電子行政ソリューション コラム
高知県 / 市川市(千葉県) 2自治体に見る、RPA導入事例の成果と今後の見通し
長期的な人材不足で、DX推進による自動化・効率化が急務に
従来、人がおこなっていた定型業務を、ロボットに代行させることで業務の効率化が期待できることから、自治体のRPA熱が高まっている。特に、ここ1から2年、先行導入した自治体による実証実験の結果が公表され、大きな業務改善の効果が明らかになるとともに、予算措置をともなう本格導入に踏み切るケースが増えつつある。このように、RPAがもてはやされる背景には、自治体における深刻な人材不足の問題がある。少子高齢化が進む国内においては、最大のサービス受給者である高齢者が急増する一方で、労働人口が急速にしぼみつつある。団塊ジュニアが一斉にリタイアする約20年後には、この傾向が一気に加速し(2040年問題)、全国の自治体は、さらに限られた人員で過去最大規模のニーズに対応せざるを得なくなる。このように受給体制の逼迫が進むなかでも、住民サービスの質を維持・向上させるには、とにかく徹底した業務効率化を図るしかない。自治体におけるRPA導入の拡がりや、それを後押しする国によるデジタル庁設置の計画などは、こうした考えに基づく動きととらえることができるのではないか。
実証実験で確かな成果を得て、RPAの本格導入を進める自治体事例
LGWAN対応のデスクトップ型RPA「OCEVISTAS mini for 自治体」など、自治体向けRPAソリューションを展開するOCE。2021年3月現在、20弱の自治体にて同社製品が導入されているが、本格的に導入が進むのは、まさにこれからだという。「弊社製品をOEM提供しているパートナーさんの案件も含め、全国的に引き合いが増えています。弊社の直案件では、実証実験で一定の成果を確認された自治体様が、いよいよ令和3年度から予算をつけて本格導入に踏み切るケースが多い状況です」と語るのは、同社事業推進統括部 NB推進室長の森雄介氏だ。次章では、本格導入の代表例としてご紹介いただいた、2つの自治体におけるRPA導入事例をご紹介する。
<高知県>人件費推計表作成業務にRPAを導入、作業時間380時間を大幅に削減
高知県では、行政事務のデジタル化推進による、業務効率化を通じたコスト縮減や県民サービスの向上を目指し、令和元年度に情報政策部門を中心にRPA導入を推進。導入に際しては、全庁の業務を対象に調査を実施し、洗い出した140業務の中から約30業務を厳選。その後、OCEと一緒に優先順位や必要な工数・時間、RPA適正などの視点で選考した結果、財政課の人件費推計表作成業務でRPA(OCEVISTAS mini for 自治体)を導入することに。人件費推計表は従来、給与システムから全職員の給与データを紙出力した上で各所属に配付し、各所属の担当職員が調整のうえ表計算ソフトに手作業で入力する作業を、年間所要時間:380時間かけて行っていた。RPA導入後は、紙で出力していたデータを給与システムから直接CSVデータで書き出して、このデータを表計算ソフトに入力し、所属ごとに分ける作業をロボットに代替させた。その結果、380時間の処理のほとんどの作業がロボットに代替えでき、正確性も100%であったという。この他にも、「特別養護老人ホーム入所状況調査」や「教職員名簿作成」といった業務にも導入している。同県では引き続き、ロボット作成や運用ができる人材を各課で育成しながら導入拡大を行い、令和2年度はさらに20業務への導入を進めている。
<市川市(千葉県)>現場でロボット作成、90分の作業が15分に短縮され転記ミスも解消
「現場職員が使いこなす」ことにこだわり、業務の選定からロボット作成まで、職員を中心におこなっているのが市川市(千葉県)だ。令和元年度、繁忙期の時間外労働の是正が課題となっていたこども福祉課に「OCEVISTAS mini for 自治体」を導入。同課の職員6名を対象に操作研修を実施の上、児童手当の関連業務のロボットを実際に作成してみることに。児童手当の所得照会業務に取り組み、試行錯誤の末シナリオの動作に成功した。そのほか、子ども医療費助成金の返納額内訳作成や年金情報照会など活用を進めており、年金情報照会では従来、職員が90分ほどかけておこなっていた処理を15分程度まで短縮することができたとのこと。RPAの導入によって、転記ミスがなくなり、チェック作業も不要になるなどの効果も得られたが、何より“RPAによる業務改善の可能性”を現場が体感し、組織全体の意識向上につながったことが大きいという。同市では、引き続きRPA活用プロジェクトを現場レベルで盛り上げ生産性向上につなげつつ、住民を幸せにするための業務により一層注力していく計画だ。
クリティカルな課税関連業務でのRPA導入などが拡がる可能性
令和元年度に「OCEVISTAS mini for 自治体」を導入した前段の2自治体ともに、実証実験フェーズで確かな成果を認め、令和2年度も利用を継続し、令和3年度に向けても適用業務の拡大が既定路線となっている。RPA導入に際しては、当然コストもかかるが、費用対効果について導入自治体はどのように考えているのか?OCE様にお聞きしたところ、「弊社のRPAツールのライセンスは、年間90万円ですが、前述の高知県様の場合、人件費推計表作成業務だけで年間380時間近くの工数削減を果たしており、費用対効果は得られるという評価で、令和3年度も予算措置いただき、さらに利用を拡大していこうという話になっています」との回答であった。その上で今後の動向についても、「導入を検討する自治体は増えていくと思いますが、ある意味まだ“おっかなびっくり”で、適用業務の領域は限定的です。特に、自治体におけるコア業務とも言える課税関連の業務は、クリティカルな側面もあり、取り組みはまだまだです。今後AIの確実性・正確性が確認されれば、膨大な業務量を抱える課税関連業務にも適用されるようになり、自治体の業務改善に、かなりのインパクトをもたらすでしょう」と将来に向けて大きな可能性を指摘した。
先の2つの事例にもあるとおり、基幹系システム・内部事務システムともに、各種業務システムでのRPAの活用の幅は大きそうだ。富士電機株式会社の「e-自治体 庶務事務システム」や「e-自治体 会計年度任用職員管理システム」においても、申請される通勤手当の認定業務や、各種集計情報をRPAで自動化することにより、さらなる業務改善が図れる。各業務システムの導入と同時にRPAの活用も含めて検討・導入による、より高度な業務改善を目指す自治体にお勧めしたい。
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