富士時報
第72巻第3号(1999年3月)
パワー半導体特集
岡村 昌弘
重兼 寿夫
パワー半導体は,アクチュエータドライブやエネルギー変換など独自の応用分野を持つキーコンポーネントである。パワー半導体の研究開発は,整流素子成熟製品に対する最新半導体技術の適用,微細加工技術の導入による高性能化,インテリジェント化,スマート化といった方向で進めており,それらの成果として電子レンジ用高圧ダイオード,低VF SBD,トレンチゲートMOSFET,低損失MOSFET,イグナイタ用IPS,第四世代IGBTモジュール,IPMといった各種パワー半導体を開発し発表している。
竹内 茂行,工藤 基,吉田 和彦
自動車イグニッション対応のデバイスとして,自己分離形構造を持つIPSを開発した。この分野に使用するデバイスでICとパワーデバイスを1チップに集積した製品は,今回紹介するものが世界初となる。本稿では,このイグナイタ用IPSに必要であった下記の技術の説明およびこの技術を適用したデバイス性能について紹介する。
(1)高L負荷クランプ耐量を確立するためのCBR技術
(2)高サージ耐量を確立するためのZRN技術
(3)スマートな電流制限を実現するためのCRF技術およびHGD技術
木内 伸,大江 崇智,八重澤直樹
自動車の電子制御装置は年々増加の一途をたどっており,自動車電装メーカーでは,その小形・高性能・低コスト化を切望している。今回,基本性能を向上させながらも,従来のTO-220F-5パッケージに対し実装面積で50%小形化したSOP-8パッケージハイサイドIPS F5044Hを開発したので紹介する。このF5044Hは,過電流, 過熱,過電圧に対する保護機能,異常状態検出機能などと,ドライブ回路,高速ターンオフを目的とするL負荷逆起電圧クランプ回路とを内蔵し,さらに低損失化を達成している。
森本 哲弘,松井 俊之,宮坂 靖
近年のノートパソコンに代表される携帯機器では,バッテリーでの長時間稼動および小形・軽量化のためにトータル消費電力低減の要求から,そこに使用される半導体デバイスへの低損失化要求が強まっている。富士電機では,この市場ニーズに対し,順電圧(VF)を大幅に低減するために,バリヤメタルおよびウェーハ仕様の最適設計化を図ることによって,VF=0.36Vを達成したショットキーバリヤダイオードを開発・製品化したので,その概要について紹介する。
山田 忠則,小林 孝
近年,環境問題の高まりから電気・電子製品分野では省エネルギー,スタンバイ電力低減が重要視され,自動車分野も同じく燃費性能の向上,排気ガス低減が重要となってきている。富士電機では,このような環境問題への対応として電子機器,自動車電装などバッテリー電圧の異なる機器の低損失化の図れる低耐圧・低オン抵抗パワーMOSFETを開発した。本稿では,このパワーMOSFETの施策設計および製品の系列・特徴について概要を紹介する。
西村 武義,島藤 貴行,小野沢勇一
今回,オン抵抗を従来プレーナ構造に比べ60%に低減し,ゲート保証電圧も+-30 VのトレンチゲートMOSFETの開発を行った。オン抵抗の低減は結晶や微細化,トレンチエッチング条件などのプロセスの最適化を図ることで,チャネル抵抗成分などのチップ抵抗を低減し,合わせてパッケージ抵抗も低減することで達成した。ゲート保証はトレンチエッチングなどのダメージやエッチング形状のせん鋭化をエッチング条件や酸化条件の最適化,プロセスの開発などにより防止することでゲート信頼低下を防ぎ達成することができた。
澤田 研一
近年,コンピュータ化が進むなか,電源確保の手段として無停電電源装置(UPS)が用いられている。このUPSへの市場要求(小形・軽量化,低騒音,高効率化)に対し,装置の高周波化が進んでいる。本製品はUPSの電源回路への適用を目的とする高速・低損失ディスクリートIGBTで,その特長,定格は以下のとおりである。
(1)電圧定格:600V,電流定格:30A,50A,75A
(2)VCE(sat)≦2.8V,tf≦250ns
(3)高速FWD内蔵小形ディスクリートパッケージ
久保山貴博,渡島 豪人,降旗 博明
電子レンジの最近のトレンドとして,有効容積率(セット本体に占める調理庫内の比率)の向上と高周波出力の高出力化が挙げられる。 これに伴い電源スペースは狭小になり,使用される高圧ダイオードには今まで以上の大電流低損失が求められる。一方,マグネトロンの異常放電を想定した高サージ耐量の確保も必要とされる。富士電機ではこのような背景を踏まえ,高耐圧高サージ耐量チップの新規設計による,9 kV耐圧,12 kV耐圧の電子レンジ用高圧ダイオードを製品化した。
沖田 宗一,有川 典男,星 保幸
近年の飛躍的なパワーエレクトロニクスの発展とともに,産業分野においてはIGBTが低損失,高速スイッチングの特長を生かして世代交代を重ねつつ発展してきた。富士電機では,従来のIGBTをさらに低損失化し,使いやすさ,高信頼性を追求した第四世代IGBT-PIMの開発・系列化を行ったのでその内容を紹介する。
長畦 文男,佐々木隆興,小林 靖幸
インバータなどの電力変換装置では,市場要求である小形軽量化,高効率化,低騒音化を実現するために,低損失,高速スイッチングを特長とするパワーデバイスであるIGBTの適用が進んでいる。富士電機では,従来系列に対してFWDのVFを約0.5V低減したコンバータ用途専用のIGBTモジュールを開発した。本稿では,新たに開発したIGBTモジュールにおけるFWDのチップ設計内容,系列,定格特性について紹介する。
梶原 玉男,佐々木隆興,鳥羽 進
パワーエレクトロニクス応用装置分野での要求に対応するために,富士電機ではRシリーズIPMの系列拡大として,汎用小容量R-IPMを開発した。その特徴は次のとおりである。(1)専用モノリシックICの開発によるマルチチップモジュールの実現,(2)IGBT接合温度検出過熱保護による信頼性の向上,(3)第四世代IGBTチップの適用,(4)シャント抵抗検出方式による過電流保護の精度改善,(5)セラミック基板構造の採用による漏れ電流の低減。
渡辺 学,佐藤 卓,小田 佳典
インバータシステムの出力電流センサの小形化・合理化および主回路配線の省配線化を目的に,RシリーズIPMをベースに出力電流センサを内蔵し,インバータ端子台を一体化したIGBT-IPMを開発した。その特長は次のとおりである。
(1)出力電流センサ:シャント抵抗内蔵。抵抗値は1.1から3.3mΩ
(2)パッケージ:インバータ端子台一体のP613,P614 2種類
(3)電圧/電流:75から200A/600V,50から100A/1,200V
(4)保護機能:過電流,短絡,不足電圧,チップ過熱保護
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