富士時報
第71巻第5号(1998年5月)
誘導加熱特集
福澤 章
岡崎 金造,川崎 道夫
誘導加熱はその優れた特質から,現代生活を支える重要な要素技術として発展している。それは,優れた省エネルギー性と環境問題への貢献,生産性の向上の3本柱である。本稿では電気加熱のなかでの位置づけ,需要動向をふまえ各分野別技術動向について述べる。また,今までの富士電機の誘導加熱の取組みと,そのなかの解析技術,高周波電源,システム開発についても述べる。21世紀の技術革新を支えるためにはなくてなはらない技術となっている。
貝沼 研吾,佐久間政喜
近年,コンピュータを使った数値解析技術が電気製品の開発設計に盛んに用いられるようになってきた。富士電機の工業電熱製品においても,電磁界,熱,構造,流体などの場をコンピュータを用いてシミュレートし,仕様の決定や構造の最適化,開発期間の短縮などに役立てている。本稿では,誘導加熱および電磁力応用機器に適用したシミュレーションについて,代表的な解析手法と計算例を紹介する。
只野 英顕,貝沼 研吾
金属をるつぼ内で空中に浮かせて溶解する浮揚溶解装置について,これまでの進展を述べる。溶解量kg級の安定浮揚溶解に際して,(1)二重電源励磁方式の採用,(2)るつぼ底部形状の最適化を行った。 工業化に向けて, (1)るつぼ底部からの非接触出湯, (2)溶解量50 kg級の大容量化を達成した。富士電機ではこれまでに浮揚溶解装置「CCLM」をシリーズ化したのをはじめ,さまざまな分野への適用を図るために,大容量CCLM,連続鋳造CCLM,高真空CCLMなどの新しい製品を創出している。これらの製品群について述べる。
篠倉 恒樹,武 達男
底部出湯式大容量浮揚溶解装置(CCLM)による各種金属の溶解・出湯と材質評価を行い,その特長を実証した。浮揚溶解の原理,CCLMの基本構造と特長,他の溶解法との比較を述べ,製作した3種の実験装置(2 kg真空溶解,50 kg溶解,連続鋳造)の外観と仕様を示した。溶解実績例は,高純度金属CoとTiAlの非汚染溶解,アルミナ含有鉄の介在物除去による金属清浄化,CuとCrの均一混合溶解,50 kgの鋳鉄やステンレス鋼の溶解出湯,鉛および鋳鉄の丸棒連続鋳造などである。CCLMの応用分野についても言及した。
久本 正昭,伊藤 豊,野村 年弘
電力用半導体素子を応用した高周波誘導加熱装置は,クリーンで高効率そして制御性に富んだ加熱システムとして広く普及しつつある。富士電機では次の3種の加熱用インバータ系列を製作している。
(1)サイリスタインバータ(電流形)~10 kHz,~12 MW水冷
(2)汎用IHインバータ(IGBT電圧形)~50 kHz,~20 kW風冷
(3)MOSFETインバータ(電圧形)~500 kHz,~1,000 kW水冷
これらのインバータの特長,仕様,回路構成などについて述べるとともに,主回路の方式,電流形と電圧形について簡単に述べた。
中谷 正博,植村 浩
銑鉄鋳物工場における溶解主原料である鋼板くず中に,亜鉛めっき鋼板くずの混入が避けられない状況になっている。しかし,亜鉛めっき鋼板くずを従来の誘導炉で溶解すると,亜鉛による耐火物の寿命低下,鋳物品質の低下,溶解作業環境の汚染など,多くの問題があった。これらの問題に対して開発したこの誘導溶解システムは,亜鉛めっき鋼板くずのリサイクル,省エネルギー溶解,溶湯性状の改善など,数多くの特長を有している。本稿では,このシステムの開発背景,装置構成,評価試験,特長などについて述べる。
加納 利行,古城 靖彦
地球規模での環境保全が叫ばれるなか,工業炉においても環境面および省エネルギー面での要求が高まっている。本稿では,環境ならびにエネルギーの両面から見た誘導炉の利点について述べる。また,富士電機の高周波誘導炉の最大の特長である高効率,省エネルギー性,ならびに独自の誘導炉技術についても述べる。
倉田 巌,中村 清和
電縫管は,帯状の金属板を整形し溶接を行うことで製造される。電縫管溶接用電源として,従来は真空管を用いた数百kHzの高周波発振器が適用されてきたが,発振器の効率が低く,省エネルギーおよび合理化の観点から電源の高効率化が望まれていた。富士電機は高周波MOSFETインバータを適用した高効率な電縫管溶接装置を開発し,現在,実ラインで稼動している。本稿では電縫管の溶接原理,溶接装置の構成,真空管発振器との溶接能力比較について述べる。
池田 泰幸,岡山 栄,安藤 孝一
鉄鋼プロセスラインでは,省エネルギー性に優れる,急速加熱が可能である,温度制御性・応答性がよいといった誘導加熱の特長を最大限に活用した加熱,昇温,熱処理,溶解がなされている。本稿では,鉄鋼プロセスにおける誘導加熱の適用例として,MOSFET式高周波インバータを使用し,0.1 mmもの極薄板の加熱ができる最近の薄板誘導加熱装置,熱間圧延プロセスに使用される粗バーヒータおよび表面処理鋼板のなかでも近年需要が増加しているガルバリウムめっき鋼板用誘導炉(ガルバリウムポット)について述べる。
喜田 清則,和田 清美,原田 満雄
地球環境問題から廃棄物処理のありかたが厳しく問われる状況にある。近年,ダイオキシンの有害性が問題視され,焼却しない高分子系廃棄物の処理装置として,富士電機が開発したホットバインド方式の減容固化装置が注目されているので概要を述べる。また,粗大ごみ処理施設,リサイクルプラザ施設から,資源化物とともに排出される高分子系廃棄物を主体とした可燃物類を乾留処理し,無害化し排出するシステムを開発中である。乾留処理実験結果と,本システムの将来展望についても述べる。
服部 英美
アルミニウムチップ材などの熱容量が小さく,表面積の大きい廃材は溶解歩留りが悪く,操業安全性が困難,作業環境が悪いといった問題点を多くかかえていた。今回,従来の反射炉では溶解が困難であるチップ材やアルミニウム缶くず材などを効率的に溶解することができ,溶解歩留り向上や作業環境改善が可能な電磁力を応用した,新たな溶解システム(ガス/電気のハイブリッド溶解システム)「渦巻スターラ」を共同で開発した。
榊原 康史,片桐 源一
廃棄物・有害物処理に利用される熱プラズマの発生装置に,ICPトーチがある。直流プラズマトーチと比較して,無電極でプラズマ生成できることが最大の特長である。しかし,ICPは数MHzの真空管式電源で駆動されるため電源のエネルギー損失が大きく,またプラズマサイズは半径で3 cm程度である。富士電機では,電源に低損失のMOSFETインバータを適用した大口径のICPトーチを開発中である。本稿では,ICPの数値解析と試作トーチによるプラズマ発生の結果について述べる。
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注
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