サステナビリティ
地域の子どもたちを対象とした「理科教室」を開催
2018年公開。所属・業務内容は取材当時のものです
富士電機では地域貢献活動の一環として理科教室を各拠点で行っています。子どもたちの理科離れが進む中、理科の楽しさを知ってもらい科学的な思考を身につけてもらおうという企画です。埼玉県鴻巣市にある設備技術センターでは2017年夏に県や市が中心となって開催する「子ども大学こうのす」の講座のひとつとして理科教室を実施。また子ども大学こうのす入学式の会場としてもセンターを提供しました。こうした官民一体での取り組みに対して子どもたちの反応はどうだったのか。地域の人たちの反響を交えて紹介します。

「私たち設備技術センターは、以前から地域や県の清掃活動、公園緑化への協力や花火大会への協賛といった地域活動をしてきましたが、富士電機が全社で次世代育成支援の拡大を図る中、今まで取り組んでこなかった理科教室をどのように実践していこうかと考えていたんです。その話を、地域活動を通じて知り合った市議の方にしたところ、子ども大学での授業を勧められ、窓口となる鴻巣市教育委員会を紹介していただきました」
子ども大学への参加のきっかけについてそう説明するのは、本センターでこの企画を担当した埼玉地区管理課 主任 新島博恵だ。子ども大学は埼玉県と各市町村もしくは各自治体が協力し、子どもたちの知的好奇心を育てる講義や体験活動を行うというもの。
大学のキャンパスなどを会場に、大学教授や専門家が講師となって行われる。設立からまだ5年の設備技術センターはものつくりの拠点として製造の技術があり、技能研修所として教育の現場でもある。そのため子ども大学にはうってつけに思えた。そして地域からの理解と信頼があってこそ、安定して事業を継続することができるため、本センターをもっと地域の人に見てもらいたいという気持ちを持っていた。そこで、単に理科教室を講座のひとつとして提供するだけでなく、2017年度こども大学こうのすの入学式の会場としても使ってもらい、授業の後には昼食を用意することにした。
何しろ全てが初めての経験。解決しなければならない問題は多かった。
まず受け入れからだ。
「小学生の参加者が60名ほど。その保護者を含めると120名。これだけ大勢のお客様を迎えたことはありません。しかも全員が車でご来場すると仮定して、60台分の駐車スペースを確保することや、駐車場からの道案内について考えなければなりませんでした」
続いて来場者の昼食の準備にも奮闘した。昼食の際のアレルギーの有無の確認など、付随するさまざまな問題をクリアしなければならなかった。カレーは子ども用に甘口のものを、保護者分も合わせて200食用意。 「調理をする人も子ども向けの味付けに戸惑っていました。衛生面で万が一という心配もあり、昼食の提供は迷いがなかったわけではありません。しかし、ただ理科を教えるだけでなく夏休みの思い出にしてほしかった。そのためにみんなで食事をすることは重要だと考えたのです。結果的に子どもたちにも保護者のみなさんにも好評で、中には5回もお代わりする子がいたんですよ」
子どもたちの生き生きした表情がなによりの喜び
本題の授業にも工夫を凝らした。子どもたちを惹きつけるためにプログラムの台本をアレンジ。水をエネルギーに、水車をモータに置き換え、つないだプロペラからの風で車を走らせる実験をする際、講師を3人選出し、博士役と助手役の2人がコント風の掛け合いで話を進め、合間にもう1人が詳しい説明をした。博士役に選ばれたのは設備技術部要素技術開発課 主任 菅田好信。助手役は設備技術部設備設計課の堀 陽平。2人とも普段は子どもに教えることはない。技能研修所電子機器科 指導主任の刈谷裕二は業務で教育に携わっているので説明役を任された。


設備技術センターをもっと地域の人に見てもらいたい
菅田は言う。
「博士の役作りで白衣を着て演技したんです(笑)。同僚から子どもたちを楽しませるように言われたので笑顔を心がけました。参加した子どもたちは本当に真剣で反応がよかった。環境問題についての説明などは難しいかなと危惧したのですが、みんな興味深そうに耳を傾けてくれました」
自分の子どもを見ても、理科に対する関心の薄さがうかがえて気になっていたという菅田。実際に器具に触って実験することの意義についてこう説明する。
「私自身が子どものころ、玩具などなんでも分解してしまって親に叱られたものです。しかし、そういう経験が技術者としての現在につながっていると思うのです。ものに触って仕組みを理解することは重要だと思います」
堀も子どもたちの反応の良さに助けられたと、こう語る。
「難しい顔をした大人たち相手のリハーサルはとても緊張しました。本番も最初は恥ずかしかったのですが、子どもたちの生き生きとした表情を見て、こちらも乗せられた感じでした」
そして刈谷は言う。
「子どもたちには優しく、楽しんでもらえるように接しました。普段は研修所の生徒を厳しく指導していますが(笑)。心配だったのは安全面。昔と比べると今の子は玩具を触って遊ぶ経験が少なく、実験器具で怪我をしたりしないか不安でした。そのため班ごとにスタッフをつけるなどの配慮をしました」



刈谷裕二
毎年続けていくことの大切さ

初めて実施した理科教室で得た手応えを、埼玉地区管理課課長の梶原拓朗はこう話す。
「はじめはどうなることかと思いました。子どもたちは市内各地の学校から集まってきますから初対面ですし、みんな緊張して教室は静まり返ってしまうのではないかと心配したのです。ところが子どもたちはすぐに仲良くなって、協力しながら実験に取り組んでくれました。子どもたちの元気を大人がもらったようなかたちです。感想の中に、“将来、設備技術者になりたい”と書かれたものがあったのは本当に嬉しかった。将来、本当に技術者になって、そして富士電機に入社してくれたらいいですね」

教育委員会からも好評だったようだ。前出の新島は言う。
「来年もよろしくお願いします、と言われました。ですから今、また来年のために別の授業を考えています。というのも子ども大学こうのすは4年生から6年生の3学年が一緒に参加するので、今年の参加者が来年も参加する可能性があり、同じ授業はできません」
プログラムの用意には苦労するだろうが、行政が主催の子ども大学こうのすと連携することで、次世代育成支援を毎年継続していくことが可能となったことは大きな成果と言えるだろう。
また最近では、今後ますます社会で幅広く活用されるコンピュータの動作原理を理解するため、プログラミング教育の必要性が高まっている。
「次回は教育委員会からの要望もあり、プログラミングをテーマにしようと思っています。子どもたちと保護者のニーズを汲みながら毎年続けていきたいですね。地域の課題や要望に応え、喜んでいただくことが、地域貢献活動をする意義ではないかと思っています」