富士電機が貢献する環境・社会課題
若手が作り上げた 「スペーシアX」でGO! ――両社がベスト・ビジネスパートナーになるまで

若手が作り上げた 「SPACIA X」でGO! ――両社がベスト・ビジネスパートナーになるまで

2023年7月15日、東武鉄道の新型フラッグシップ特急「N100系 SPACIA X(スペーシア X)」が運行を開始した。この車両には、富士電機製の補助電源装置(SIV)が搭載されている。富士電機は2023年に創業100年を迎えたが、これまで東武鉄道との鉄道車両用機器での取引実績はなかった。初のタッグは順調に進んだのか。両社の若手社員2人に話を聞いた。

“デビュー戦”がSPACIA X

車両外観
新型フラッグシップ特急「N100系 SPACIA X」

東武鉄道と富士電機に共通するのは、“若手社員を前に出して、どんどん経験を積ませる”という姿勢だ。

両社は2020年4月、本格的にSPACIA Xの仕様・設計の検討を始めた。

東武鉄道 車両企画課の神田さん
東武鉄道 車両企画課の神田さん

富士電機の小林は、鉄道車両システム部の一員として、お客様からニーズを聞き出し製品仕様を作り上げる役割を担う。当時入社2年目。プロジェクトのキックオフから関わるのは初めてだった。「まだ経験の浅い自分にできるのか戸惑いはありましたが、まずはやれるだけやろうと思いました」と話す。

ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大とタイミングが重なった。在宅勤務が続き、指導役の先輩や営業担当にも会えない日が続く。小林は「コロナを機に急速に導入が進んだWeb会議システムや電話等でのフォローや勉強会など、先輩方が気遣ってくれました」と語る。

東武鉄道の神田さんは車両の検査・整備を担う南栗橋工場(埼玉県久喜市)で車両の総合検査に携わっていたが、2020年10月に新造車両の設計企画を行う車両企画課に異動した。東武鉄道では現場検査・整備部門と本社間での人事異動があり、現場対応にも長けた技術力の高いエンジニアが多い。SPACIA Xを担当することが決まり、「フラッグシップ特急車両を更新するのはおよそ30年に1度です。こんなに大きな仕事にかかわることができて幸運でした」と当時を振り返る。

神田さんが、富士電機・小林のカウンターパートになった。

車両の床下に搭載される富士電機製補助電源装置
車両の床下に搭載される富士電機製補助電源装置

若手2人の“デビュー戦”となったSPACIA Xに、富士電機は 補助電源装置を納入した。空調や照明などの車内電気設備に電力を供給する装置だ。


両社がタッグを組んだきっかけは、2017年までさかのぼる――。

決め手は“クリーンな工場”と“迅速な対応”

東武鉄道 車両企画課の神田さん

中国・東南アジアなど海外メーカーの台頭や様々な社会情勢の変化があった2017年当時、東武鉄道では安定した車両製作を続けるために新たな取引先を模索していた。
同業他社との情報交換で、「富士電機の製品は品質が安定していて、地味だが質実剛健で安心ができる」との評判を聞いた。2017年9月に富士電機の松本工場と鈴鹿工場を見学し、“クリーンな工場で量産体制が整っている”点に安心感をもったという。

神田さんは「機器の信頼性や品質管理、故障発生時の対応に加え、技術提案力でも優れていたことが、富士電機さんを採用する決め手になった」と語る。

さらに神田さんは、補助電源装置に省エネ効果のある制御システムの導入を依頼したとき、富士電機が「できます」と即答してくれたことが印象に残っていると振り返る。
「お客様の要望をあらかじめ想定し、社内で検討していました。“お客様の事業を勉強していれば予測できる”という先輩のアドバイスのおかげです。」と小林は語る。

交渉を支えた「コミュニケーション力とレスポンスの速さ」

富士電機 鉄道車両システム部の小林
富士電機 鉄道車両システム部の小林

両社の検討が進む中、神田さんは驚かされたことがあったという。

「仕様やシステムについていろいろと相談をしますが、他の企業なら返事がくるまで1ヶ月以上かかることがあります。でも、富士電機さんは回答が本当に早く、回答内容も明確であったため、初めての取引でしたが、不安はありませんでした」

一方、小林は「東武鉄道さんとこれから関係性を築いていこうというときに、新型コロナの影響もあり、直接会って話す機会が減ってしまいました。コミュニケーション不足にならないよう、お会いできる場面では密に情報交換をとるように心がけました」と話す。

フロントに立った若手2人がコミュニケーション力を発揮したことで、両社の信頼関係が築かれていった。

難航した営業前の誘導障害試験

最後の難関となる誘導障害試験(注1)は、南栗橋工場でSPACIA Xが納車された2023年3月頃に行われた。車両から発生するノイズの影響で信号装置など他の装置に誤作動を起こさせないかをチェックする試験だ。

しかし、一部の試験でNGが出てしまった。

小林は「ノイズのレベルは周辺環境や艤装(注2)にも影響されるため、実際に車両を動かして試験をしてみないとわかりません。運行開始までのスケジュールが決まっているので、なんとしても再試験までにクリアしなければと焦りました」と試験の難しさを語る。

富士電機は東武鉄道と連携し、複数の対策を期限までに行えるよう、対策の部材を至急手配し社内検証するなど、早急な対応で再試験を乗り越えた。「この時の対応では、東武鉄道さん・信号メーカーさんのご協力も大きかったです。私個人は焦っていましたが、先輩方は絶対に大丈夫、と自信を持っていました。研究開発部門での検証や、これまでの豊富な納入実績から解決法が見えているのです。スケジュールより早く進んでいく対策に驚きました」と小林は語る。

様々な性能試験を乗り越え、2023年7月15日、SPACIA Xは予定通り営業運行を開始した。

(注1)

電磁両立性試験のこと。電気・電子機器が発する電磁波(電磁ノイズ)が周辺の機器に影響を与えず、
自らも周辺からの電磁波(ノイズ)の影響を受けずに動作することを試験する。

(注2)

車両本体に電気品などの装置や設備を取り付けること

東武鉄道 車両企画課の神田様と富士電機 鉄道車両システム部の小林

プロジェクトを任され視野が広がった

小林はSPACIA Xプロジェクトを「納入した自社製品がどのようなメンテナンスを施され使われているのかなど、東武鉄道さんから現場の情報を聞いて、メーカーの立場としての視野が広がりました。今後の開発に役立てたいと思います」とした上で、こう振り返った。

「お客様に一人で製品説明をするときもあります。最初は緊張してうまくいかないこともありましたが、入社から3年が経ち自信をもてる場面が増えてきました。社内は上下の風通しがよく、わからないことがあれば周りがアドバイスやフォローをしてくれるので、安心して前に進むことができます。さまざまな事業分野の総合力や現場の“技術力”もとても頼りになります。」


神田さんは今後のビジネスに向けて、「SPACIA Xの成功もあり、富士電機さんはベストなビジネスパートナーだと感じています。まずは故障しないことが第一ですが、今後は更なる省エネ化に寄与できる機器を検討していただきたいです」と話す。
これに対し小林は「東武鉄道さんの省エネ化への貢献はもちろん、今後は補助電源装置だけでなく、通勤形車両への電気式ドアシステムも提案していきたいと考えています。視野を拡げ、お客様と社会の未来を見据えた技術をご提供していきたいですね」と今後の抱負を語る。