開発ストーリー
イチゴやケーキが自販機で!?店舗と同じ美味しさや安心感を無人販売でも実現

イチゴ、ホールケーキ、卵――。
富士電機が2025年3月に販売した冷蔵ロッカー型自販機は、従来の自販機では扱えなかった「衝撃や暑さに弱い商品」を、冷蔵しながら形状や品質を保ったまま販売できる。ありそうでなかった業界初の自販機だ。
開発のきっかけは、営業現場に寄せられる「売りたいけど、売れない」の声だった。営業が市場ニーズを拾い上げ、それに技術者が応えるかたちでスタートしたプロジェクト。それぞれの思いを三人の社員に聞いた。
「お客様の声を聞くたびに、もどかしくて…」

「イチゴを自販機で売りたいんだけど、できる?」
農家の直売所では昨今、「採れたての果物を冷蔵で売りたい」「人手不足だから無人販売にしたい」という理由で冷蔵自販機のニーズが増えている。しかし、食品流通事業本部で営業を担当する元橋は相談を受けるたび、「すみません、現状では難しいんです」と答えるしかなかった。
富士電機には冷蔵機能が備わっている食品自販機もあるが、商品が自販機下部の取り出し口に落下するため、形状が崩れやすい食品には向いていなかった。
元橋はそうしたお客様のニーズを聞くたびに、「もどかしくて、もどかしくて……」と当時の心境を振り返る。
元橋はそんなある日、インターネットのサイトをみて衝撃を受けた。飲料自販機を独自に改造して、青果やケーキを販売している画像を見つけたのだ。
既存の自販機では市場のニーズを満たしきれていない――。
社内提案後に開発即決
モヤモヤしていた元橋は2021年10月、新設された「新事業開発部(現・新流通技術部)」に配属された。営業が現場で感じてきた市場のニーズを、技術者に直接伝える橋渡しの役割を期待されていた。
部長から「今どんなものが求められているか?」と聞かれ、頭に浮かんだのは「イチゴを売りたい」と言った農家の顔だった。話をすると、部長は「それはいい、やってみよう」と即決。すぐに本格的な市場調査を始めた。
青果やケーキは実物を見て買いたいというニーズがあるはずだが、冷蔵機能付きで、中の商品が見える自販機はほとんど存在しなかった。
また、イチゴや卵など小さいものから、ホールケーキや米など大きなものまで、顧客によって扱う商品の大きさが異なる。そこで、商品収納室内の仕切りを取り外しできるようにすることで、室内の大きさを柔軟に変えられる構造を考えた。
商品の視認性が高い。庫内を商品の大きさに合わせて自由に区切れる。扉を開けて直接取り出せるから商品が崩れない。2023年春にロッカー型自販機の構想を固め、試作段階のデモ機で様々な業界の方々から改善点などの意見をもらい、すぐに量産に向けた開発が始まった。
従来の飲料自販機とどう違う?

自販機部で設計を担当する水野のもとに開発の依頼があったのは2023年下期だった。「とにかく早く製品化してほしいということだったので、時間との戦いだった」と振り返る。
開発期間は限られていたため、既存の飲料自販機の冷却システムやコンビニエンスストアのショーケース技術をフル活用することにした。しかし、水野は「今回の冷蔵ロッカー型自販機は飲料自販機と考え方が大きく違うところがある」と感じていた。
「商品を買うお客様が扉を開け、商品を取って、扉を閉める。どのタイミングで商品を取り出すのか、扉を閉めなかったらどうすべきか、という点を考慮して制御システムをつくらなくてはいけなかったからです」
通常の飲料自販機は制御基板を1枚にまとめている。ハーネス(信号や電力を伝えるケーブルを束ねた配線部品)を短くし、ノイズの影響などを防止するためだ。だが、冷蔵ロッカー型自販機は複雑な制御が必要なため、自販機の下部にある冷却機を挟んで左右に制御基板を配置することにした。
ハーネスが長くなると、電磁界からのノイズや電圧低下などの支障が出る可能性があるが、水野は「本当は1枚に集約できる新たな制御基板を開発したかったのですが、時間が限られていたので2枚の配置を工夫しました」と話す。

一方、自販機の構造を担当した山口は、商品の収納室がある本体部と代金処理を行う決済部を分ける設計にすることで、多くの商品を販売できる「大容量」を実現した。
「今回の製品では、大きな収納室が10個あり、1室で20kgまで耐えられる強度なのでお米も売れます。さらに1室を4分割できるので、最大で40室にすることも可能です。耐重量の大きさと室数の多さは、おそらく業界でも類を見ないと思います」
もう一つ特長がある。
収納室は、取り外しが可能な間仕切りで分割をするが、この間仕切りによって冷気が遮られることもあり、収納室すべてが均等に冷えないことがあった。そこで、今回の冷蔵ロッカー型自販機では収納室の背面から冷気を送り込む方式を開発。空気の流れを解析して、冷気の吹き出し口の最適な位置を決めた。


発売から半年で100台突破

2024年9月から冷蔵ロッカー型自販機の予約販売を開始し、2025年3月に発売した。本格的な着手からわずか約1年半という開発スピードだった。
発売から約半年たった。元橋が「バックオーダー(注)も含めると約100台になったのよ」と言うと、水野は「そんなに売れてるんですか?」と驚いた。
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注
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バックオーダー:受注済みで納期待ちの注文
水野は「あらかじめ決まった顧客もいないし、当初そんなに売れないんじゃないかと心配してたけど、がんばった甲斐がありましたね」としみじみ言った。

元橋のもとには、続々と導入事例が集まる。最も多いのがイチゴ農家だ。ちょうど発売時期がイチゴのシーズンと重なり、イチゴ狩り農園などで採用が進んだ。
洋菓子チェーンでの成功事例もある。
「シュークリームの詰め合わせやシフォンケーキなど今までの自販機では売れなかった大きな商品を販売することで、会社帰りの男性サラリーマンなど、今まで購入していなかった層の需要が取り込めたという話を聞きました。」(元橋)
養鶏場での卵販売も増えている。夏場の猛暑の中でも、冷蔵自販機なら安心して販売できる。収納室のサイズを変えて、卵とプリンをセットで売っているところもあるという。
「世の中に『こういう自販機がある』ということを知ってもらうことが一番大事。認知度を上げて、いろんな業態の皆さんに『商品の販売に使える』と気づいてもらいたいですね」(元橋)
「もっとかっこよく」「連結を」バージョン2も視野に
売れ行きは好調だが、水野と山口は「まだまだ改善できるはずだ」と、すでに次のステップを見据えている。
「まずは見た目。商品の写真ではなく、液晶ディスプレイにしたら、もっとかっこよくなる」(水野)
山口も「将来的には自販機を連結して、もっと多くの商品が売れるようにしたいです。
2台の自販機を連結する構想はありますが、実用化に向けては改善が必要です」と話す。
理想の自販機に近づくために、冷蔵ロッカー型自販機バージョン2への夢は広がる。

学生に伝えたい言葉を三人に書いてもらった。元橋(左)は「一人じゃ何もできないので、いろんな人の助けを借りている。常に相手への感謝を忘れずに仕事しています」。水野(中)は「仕事に特別な才能はいりません。コツコツ努力することが大事だと思います」と話し、山口(右)は「さまざまな部署から人が集まって一つの製品をつくっています。チームワークが本当に大切なんです」と話した。
「富士電機らしさ」がギュッと詰まった自販機
営業が市場ニーズを拾い、開発が既存の技術を組み合わせて素早く形にする。水野と山口は「こんなことができたのも、富士電機だからこそだと思う」と口を揃える。
「特別なことはしていません。これまで培ってきた技術を組み合わせて新しい自販機をつくることができた。それだけです」(水野)
しかし、「それだけ」を実現できるのは、長年培ってきた技術の総合力があるからこそだ。新市場を切り拓く冷蔵ロッカー型自販機には、「富士電機らしさ」がギュッと詰まっている。