクライアント・サーバシステムとし、端末の遠方設置を容易に可能とする方式も採用されている。
新井 隆,藤田 洋
電力管理・設備管理システムは、日常業務の自動化、異常対応機能の強化などの高機能化が行われてきたが、最近では管理データを保全管理に積極的に活用すること、保全業務の管理をすることなどを考慮したシステムの実施例が増加している。この背景には、時代の要求と同時に、情報処理装置のオープン化とダウンサイジングの流れが大きく貢献している。本稿では、電気鉄道用電力・設備管理システムの技術動向と最近の実施例を紹介する。
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注
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