開発ストーリー
使いやすさを追求!監視制御システムの「エンジニアリングレスで簡単導入」を目指す3人のしごと改革

使いやすさを追求!監視制御システムの「エンジニアリングレスで簡単導入」を 目指す3人のしごと改革

鉄鋼プラントや化学プラントなど絶えず製品をつくり続けている素材産業の現場では、生産プロセスが一度ストップすると大きな損失につながる。生産プロセスそのものの自動化を図りつつ、その生産を止めるような事態を未然に防ぐため、設備の動きをコントロールし、稼働状況をリアルタイムで見守る監視制御システムが導入されてきた。最近では、脱炭素に向けた生産現場の省エネ化も喫緊の課題としてクローズアップされるなど、監視制御システムの重要性は、一層増している。

1990年代から監視制御システムを手掛けてきた富士電機は現在、2022年に発売した「MICREX-VieW FOCUS Evolution」について、使いやすさの追求といった機能強化を推し進めている。30年にわたって継承される技術と歴史のバトンを受け継ぎ、開発を担う3人の社員に話を聞いた。

入社直後から“一緒”に成長

監視制御システムは、プラントや工場の製造ラインや設備が正しく稼働しているかどうかを、各設備の計測データを収集してチェックするもので、とりわけ大量生産をする規模の大きい工場では欠かせない。だが、システム導入の際、工場に精通したエンジニアによるプログラミングやネットワーク構築などのエンジニアリングが必要で、人手や手間の負担が大きいのがネックだった。

今進めている機能強化では、この問題の解決を目指している。

例えば、ドラッグ&ドロップといった簡単操作でエンジニアリングを可能にする。2020年に入社したHMI開発部の小松は、経験の浅い若手エンジニアでも容易に使える操作性をめざして開発にあたったという。

注)

HMI=システムを運用する際に操作・監視する画面

HMI開発部の小松
HMI開発部の小松

「労働力不足が進む中、現場では若手エンジニアも即戦力として業務にあたっていますが、経験が浅いことから、監視制御システムの導入に必要なエンジニアリングに時間がかかっていることが課題です。そこで、これまでの手作業によるシステムの立ち上げ手順を自動化するなどして、ユーザーの負担を減らしています」

さらに、複数のエンジニアが同時にシステムにアクセスして作業できる「マルチエンジニアリング」機能も、盛り込む予定だ。

「入社後はずっと、MICREX-VieW FOCUS Evolutionの開発に携わってきました。今回も、蓄積できるデータの種類が増えたり、監視画面が操作しやすくなったりと、次々と新たな機能が搭載されていく過程を目の前で体験できて幸運でした。そのうえ、自分が開発したものを、ほかの人に試してもらったときに『こんなこともできるようになったんだ』と喜んでもらえたこともありました。いま、すごくやりがいを感じています」

小松には、ある思いがあった。

「従来の機種を海外で使ってもらったところ『操作が複雑すぎる』と本格導入には至らなかったケースがあったと聞いています。だから今回は、そのリベンジ戦でもありました」

人とかかわるのが苦手だったのに…

2019年に入社したHMI開発部の中島は、システムを運用する画面の開発を担う。「今回はたくさんのアップグレードがありました。その変更に伴って、画面の開発と並行しながら、システム内部のプログラミングをする部署とやりとりを行い、仕様の変更などを依頼するのも私の仕事です」と話す。

HMI開発部の中島
HMI開発部の中島

正しく指示ができないと、開発の担当者に何度も手間をかけてしまう可能性もある。最悪の場合、思った通りに製品が仕上がらないことにもなりかねない。それを防ぐため、密なコミュニケーションを心がけた。

しかし、「たくさんの人とかかわるのは苦手だったんです」と中島は話す。指示を出す相手は、10歳も、20歳も年齢が上の人のこともあり、当初は、どうしても遠慮してしまうことがあった。

「でも、勇気を振り絞って話しかけるようにしました。話すうちに仲良くなれるし、なにより先輩たちはびっくりするほど優しかったんです。指示どおりの成果物が出来上がって、それをお客様に使ってもらうと喜んでもらえて手応えを感じました」

HMI開発部では当初、設計や、実際にプログラミング言語を書くコーディングに携わりたいと思っていたという。現在の率直な気持ちを尋ねると、「成功体験を積み重ねていくうちに『この仕事、好きだな』って思うようになりました。いまは、とりまとめの仕事のほうが楽しいかもしれません」と笑った。

最先端技術を知り「業界で優位性のある製品」の可能性を探る

監視制御システムの中枢部を担うコントローラは、工場の生産設備から、搬送速度や消費電力量など稼働に関するさまざまな情報を吸い上げて、司令室にあるパソコンにデータを送る。蓄積されたデータをもとに、システムが工場内に異常が起きていないかを解析したり、判断したりする。

2017年に入社したコントローラ開発部の高(たかし)は、マイコンなど最先端の技術を研究し、製品開発に生かしてきた。

コントローラ開発部の高
コントローラ開発部の高

「最先端技術に触れるたびに『これで開発を進められれば、業界でも優位に戦える製品になるのでは?』と感じ、ワクワクするんです。今回の機能拡充により、処理速度が上がり、コントローラにつなげられる機械の数も倍以上に拡張できる見込みです」

高が特に意識したのは、他のシステムや設備との互換性だったという。

「お客様の中には、コントローラだけを新しく買い換える方もいらっしゃいます。その場合でもMICREX-VieW FOCUS Evolutionとしての機能をきちんと発揮できるように、不具合が起きないか徹底的に検証しました」

デザインレビュー(DR)という、開発のステップごとにその進捗などを評価する会議では、技術部や品質保証部、製造部などコントローラにかかわるさまざまな部署のメンバーが集まり、そのたびにたくさんの要求が出た。

「例えば、『指の太い人がコネクタを差し込みにくいのでは?』と言われたら、差し込み口を反対側に設計変更しました。コントローラの多くは一度納品したら、10年以上使い続けられ、納め先によっては24時間ずっと動き続けるものもあります。想定されるお客様のご要望にすべて応えきるのはもちろんのこと、10年先まで見据えた開発をするのがベストだと考えています」(高)

学生に向けてメッセージを書いてもらった。
小松(左)は「開発では『求められていないモノ』をつくってはいけない。本質を捉えるのが大切」。中島(中央)は「壁にぶつかったとき、何かのせいにするのではなく、まずは自分で考えて行動を起こすことを心がけています」と話した。高は「いい製品をつくるためには、多くの人と連携する必要がある。これは会社に入ってから知りました」と言った。

システムの一括納入で脱炭素化に貢献!

2050年のカーボンニュートラルに向けて、鉄鋼や化学などの各メーカーでは、GX関連設備の積極投資が見込まれる。

こうした中で富士電機の強みは、電源をコントロールする制御盤やプラントの運転に不可欠な計測機器はもちろんのこと、エネルギーマネジメントシステム(EMS)も一括で納入できる点だ。EMSを併用すれば、脱炭素に向けた省エネ化も実現できる。

顧客ニーズに100%応えることで、プラント・工場の自動化と効率化を進めていく試みは、開発に情熱を燃やす若者が支えている。