富士電機が貢献する環境・社会課題
コンビニの脱炭素化に貢献「新・店舗コントローラ」の開発
日本全国に約56,000店あるコンビニで、冷蔵冷凍ショーケースのシェア40%強を占める富士電機が、店舗全体のエネルギーを管理できる「新・店舗統合コントローラ」を開発し、完成間近となった。省エネ、脱炭素などコンビニ業界が抱える課題に、一歩先を行くトータルソリューションを提案するものだ。開発に携わる社員3人に話を聞いた。
ショーケースだけではダメ! 店全体でCO2排出量を削減
富士電機は食品の冷蔵冷凍ショーケースの温度や稼働状況を管理する「店舗統合コントローラ」を2012年に開発した。店舗のバックヤードに設置されるもので、ショーケースとセット販売して、これまでに全国のコンビニに約6,000台を納入していた。
2020年10月、政府が2050年までにカーボンニュートラル社会を目指す方針を発表したことで、産業界は対応に追われた。
食品流通事業本部でコンビニ向け営業を担当する卜部弘嵩(うらべ・ひろたか)はこう話す。
「コンビニの電力使用量の約40%を冷蔵冷凍ショーケースが占めています。高いCO2削減目標を達成するには、ショーケースの省エネは欠かせませんが、それだけでは無理だとわかったんです」
2023年4月、富士電機ではコンビニの脱炭素化に貢献するため、店舗全体の省エネ機能を搭載した「新・店舗統合コントローラ」の開発が具体的に動き始めた。ショーケースと空調・換気・照明設備などを連携させてエネルギー使用量を制御するシステムだ。
ショーケース単体で出来る省エネには限界がある。残りを「新・店舗コントローラ」が担う。コンビニが掲げる省エネ目標を達成するために、卜部は「お客様の想像を超えた提案が必要だった」と言う。
目標値を上回る省エネを目指す
ショーケースと他機器をつなぐためにはデータ通信量を増やし、CPUの処理速度を従来の3倍以上に上げる必要があった。
開発部で配線や基板の電気設計をする毛利太一は「こんなスピードでつくるのは三重工場で初めて。設計の難易度が高かった」と言う。
開発にはかなりの時間がかかると思われたが、毛利は以前勤務していた東京工場のシミュレーション開発ツールが使えることを思いついた。これが工数の削減や開発時間の短縮につながった。
一方、ショーケースと新・店舗統合コントローラを連携させるソフトを開発する岸川真は、エネルギー制御の条件を模索していた。
そこで複数のコンビニ店舗のショーケースのデータ1年間分をもとに、三重工場内にある実験店舗で再現して機器の動きを含めたエネルギー消費量のデータを集めた。
食品の安全を守りながらも最大限の省エネを実現するラインを探っていくために、まずショーケースの外気温を変えたとき冷却運転率はどう変化するのか、さまざまな条件下での調整でトライ&エラーをくり返した。さらに、空調などの他機器と連携したときのデータをやり取りする仕様も整合し、省エネの実現ラインを検討していった。
「お客様の目標値を達成することはもちろん、より精度の高い制御を目指し、ソフトの仕様を調整しました」(岸川)
コンビニの人手不足も解消
日々進化するコンビニ業界に対応するため、新・店舗統合コントローラはオンラインでソフトをアップデートすることで多機能化できる。しかし、店舗に設置するハードウェアは簡単に取り換えることができない。
毛利は「5年後、10年後にどんな機能が追加されるかを想定して、将来のアップデートに備えてハードウェアのスペックに余力を残しておかなくてはいけない。コスト面とスペックの折り合いをつけるのに苦労しました」と振り返る。
岸川は、オンライン連携によって省エネだけでなく、コンビニの人件費削減につなげることも狙った。
「外気温の変動に合わせてショーケース内を適温に自動調整し、食品の安全を守りながら、エネルギーの無駄を省きます。さらに、ショーケース内のあらゆるデータをクラウドサーバーに集約することで、ショーケースの異常を予知できるようにしました。故障する前に警報を出すことによって、予防保全により、店舗営業への影響を最小限に抑えることにつながります」(岸川)
人が実際に機器を操作するときの使いやすさも追求した。営業の卜部がコンビニ店舗やメンテナンス会社にヒアリングして開発側にフィードバック。使いやすい画面サイズや操作性などを追求して最適な仕様にした。
「ゼロからイチを生み出せるのが設計開発の醍醐味です。コンビニに置かれている身近な製品を『自分がつくった』と自信をもって言えるのでやりがいを感じます」(毛利)
“オール富士電機”で、さらなる脱炭素化
環境への配慮や電気代の値上がりで、コンビニ店舗は太陽光発電などの再生可能エネルギーに向けた投資に積極的な流れができつつある。
富士電機は再エネを有効活用できる蓄電池システムの開発もしている。新・店舗統合コントローラでは、パワーコンディショナー(電力変換装置)と連携させて再エネのマネジメントシステムへの活用も視野に入れている。店舗の電力消費量の変動に応じて最もエネルギー効率を上げることで、脱炭素と電気料金カットを実現できる。
毛利は「富士電機全体の技術を共有することで、“あの技術はこの製品にも使えるんじゃないか”と発想の幅が広がります」と話す。
営業への信頼が開発意欲を生む
入社4年目の岸川はあまり積極的にコミュニケーションを取るタイプではないというが、新・店舗統合コントローラの開発では、さまざまな設備のエネルギーを制御するために積極的に他部署を訪ねて多くのデータを集めた。
「他部署の人と密にコミュニケーションするのは入社後初めてのことでした。違う製品の担当者や営業担当者に協力してもらうきっかけを、自分からつくれたことに大きな達成感があります」と話す。
入社10年目の卜部は就職先を富士電機にした理由は“人”だったという。
「自分が営業の仕事を楽しくできているのは、上下関係なく周りが助けてくれる職場環境があるからです。だからこそ、僕たちのような若手3人がメインとなってガツガツ仕事をできるんです」
3人の関係性について毛利は「営業から技術的に難しい開発を頼まれて、"そんなこと言われても"と思うことはあります。でも、僕らが良い製品をつくれば、卜部がお客様にきちんとアピールしてくれる信頼感がある。だから、開発側も負けずにがんばれるんです」と話す。
その3人が開発に携わり、より進化するコンビニを支える「新・店舗統合コントローラ」は2025年に販売が始まる。