富士時報
第65巻第9号(1992年9月)

感光体特集/磁気記録媒体特集

感光体特集論文

感光体の現状と展望

石曽根稔直,野上 純孝,風間 豊喜

電子写真感光体は、普通紙複写機(PPC)、ノンインパクトプリンタなどのOA機器の心臓部品である。富士電機はセレンテルル系感光体の開発により当該市場に参入し、次いで高感度、高耐刷のセレンヒ素感光体の製品化によりその拡大に努めてきた。さらに近年、品質向上の著しい有機感光体(OPC)の製品化も達成し、感光体メーカーとしての機種系列の充実を図っている。本稿ではOPC系、セレン系を含めて計9機種の製品系列について現状の特徴・用途を概説するとともに、今後の展望について述べる。

プリンタ用有機感光体

寺崎 成史,伊藤 成通,浅村  淳

伸長を続ける電子写真方式デスクトップ形ページプリンタ用の有機感光体タイプ8Bを開発した。製品の特長は以下のとおりである。(1)高機能有機導電材料を用いて高感度を実現するとともに、広い感度調整裕度を有している。(2)耐摩擦性に優れた樹脂材料を高機能有機導電材料と組み合わせて長寿命を実現している。(3)高いプロセス評価技術と有機材料操作技術により、各種の印字プロセスに対して良好な適合性を有している。(4)高い耐環境信頼性を有している。(5)安全な化学品のみから構成された製品となっている。

複写機用有機感光体

國司  徹,井口  靖,佐藤 勝博

複写機用有機感光体は低コスト、感光体周囲プロセスのユニット化により市場に受け入れられ急速に発展してきた。最近では特に、有機材料の多様性と機能分離形層構成とが相まって、感光体性能(感度、耐刷製)の向上が著しく、低・中速機分野から高速機分野へと用途が拡大している。このような市場ニーズに対応すべく、低・中速機分野および高速機分野向けにそれぞれ開発した富士複写機用有機感光体について紹介する。 

液体現像用有機感光体

中村 洋一,会沢 宏一,高野 幸雄

電子写真プロセスの現像方式には、粉体トナーを用いる乾式現像法と絶縁性液体中にトナーを分散させた現像液を用いる液体現像法がある。液体現像法の特長としては、(1)高解像度、(2)優れた階調再現性、(3)画像の定着が容易などが挙げられ、オフセット印刷マスタ、印刷用色分解フィルムのカラープルーフなどへ応用される。また今後、高品質画像が要求されるディジタルPPC、プリンタなど広い分野への応用が見込まれる。富士電機は、従来不可能とされた液体現像用有機感光体を世界で初めて開発したのでその概要を紹介する。

高速PPC用セレン感光体

安達 和哉,池見 寿夫,大月 邦夫

富士電機のセレン感光体は電子写真式普通紙複写機(PPC)の進展に伴い、高感度化および高信頼性のための技術開発を行い、コピースピード低速から高速分野までその適応分野の拡大を図ってきた。
本稿では、今後セレン感光体の展開が期待されるコピースピード70枚/分以上の高速PPC分野において、電子写真プロセスに良好に適合するセレン/ヒ素系感光体の高性能化に関し、その技術的内容について紹介する。

半導体レーザプリンタ用セレン感光体

北川 清三,成田  満,田中 辰雄

電子写真方式のプリンタは解像度、階調性、スピードおよび光源のコンパクト化(半導体レーザ)による小形・低価格化の点からその用途を拡大しつつあり、卓上印刷(DTP)および文書ファイリングシステムのハードコピーなどにも使用されている。これに伴って電子写真用感光体への要求も高度化し、高感度、高耐刷性を有する感光体が望まれている。富士電機が開発した半導体レーザプリンタ用セレン感光体タイプ4Dはこのような市場の要求に十分に適合し、今後とも拡大してゆくものと考えられる。

磁気記録媒体特集論文

磁気記録媒体の現状と展望

加藤 忠臣,山崎  恒,上田  一

21世紀に出現すると予想されてる高度情報化社会は、人類とコンピュータとの協調によって実現されると期待されている。その際にポイントとなるのは。超高速中央演算素子の動向と超高速大容量メモリの出現である。その次世代を担うコンピュータメモリの筆頭として近年、固定磁気ディスク装置の躍進が著しい。富士電機はこの固定磁気ディスク装置の中枢機能素子である磁気記録媒体のトップメーカーであり、さらなる飛躍をめざし、さまざまな研究開発活動を日夜行っている。その現状と展望をここに紹介する。

磁気記録媒体の基板加工技術

神代 直人,倉田  昇,嶋田 房次

磁気記録媒体の小径化、薄板化、高密度化に伴い、基板品質の向上が必要となってきている。アルミニウム(A1)合金基板の材質ではニッケルルーリンめっき性を良くするために亜鉛、銅を微量添加している。加工工程においても後工程での基板変形が起きるため、残留応力を開放させるように加熱工程を研磨(グラインド)工程前に施している。さらにはポリッシュ工程での基板変形をなくすために、加工機の改良とともに加工条件の見直しを行った。また、今後の薄板化に対応するためにA1以外の基板材質にも着目し、開発を行っている。

磁気記録媒体のテクスチャ技術

小野寺克己,坂口 庄司,中村 幸次

テクスチャ加工の目的は、CSSに対する耐久性を確保することと加工方向に沿った磁気特性の優先配向を促すことである。富士電機ではテープテクスチャ方式を用いているが、さまざまな制御因子がからみ合うことから十分に経験を積んだ技術が必要とされる一方、制御範囲が広いというメッリトを持っている。また、形成された表面が摩擦や浮上などの実特性とどのように結び付いているかを知るためには、その表面形状を正確にとらえる技術が必要であり、富士電機では触針式粗さ計とSTM/AFMに着目し管理や解析を行っている。

磁気記録媒体のスパッタ技術

柏倉 良晴,松井 良文,長野  恵

薄膜磁気記録ディスクにおけるスパッタ成膜技術について、これまで富士電機が取り組んできた概要を述べる。(1)高保磁力化に対応するため磁性材料としてCoNiCr→CoCrTa→CoCrPtを逐次開発、さらに積層化、他元素添加により低ノイズ化を確認した。(2)成膜ガスにメタンを添加することで得られるカーボン保護膜の膜質を制御しつつ最適化した。(3)磁界計算によりカソードマグネットの配置とターゲット形状を最適化することにより、ターゲットの使用効率を向上した。

磁気記録媒体の潤滑剤塗布技術

伊藤 芳昭,二村 和男,鄭  用一

薄膜磁気記録媒体における潤滑剤塗布技術について、これまで富士電機が取り組んできた概要を述べる。(1)一般に用いられている末端極性基が結合したパーフルオロポリエーテル潤滑剤のロットによる耐吸着性のばらつきの原因が、末端部分の未反応成分や主鎖の短い低分子成分であることを明らかにした。(2)GPC液体クロマトグラフィによる原因成分の除去精製技術を確立した。(3)精製した潤滑剤は最近多く用いられてるようになった硬質ヘッドにも適合し、代替フロン溶媒にも溶解することから脱フロン化も可能となった。

磁気記録媒体の試験検査技術

長村 正一,幅谷 倉夫,宮下 広明

磁気記録媒体の開発においては、それを評価する試験検査技術の開発も重要なアイテムである。富士電機では媒体の開発当初から、各種の試験検査技術についても開発を進めてきた。その結果、出荷品質を保証するために重要となる量産用試験検査装置の開発も行った。
市場の要求は今後更に高記録密度化が進み、媒体に要求される性能もより高度なものになる。
このような要求に対し対応する媒体の開発を進めるうえで、試験検査の高度化も重要な開発アイテムである。

小径薄形磁気ディスク媒体技術

横澤 照久,小沢 賢治,小笠原友信

パーソナルコンピュータの小形化により、磁気ディスク媒体は小径化・薄形化の傾向にある。このため、他の記録装置との競合から、記録密度は上げなければならず、従来より高い加工精度、低欠陥レベルが要求されている。チャンファ形状・クランプ方式などの改善を行い、現在1.89インチ(直径48mm)板厚0.635mm媒体のセミ量産を開始し、板厚0.381mmの薄形媒体の試作を行っている。さらなる薄形対応のために、ガラス基板、チタン基板などの新しい基板材料の探索も行っている。

高保磁力低ノイズ媒体技術

高橋 伸幸,山口希世登,植田  厚

近年、固定磁気ディスク装置の小形・大容量化が進み、媒体やヘッドにも高記録密度化対応が求められ、媒体においては高保磁力化や低ノイズ化が要求されてきている。
高記録密度化に応じて変化してきた媒体の解析を通して、富士電機で取り組んできた高保磁力化、低ノイズ化について述べる。実際の記録再生特性や媒体ノイズから、幾つかの媒体構造を検討した。
今後も世代に対応して記録材料は変化するが、ドライブ技術に合った最適の媒体構造を開発してゆく予定である。

低浮上量高CSS媒体技術

小野寺克己,松崎 孝二,西村 通徳

低浮上かつ高CSS耐久性を有した媒体の開発において、富士電機は、テクスチャ加工、洗浄、成膜、潤滑剤塗布技術など多岐にわたって取り組んでいる。その中でも特に、テクスチャ加工技術と保護膜形成技術については、それぞれスラリー方式とDLC膜に注目し検討を行っている。これらの技術の詳細なメカニズムについては、今後の解析を待たねばならない点もあるが、浮上量で0.06μm以下、CSS耐久性で40kサイクル以上を保証できるレベルに達しているといえるであろう。

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