富士時報
第61巻第5号(1988年5月)

パワーエレクトロニクス・可変速制御技術特集

特集論文

パワーエレクトロニクス・可変速制御技術特集に寄せて

松井 信行

パワーエレクトロ二クス・可変速制御技術の現状と展望

長谷三千雄,堀  重明

パワーエレクトロニクスは産業用エレクトロニクスとも言われ、主回路を構成するパワー半導体素子や、制御回路に適用されるマイクロエレクトロニクスデバイスなどのハードウェア技術、並びにベクトル制御や現代制御理論に代表される各種制御技術の進展により、近年目覚ましい発展を遂げた。本分野における技術の変遷と現状を交流可変速駆動装置を中心に展望し、併せて将来動向についてもふれてみた。

パワーデバイスと適用技術

三木 広志,高坂 憲司,清水 敏久

パワーデバイスはパワーエレクトロニクス応用製品のキーデバイスであり、デバイスの進歩に伴いその適用範囲も拡大してきた。特に、自己消弧形素子の発展は目覚ましく、応用製品の普及を促進した。バイポーラトランジスタやGTOサイリスタに加えて、パワーMOSFETやMBT(MOS-gate Bipolar Transistor)が開発され、普及期を迎えつつある。
本稿ではパワーデバイスの種類、特徴及びその適用領域を示し、これらパワーデバイスの適用技術の一端を紹介した。

最近の可変速駆動装置

上村  猛,長尾 義伸,唐津 了三

現在、交流可変速駆動装置の主流は電圧形PWM制御トランジスタインバータで、三相かご形誘導電動機と組み合わせて使用される。富士電機では、大きく分類するとFRENIC4000、FRENIC5000、FVRの三つの標準シリーズを整備しており、それぞれのシリーズの中にベクトル制御付インバータや、合繊専用インバータなどの標準系列も備えている。ここでは富士電機の各種標準系列インバータの代表的なものの特長、容量系列、将来動向について紹介した。

最近の可変速制御システム

伊藤 伸一,永田 正伸,尾崎  覚

マイクロエレクトロニクスの進展に伴う可変速制御システムのディジタル化によって、システムの機能は飛躍的に増大した。一方、高品質、高生産、高信頼性など、高級化するニーズへの速やかな対応が望まれている。
本稿では、ディジタル化が進む可変速制御システムにおいて、その利点を生かしたアドバンスト制御技術の適用状況、事前評価のためのシミュレーション技術並びにRAS機能としての故障監視及び診断について紹介した。

汎用トランジスタインバータの新しい応用

川畑志農夫,中嶋 幸男,藤原 喜隆

汎用インバータの新しい応用例として、(1)エンコーダを用いた速度フィードバック制御、(2)簡易トルク制限制御、(3)エンコーダを用いた同期運転制御、(4)プレス負荷の主軸駆動、について紹介した。(1)~(3)は小容量機種(22kW以下)のFVR-G5シリーズに適用し、(4)は中・大容量機種(30kW以下)のFRENIC5000G5シリーズに適用することができる。

高圧大容量変換装置(電力系統用及び大容量電動機始動用)

柳谷 好男,楠本  敏,山添  勝

高圧変換装置は高圧パワーデバイスの登場、光学式点弧パルス伝送方式の適用によって、その計画、製作が飛躍的に容易になっている。
富士電機では、この分野で古くから実績を積んできており、各種の製品を製作納入してきた。
本稿では、最近の代表的な製品の中から、揚水発電電動機用、高炉送風機駆動電動機用の始動装置及び静止形無効電力補償装置(SVC)への適用例について、その概要を紹介した。

電気鉄道車両用交流主電動機駆動システム

諸星 幸信,千崎 文雄,若生 雅明

GTOサイリスタの進歩に伴い、電圧形インバータと誘導電動機による電気鉄道車両駆動方式の検討が急速に進められている。富士電機では、4,500V 3,000Aの逆導通GTOサイリスタを使用し、PWMコンバータ装置、インバータ装置及び主変圧器の検討を行い、また実機の試作と地上総合組合せ試験により、種々のデータを取得することができたのでその概要を紹介した。

電気鉄道地上設備におけるパワーエレクトロニクス応用装置

田中 滋夫,荒井 研一,矢野 和博

GTOサイリスタの高耐圧・大容量化に伴い、電鉄分野での適用例が増加している。地上設備で納入例として直流遮断器と回生電力吸収装置がある。前者は、従来の直流遮断器に対し静止化され、サイリスタ式遮断機に比べても転流回路が不要であるため簡素であるという特徴もち、保守性・安全性に優れたものである。後者は、経済的で簡便な回生失効防止装置として有効で、回生エネルギーを抵抗で熱エネルギーとして消費する方式ではあるが、実績データによると消費電力量は極めて少ない。

誘導加熱用高周波インバータ

藤井 正昭,林  静男,野村 年弘

誘導加熱システムは高確率、自動化、省力化、温度制御の容易さ、作業環境の改善などの利点のため広く利用されている。また、加熱条件や加熱能力の違いにより種々の周波数及び出力が要求されるが、これに対し任意の周波数が得られる高周波インバータが広く普及している。富士電機では現在50kHz以下の周波数で、サイリスタ及びパワートランジスタを適用した高周波インバータを系列化して需要に応じている。本稿ではそれらのインバータの標準系列化仕様、特長、動作特性を述べ、また応用製品例を紹介した。

各種電源装置

清水  久,浅井  至,川村 逸生

パワーエレクトロニクス技術を適用した産業用電源のうち、電気加熱用電源、表面処理用電源及び電子ビーム用電源について述べた。電気加熱用としては、ガラス加工を例にとり、溶解・徐冷の工程に適用される交流電力調整器、表面処理用としては着色用電源について概説した。電子線照射装置は近年各種の応用範囲が拡大しているが、電源としては、100~数千kVの直流電源が適用されている。
本稿ではパワーMOSFETを使用した高周波インバータ方式の直流高圧電源について紹介した。

普通論文

ペルトン水車のデフレクタによる同期並列(余水路省略のための実機確認試験)

川澄 孝明,斉藤純一郎,大和 昌一

中小水力発電所のコストダウンのために、有効な手段である余水路省略は、ペルトン水車において、その効果が顕著である。ただし、その実現のためには従来ニードルにより行っていた速度制御、同期並列、負荷調整をデフレクタだけで行うことが不可欠である。中部電力(株)及び富士電機(株)は、このデフレクタによる制御性能の確認試験を、世界でも初めて実機を用いて行い、デフレクタだけによる主機制御及び余水路の省略が可能であることの確認を得た。本稿ではその試験の概要を紹介した。

ライスセンタ監視・制御システム

千葉 胤和,笠原  尚,代島 正夫

日本における農業は、その就業者が高齢化・減少化傾向下にあたり、農業経営改善のため、各地にライスセンタが建設されている。
本システムは、ライスセンタの規模に対応した監視・制御システムとして、省力化・自動化を行い、荷受け待ち時間の短縮、ロット・品質管理の向上、荷受け計画性の向上、夜間の無人運転を可能とした。
本稿では、システムの特長、構成及び機能を紹介した。

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。