インタビュー
インタビュー1.脱炭素社会の実現へ。富士電機の再生可能エネルギーと系統連携技術

日刊工業新聞電子版 (2021年9月29日から10月12日)に掲載されたものに一部図を追加しています。

富士電機は再生可能エネルギー分野での幅広い事業ポートフォリオを生かして脱炭素社会の実現に貢献する。日本をはじめ主要国が2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を打ち出し、再エネ導入拡大や社会のさらなる省エネルギー化を急ぐ。富士電機はクリーンエネルギー関連商材に加えて、電力制御用パワー半導体を内製する強みも持つ。エネルギー・環境事業を通じた社会貢献とともに、脱炭素時代の持続的成長企業を目指す。

貢献するSDGs目標
住み続けられるまちづくりを
産業と技術革新の基盤をつくろう

環境負荷の低いクリーンエネルギー技術とエネルギーの安定供給が求められる中、
富士電機は再生可能エネルギーと系統連系技術で、脱炭素社会の実現に貢献します。

2050年カーボンニュートラルを見据えた技術開発

発電プラント事業本部 エンジニアリング統括部長 北西啓一氏
発電プラント事業本部
エンジニアリング統括部長 北西啓一氏

富士電機は1923年の創業以来、エネルギー・環境技術に磨きをかけ、「豊かさへの貢献」「創造への挑戦」「自然との調和」を経営理念に掲げてきた先進企業だ。そのクリーンエネルギー関連商材は太陽光、風力、地熱、水力発電と主な再エネを網羅している。

発電プラント事業本部エンジニアリング統括部長の北西啓一氏は「政府のエネルギー政策の視点で大きな変化がある。2050年までのカーボンニュートラルに向けた具体的な数値目標が示された。再エネ普及がますます進むはずだ。今後は変動分散電源の安定化技術がより注目される。また、企業や地方自治体の動きも電力の地産地消へシフトしつつある」とメガトレンドの変化を感じ取る。

富士電機は2012年の固定価格買取制度(FIT)の開始以降でメガソーラーを22か所、総計510メガワット導入した実績がある。電力系統安定化技術に特長があり、北海道電力管内での連系点電力の変化率毎分1%以下という厳しい出力変動緩和基準に対応した技術を開発している。

すずらん釧路町太陽光発電所
すずらん釧路町太陽光発電所
PCS(パワーコンディショナー)
PCS(パワーコンディショナー)

2020年に商業運転を開始した「すずらん釧路町太陽光発電所」は富士電機が設計・調達・建設(EPC)契約で受注した。開発した出力変動抑制技術を採用し、蓄電池設備を併設したメガソーラーとして日本国内最大級(プラント出力はDC92メガワット/AC59メガワット、蓄電池24メガワット/h)の規模だという。

電力の地産地消として、公共施設向けに、複数個所ある小規模な太陽光設備と蓄電池設備を自営線で繋ぎ、対象とする需要家に再エネ電力を供給することを目的とした太陽光による地域マイクログリッド案件への取り組みを開始した。今後、益々ニーズが高まると想定しており、注力分野である。

発電プラント事業本部 エンジニアリング統括部 再エネ営業技術部長 岡本良一氏
発電プラント事業本部
エンジニアリング統括部
再エネ営業技術部長 岡本良一氏

海外の太陽光ビジネスについて、北西氏は「太陽光は発電設備種でもっとも容易に建設可能で、電力が不十分な東南アジアなどでニーズが高まっている。ただ、コスト競争も激しくなっており、こちらも蓄電池やPCS(パワーコンディショナー)を活用した安定化技術で差別化を図る」と今後の戦略を語る。

北海道の大地で培った系統安定化技術は今後国内で建設計画が相次ぐ風力発電所への応用が期待される。再エネ営業技術部長の岡本良一氏は「風力発電の導入拡大により系統安定化制御が必要になる。また、非常に容量の大きい蓄電池も併設されるため、蓄電池向けPCSの大容量化に取り組んでいる。洋上風力は長距離送電で電力品質の維持が課題になるので、電力解析技術の開発も並行して進めている」と新たなビジネスチャンスを狙って技術開発を急ぐ。

また、現在、FIT満了した風力発電設備を利活用し、蓄電池を新たに併設し、発電電力を公共施設へ供給するエネルギー地産地消案件にも取り組んでいる。一般に、FIT事業対象の風力発電設備は、風況が良い場所に設置されており、着目すべき市場と捉えている。

地熱発電設備で世界トップシェア 多彩な納入実績で業界をリード

発電プラント事業本部 エンジニアリング統括部 再エネプラント技術部長 大田洋充氏
発電プラント事業本部
エンジニアリング統括部
再エネプラント技術部長 大田洋充氏

日本は火山大国であり、地熱資源量は世界3位を誇る。また、インドネシアやフィリピン、アメリカ、アイスランド、ケニア、ニュージーランドなど海外でも地熱発電所の建設案件は多い。再エネプラント技術部長の大田洋充氏は「地熱発電設備で累計84台、3500メガワットの納入実績がある。2000年度以降の実績としては世界トップシェアを獲得している」と胸を張る。

2021年2月にはニュージーランドのタウハラ地熱発電所向けの発電設備一式の受注を発表した。2023年の完工予定で、プラント出力は152メガワット。これは富士電機が2010年に納入した同じニュージーランドのヌ・アワ・プルワ地熱発電所の140メガワットを超えて、単機容量として世界最大規模となる。

富士電機の水力発電機器事業の歴史は古い。1936年に1号機を納入して以来、国産クリーンエネルギー供給に貢献してきた。大田氏は「日本では今後寿命を迎える水力発電所が多く、高効率設備へ入れ替えるスクラップ&ビルド需要が増えている。また、再エネ導入に伴う調節力として揚水発電がより重要になるため、我々の技術・製品の揚水発電分野への展開を今後視野に入れていきたい」と事業拡大を目指す。

電力制御に使うパワー半導体に脱炭素時代の成長を託す

自動車の電動化が注目されがちだが、再生エネなど産業用の需要拡大ペースも早い。富士電機はもともと工場向けの中容量帯が強く、風力や太陽光発電、鉄道などの大容量帯と、エアコンなど民生中心の小容量帯へ製品ポートフォリオを広げようと開発に力を入れてきた。現状の割合は大容量帯が20-25%、小容量帯が15%で、残りの60-65%が中容量帯だ。今後の世界的な再エネ導入拡大を踏まえると、大容量帯の比率をさらに伸ばすのが当面の事業目標だ。

富士電機は今後も社会の脱炭素化を強く後押ししていく。「地球温暖化対策や再エネの主力電源化の実現に向けて、我々は十分に貢献できるはずだ」と北西氏の言葉も熱を帯びる。エネルギー・環境技術の腕の見せどころだ。

(注)

撮影時以外はマスクを着用し、新型コロナウィルス感染症への対策を行った上で取材しています。

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