遮断器とは通常の負荷電流のほか、短絡(ショート)などの異常な大電流も入り切りできる装置です。
なお、電流を「切る」ことを「遮断する」といいます。真空遮断器は、主として電圧が3.6~36kVの回路で使用されています。
異常検知装置からの信号を受けて動作し、事故回路電流を遮断して回路や電気機器の保護および事故影響拡大防止の役目を果たします。
どうやって電流を遮断するのか?なぜ真空が必要なのか?
真空遮断器と、そのキーコンポーネント「真空バルブ」について解説します。
電気事故のリスクを
最小化する遮断器
真空の特性と電気性能
─ そもそも、遮断器とは、どのような装置なのでしょうか?
大澤:短絡(ショート)、過電流、漏電などが原因で、電気回路や機器設備に何らかの異常電流が流れると、そのままでは電気機器の破損や電気火災などの大きな事故や健全回路への事故波及に進展することになります。これを回避するため、検知された異常電流を遮断し、事故回路を電源から切離す装置が遮断器です。
身近な物で例えると各家庭に備えてある「ブレーカ(配線用遮断器)」と似た役割といえるでしょう。
新井:電力会社との契約電力が50kW以上の工場,店舗,ビルなどの施設では、家庭用の電源と違い6,600V(ボルト)以上の高圧回路で受電します。今回ご紹介する「真空遮断器」は、主として3,600~36,000Vの高圧回路で使用されている遮断器です。
─ 電流を遮断するだけなら単純なスイッチでもよいと思いますが、「高圧遮断器」は何が違うのでしょうか?
近藤:高圧で電流を遮断するのは案外難しいことなんです。保護継電器という装置で異常電流を検知し、遮断器に遮断信号を発すると、遮断器は固定電極と可動電極を引き離して電流を遮断するという実にシンプルなものです。
しかし、電極を引き離すと電極間にはアーク(数千~数万°Cの火柱)が発生します。日常生活でもコンセントからコードを強く引き抜くと、火花が散ることがありますが、この現象です。
大澤:コンセントからコードを強く引き抜くと発生する火花は、電流が小さく電圧も低いためすぐ消滅しますが、電流が大きく、電圧も高くなるほどアークを消滅させるのは難しくなります。アークを消滅できない場合は、アーク熱により周囲部品が溶融・焼損するとともに急激な空気の膨張により爆発状態になることもあります。アークを安全に消滅させるためにはスイッチや遮断器が必要になります。スイッチは負荷電流レベルのアークを消滅できる開閉器ですが、遮断器は短絡(ショート)電流までの大電流アークを消滅できる開閉器です。高圧遮断器は、高圧回路における大電流アークを安全に短時間で消滅できるように電極部を工夫したものです。なお、アークは日本語で「電弧」と言い、アークを消滅させることを「消弧」と言います。
─ なるほど。アークが消えないと危険なアークが継続してしまうのですね。
大澤:そうです。アークを消滅させるためには交流電流が零になった直後に電極間の加わる電圧よりも早く電極間の絶縁回復を早くすればよいのです。高圧遮断器には、電極周りの環境により真空遮断器,SF6(六フッ化硫黄)ガス遮断器,油遮断器,空気遮断器などがあります。どの遮断器も方法に差異はありますが電極間の絶縁回復を早くする工夫をしています。3,600~36,000Vの高圧回路で使用される遮断器としては真空遮断器(Vacuum Circuit Breaker,略してVCB)が一般的です。
遮断性能、環境性能に
優れた真空遮断器
真空遮断器の構造と真空バルブ
真空度のイメージ
真空バルブのカットモデル
─ 真空遮断器にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
新井:真空遮断器は、真空そのものが持つ高い絶縁性能と絶縁回復性能を利用した遮断器で
- ・アークを制御する消弧室構造がシンプルで小形である。
- ・アーク電圧が小さく、電極の消耗が小さい。
- ・低騒音(遮断音がない)
- ・地球温暖化物質(SF6ガス,SF6ガスはCO2の23,900倍の温室効果がある)や可燃物質(油)を使用していない。
といった特長を持っています。
─ 真空遮断器はどのような構造ですか?
新井:装置全体を真空にするのではなく、遮断を行う消弧室のみを真空にしています。消弧室は、セラミック製絶縁筒の両端に接合された金属フランジで構成された真空容器の中に一対の電極を収納したもので、「真空バルブ」と呼んでいます。真空バルブは真空遮断器のキーコンポーネントとなります。
真空バルブ内の圧力は、概ね10-3~10-5Pa(パスカル)。これは、地上の約100万分の1気圧、ISS(国際宇宙ステーション)が周回している上空約400kmに匹敵する高真空環境で、まさに「小さな宇宙」と言えるでしょう。
長年積み上げた技術を凝縮し
「小さな宇宙」を作り込む
─ その「小さな宇宙」は、どのように作られているのでしょうか?
新井:真空バルブの製造には2つの方式があります。ひとつは、絶縁筒,フランジ,電極などの部品を接合して真空容器を作った後に、強力なポンプで真空容器内の空気を排気する「排気方式」で、比較的サイズの大きなバルブの製造に適しています。
もうひとつは、絶縁筒,フランジ,電極などの部品を高真空の高温炉中でろう付して真空容器にする「炉内一体ろう付方式」です。高真空炉内でろう付して容器を作ることにより容器の中を真空にすることができます。当社では、双方を製造していますが、現在は後者の方が主流になりつつあります。
─ FCSの真空遮断器はどんなところが優れているのでしょうか?
近藤:最も強調したいのは、品質確保のため主要部品の大半を内製化していることです。特に真空容器を形成する上で重要なセラミック製絶縁筒や遮断性能を左右する接点材料においては材料配合から焼成・加工までを一貫して行っています。これはヒューズ部品や低圧電磁接触器の消弧室などで確立したセラミック部品の製造技術や、極小油量遮断器の接点製造で確立した焼結接点製造技術を有していたから可能になったことです。また、真空バルブ製造開始まえから当社が備えていた接合技術,金属切削技術,めっき技術も加えて、35年以上の長きにわたり高品質な真空バルブの製造を維持・発展させてきています。
つまり、豊富なノウハウの蓄積があるわけです。これら長年の経験と実績は、製品としての長期信頼性や品質の確保に反映されているものと自負しています。
─ 20年以上の寿命確保のためには、出荷前の厳重な検査体制が必要ですね?
近藤:真空バルブ内の真空度10-2Pa以下を20年以上保持することと、機械的寿命1万回以上をクリアすることが重要な品質項目です。特に真空バルブ内の真空度を長期間維持するためにマグネトロン法という特殊な圧力測定方法により一定の期間をあけて圧力を測定し、得られた単位時間当たりの圧力変化により20年以上の真空度が維持できるかチェックし、品質を確保しています。
ローコスト化、小型化、グローバル製品を目指し、
IoTの活用も視野に
─ 今後のビジネス展望について教えてください。
近藤:ビジネス面としては、当社製品は発売から35年以上経過しているので、更新需要への対応、さらには、国際規格に対応したグローバル製品の投入により、近年、急速に電力需要が伸びているアジア地域を中心とした市場の開拓などが、期待と同時に課題でもあります。
新井:技術面では、ビジネス戦略とも深く関わってくるのですが、やはり、ローコスト化、小型化が一番の課題です。そのため、私たちは、設計、生産技術、品質管理、製造現場をはじめ、時には材料技術者も含めた連携を密にし、部品ひとつひとつの形状や材料の見直し、加工性に優れた設計の見直し、より効率的な製造ラインの構築、歩留まりの向上など、さまざまな意見を出し合い、知見を共有することで、これらの課題に挑戦しています。また、私たちのモノづくりは、経験とノウハウも重要になるため後進の育成にも注力していくつもりです。
─ ローコスト化・小形化の他に視野に入れていることはありますか?
大澤:少子高齢化を迎えた現在、今後の慢性的な人手不足を考慮すると、メンテナンスフリーやメンテナンス期間の長期化は、喫緊の課題です。真空遮断器は、20年以上の寿命が必要な製品であるとともに、万が一、不具合が発生した場合にお客様に与える影響も大きな製品であるため、今後は事後保全だけではなく予防保全、予知保全の手法も積極的に取り入れていく必要があります。今でも、お客様が装置を更新した際、古い装置を回収し、部品の劣化や真空度の保持状態などの解析を行うことで、今後の予防保全や製品開発に役立てています。
大澤:真空遮断器はお客様に納入した装置の稼働状況を示すデータがなかなか入手できないということが一般的です。過去の不具合情報や当社メンテナンス部門の情報をもとに、予防保全や予知保全を行うために必要な情報の選定を行い、将来的には、必要なセンサーの搭載や、IoTの活用へ繋げていくことも必要と考えています。
そして、ここで得られたデータを解析することで、過去の傾向から不具合が発生するタイミングも予知することができるはずです。そのような予知保全体制の確立も視野に入れています。
これらの先進的な予防保全、予知保全の技術は、私たちが手掛ける真空遮断器だけではなく、当社の多くの製品に適応できるはずです。将来的には、当社のスタンダードとして、主要製品に実装されるようになれば最高ですね。そういった夢を含め、今後も、ローコスト化、信頼性や品質向上に貢献する新しい技術の導入や、独自技術の開発にも積極的にチャレンジしていくつもりです。