富士電機が貢献する環境・社会課題
再エネ活用促進に向けた新技術 「GFMインバータ」開発最前線
世界で再生可能エネルギー(再エネ)の利用が広がるなか、日本政府も再エネを主な電力源にする目標を掲げ、脱炭素化を進めている。しかし、再エネを大量に導入するには課題がある。その解決方法の一つとして、電力系統の安定性を保つための新しい技術が注目されている。
今回は、富士電機でGFMインバータ(Grid-Forming Inverter)の開発に携わるメンバー3人に事業化に向けた最先端の話を聞いた。
電力系統の課題とGFMインバータの必要性
発電所でつくられる電気は、「系統」と呼ばれる送電・配電網を通じて、家や工場に運ばれてくる。系統は電力の需要と供給のバランスを取りながら、周波数を一定に保つことで、安定的に電力を供給している。
これまで系統を支えてきた火力・水力発電所などの大型発電機は、回転力で生じる「慣性力」があり、周波数を一定に保つ役割を果たしてきた。しかし、現状の再エネ発電には慣性力がない。太陽光や風力で発電した電気をそのまま大量に系統に送り込むと、周波数が不安定になって最悪の場合は大規模停電を引き起こす恐れがある。
脱炭素の道筋をつけるためにも、慣性力がない再エネ発電を系統で安定的に活用できる工夫が求められていた。
慣性力の低下に対応する技術を調査していた研究開発部門の上村は「GFMインバータについて書いている海外の論文を見つけたとき、『これだ!』と思いました」と話す。
調べてみると、富士電機は2010年代後半からGFMインバータの開発に取り組んでいる。GFMインバータは制御ソフトを用いて発電機の特性を模倣する。発電機と同様に慣性力を供給し、系統の周波数を安定化させることで再エネ利用率向上への貢献を目指す。
部門を越えた連携と開発チームの挑戦
顧客ニーズを把握して社内へ情報を展開する、営業担当の小柴は、理系の大学院出身。営業現場では専門的な知識が必要なケースが多いので、大学院で学んだことが役立っているという。
「GFMインバータは、現状では大量生産品ではなく実証設備なので、お客様はいろいろなことを試したい。だから当然、要求内容は細部にわたります。その要望をかなえるために調整するのが私の仕事です。技術要求だけでなく、金額や納期にかかわるときは、まさに営業の出番になります」
小柴からの情報を得て、GFMインバータの製品化に向けた仕様づくりをするのが、電力流通技術部の岡だ。大学院の修士課程を終了後に入社して、いま3年目で技術部署を束ねる役割を担う。
「技術課題を整理して設計部門や研究開発部門など適切な部署に相談します。細かなところは設計・製造・試験の部門が担いますが、事業化に向けて全体のとりまとめを行います」と話す。
コア技術の開発と改良を担当する上村は博士号を持つ中堅技術者だ。「まだまだ課題が残されていますが、脱炭素社会の実現につながる意義の大きな取り組みなので、粘り強く取り組んでいます」と言う。
事故が起きた際も運転継続可能なGFMインバータを目指して
GFMインバータ開発は、富士電機が長年培ってきたパワーエレクトロニクス技術が根底にある。小柴は「インバータのハードから制御ソフトまで一貫して自社開発できる技術力を持っているところが、大きな強みです」と語る。
GFMインバータの開発で重要な技術的課題の一つが事故時運転継続能力(Fault Ride Through能力:FRT能力)を向上させることだ。
上村は言う。「独自に開発したGFMインバータ用の過電流抑制機能(注)を生かして、周波数変動や電圧変動などのトラブルが起きても運転を継続できるGFMインバータの開発を目指しています。開発が成功すれば、富士電機の製品としての強みになるだけでなく、GFMインバータが導入された電力系統の安定化に貢献できます」
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(注)
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過電流抑制機能=電流が多く流れて内部機器が焼損することを防ぐために電流量を制御する技術
実機組み合わせ試験で得られた教訓
その事故条件下での運転を試験する際、チームは予期せぬ困難に直面した。3週間にわたる実機試験の最終日が3日後に迫っていた。
系統側の電圧をゼロまで下げるという、通常ではあり得ない厳しい条件での試験だった。満を持して臨んだ試験だったが、設計段階では動作するはずだったインバータがなぜか動かない。
「この日が山場だろう」と上村と小柴は実機組み合わせ試験の現場に来ていた。上村が状況を確認すると、インバータが動かない原因は系統連系盤の遮断器が開放されてしまっていたからだとわかった。すぐにシステム設計の担当者や試験員と協力し課題を克服した。
「インバータ単体ではなく、系統連系盤や監視操作盤などと組み合わせたシステム全体で機能させる必要があるという大きな教訓を得ました」(上村)
実用化に向けた技術的課題への取り組み
系統向けのGFMインバータには、もう一つ課題がある。GFMインバータ自体は停電時でも運転継続が可能だが、現行のルールでは、上位系統が停電になったときは安全のために運転を停止しなければならない。
富士電機の研究開発の特長の一つに、実機を使った試験環境が充実している点があり、こうした課題に取り組むため、開発チームは詳細なシミュレーションと実機試験を繰り返している。「理論と実践の両面からアプローチすることで、より信頼性の高い製品開発を進めています」と岡は語る。
未来の電力ネットワークへの貢献
「富士電機では、事業として取り組んでいる内容そのものが社会課題の解決に貢献します。だから、目の前の課題に取り組むことが、そのまま社会への貢献につながります」と上村は話す。
いま3人の目の前にある課題は、GFMインバータの実用化。実現すれば、再生可能エネルギーの導入を促し、脱炭素社会の実現に大きく貢献する。