富士電機が貢献する環境・社会課題
停電を防げ!沖縄の電気を支える「配電自動化システム」とは

スマートフォンや家電など電気製品に囲まれた私たちの暮らしは電気なしでは成立しない。停電になったとき、誰もが少しでも早く電気が通ってほしいと願う。

日本は自然災害の多い国だ。ひとたび災害が起きて電線が切れたり、電柱が折れたりすれば停電は避けられない。このため日本全国のほぼすべてのエリアで、非常時に電気の流れを自動的に切り替え、停電エリアを狭めたり、停電時間を短くしたりする「配電自動化システム」が導入されている。

台風による停電リスクが全国でもっとも高い地域である沖縄では、富士電機の配電自動化システムが導入されている。富士電機のシステムはどんな社会課題を解決し、どんなメリットをもたらしているのか。

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現地に行かずに停電エリアと停電時間を最小限に抑える

電力の供給は変電所ごとに配電する地域と方向が決められている。たとえば、上図のA変電所の送電エリアは、B変電所と配電線がつながっているが、変電所からの配電方向が決まっているため、通常はB変電所からは配電されない。A変電所のエリアで倒木などによって配電線が破損すると、停電が起きる。

ここからが配電自動化システムの出番だ。

まず、どのエリアで配電線に破損が起きたかを特定する。A変電所から送電できないエリアがあるということがわかると、隣接するB変電所エリアの電柱に設置されている開閉器を遠隔操作して、B変電所から通常と逆向きに送電する。これらを配電自動化システムで行うことで、A変電所エリアの停電箇所にも設備が健全な区間に電気を送れるようになるというわけだ。

従来、破損した配電線の先に電気を送るには、作業員が手動で開閉器を操作する必要があり、破損した配電線の場所を特定した後、作業員が現地に赴くまでに長い時間がかかっていた。配電自動化システムを使えば、停電エリアを狭め、停電時間を短くできる。

電柱に設置された開閉器の制御装置(沖縄県内で撮影)
電柱に設置された開閉器の制御装置(沖縄県内で撮影)

沖縄電力が抱えていた2つの課題

沖縄電力は1995年から配電自動化システムを導入している。だが、そのシステムには2つの課題があったという。システム更新を担当した沖縄電力配電業務グループ部主任の大城将人さんはこう話す。

「ひとつは、沖縄本島内で使われていた複数のシステム間の連携を強めること。もうひとつは、離島部のシステムを本島と共通化することでした。それにより、配電の指令者の負担を軽減させ、復旧作業者の安全性をさらに向上させたいと考えていました」

それまでの配電自動化システムでは、災害などの非常時に配電の指令者が複数のシステムの情報をまとめて状況を分析し、復旧手順を段取りすることで、停電時間の短縮を図っていた。
「事故が起きている場所を特定するのは、現地に行った作業者です。だから指令者は多くの情報を収集して正確に状況を判断しなければなりません。指令者が判断を誤ると、作業中の現場へ誤送電するリスクを伴うからです。このような状況を改善するために、複数のシステム間の連携を強化する必要がありました」

沖縄での台風による停電被害は、本島だけでなく離島でも多い。台風が近づき宮古・八重山地方で被害が大きくなると判断した場合、沖縄電力は本島の職員を現地へ積極的に派遣する対応をとってきた。しかし、離島で使われている配電自動化システムは本島の仕様と異なるため、応援に出た本島の職員がスムーズに作業できないことがあった。

沖縄電力配電業務グループ部主任の大城将人さん
沖縄電力配電業務グループ部主任の大城将人さん

富士電機に対し、そうした課題を伝えて調整が繰り返された。その結果、新システムには地図や検索機能を追加。配電線の情報が集約され、ひとつのシステムで管理できるようになった。沖縄本島のシステムを統一し、2018年に稼働を始め、2020年までに宮古島、石垣島にも同じシステムを導入した。

「このシステム間連携の強化によりさまざまな情報が正確に“見える化”されたことで、配電を担当する指令者の負担が大幅に減りました。同時に安全対策機能もバージョンアップし、復旧にあたる作業者の安全性も確保できるようになりました。さらに本島と離島の仕様が共通化されて、沖縄県全域で迅速な復旧作業が行えるようになりました。

沖縄電力の指令室
沖縄電力の指令室

直感的操作で離島も制御

さらに大城さんは新システムのメリットをこう付け加える。

「WindowsのPCと同じように、直感的な操作ができるようになり、操作性が向上しました。それによって誤操作が起こりにくくなり、安全性も高まりました」

仕様の共通化は夜間の当番業務だけでなく、日中業務の効率化や人手不足の改善にも役立っている。本島全域と宮古島、石垣島を1つの拠点から監視・計測・制御できるようになったことで、限られた人員を効率的に配置できるようになったからだ。

ところが新システムの特長はこれだけではない。

BCP対応のミドルウェア開発に2年

エネルギー事業本部 電力流通技術部 技術第一課担当課長の松枝剣
エネルギー事業本部 電力流通技術部 技術第一課担当課長の松枝剣

「新システムは、BCP対応をしているのもポイントです」

そう話すのは、富士電機のエネルギー事業本部電力流通技術部の技術第一課担当課長、松枝剣だ。

インフラのひとつである電気は、安定供給できる体制の構築が強く求められている。そこで沖縄電力で2018年に稼働したシステムでは、自然災害や火災、テロなどの緊急事態に遭遇しても事業を継続できる「BCP対応」を行った。

富士電機は元データとバックアップ側のデータを常に一致化させる独自のミドルウェアを開発した。

松枝が「今回のシステム更新で最も苦労した点です」と言うとおり、ミドルウェアの開発は、要件定義から完成まで約2年かかった。

こうして、片方のサーバーが止まっても、もう一方で運用を継続できるよう、サーバーを瞬時に切り替えられる「BCP対応の新システム」が構築された。沖縄電力の大城さんはこう話す。

「幸い、更新後にメインサーバーが使えなくなる事故は発生していません。ときどきメンテナンスで一時サーバーを停止しなければならないことはありますが、サーバーを分散したことでメンテナンスや点検がスムーズに行えるようになりました。BCP対応のメリットを感じています」

2023年台風6号のときは指令室に10泊

強風による飛来物で電柱が倒壊
強風による飛来物で電柱が倒壊

この新システムの実力が試されたのは、2023年7月から8月にかけて沖縄を襲った台風6号のときだった。

台風6号は、一度本島を通過したあとUターンして再び本島に接近。沖縄は約2週間もの間、暴風圏内に置かれることになった。

大城さんは指令室に10泊して業務を担った。

「現場対応が厳しい状況が長かったので、あらためて配電自動化システムの重要性を認識しました」

台風による停電リスクが高い沖縄電力の職員は指令室での被害状況の確認から、電線に接触している樹木の撤去、伐採、電線の修復などの現場での復旧作業までを一貫して対応している。

しかし、暴風圏にある間は復旧工事ができない。強風にあおられて作業員が転倒したり、飛来物が当たってケガをしたり、切れた電線に触れて感電したりするなどの二次災害の恐れがあるからだ。

現地紙も「なぜか停電戸数が減った」と報じたシステム

人の目で直接見なくてはならない範囲を縮小し、トラブル箇所を迂回して配電する自動化システムのおかげで、停電からの復旧時間は大幅に短縮された。

沖縄タイムス・プラス(電子版)は2023年8月9日、県内の停電状況について、こう報じている。

「ピーク時の2日午前10時には34市町村で21万5800戸に及んだ。沖縄電力は作業員の二次被害を避けるため、暴風域に入っている間は原則として現場での復旧工事はしていない。なのに被害確認が始まった同日午後7時には、18万5550戸まで減った」

東日本大震災時に確信したプライド

2009年に入社した松枝は、大学時代の研究とは無縁の配電分野に配属された。もともと「縁の下で支えるのが性分に合っていた」というが、2011年の東日本大震災を機に、その思いを一層強くしたという。震災当時、松枝の担当エリアは東北だった。テレビで映し出される光景を目の当たりにして、自身の仕事への向き合い方が変わった。

「今、この状況を改善させられるのは、自分しかいない。私がやるべき仕事だと思いました」

模索始まる次期システム

新システムと言っても、導入から5年余がたった。
沖縄電力と富士電機の間では、次期システムの仕様設計が始まっている。大城さんは言う。

「現在のシステムもさらに改善したほうがいい点が出てきています。2018年の更新では仕様を共通化し1ヶ所で制御できるようにしましたが、設備データは各拠点で管理しています。次回の更新は設備のデータベースを統合し、よりシームレスに制御できる体制を実現したいと考えています」

松枝もこう応じる。

「沖縄電力さんとは今後も一緒にいいものを作っていきたいです。他方、日本国内に目を向けると、まだ当社のシステムを導入していないところもありますので、そちらに対する提案活動もしていきたいと考えています」

私たちの何気ない暮らしの中に、電力会社の使命感と富士電機の革新を続ける技術が生かされている。