化学プラント・工場の基礎知識
保全作業を効率化する遠隔作業支援技術
保全作業のスマート化と現状の課題
化学プラントや工場では、保全業務のスマート化が進んでいます。化学プラントの安定稼働・操業を維持するためには、定期的な保全作業が必要です。 保全作業は、設備の故障を未然に防ぎ、プラントの安全性を確保する上で重要な役割を果たします。
しかし、現状の保全作業は多くの課題を抱えており、その効率化が求められています。 背景には保全作業の人手不足、高齢化、技術継承の困難さなどが深刻化しているという現状があるためです。
この問題を解決するためには、置き換え可能なところからIoT技術やセンサーを提供しつつ、置き換えが難しい保全業務については人の業務の軽減・効率化を検討する必要があります。

IoTやスマート化で対応できない保全業務
IoTセンサーやAI技術の普及により、設備の異常を早期に検知し、予防保全を行うことが可能になってきました。 しかし、人はIoTやAI技術で代替不可能な非常に優れたセンシング・診断能力を持っており、これら技術・技能を完璧に再現できる技術は現時点では難しいのが実際です。
人は優れた五感に加え機械で検出できない直感的な感覚も備え、知識、経験を蓄積して高度な推測を行うことが可能なためです。 このため、保安・保全業務のスマート化だけではなく、IoTやAI技術で置換できない部分への対応が必要になります。

調査結果でみる保全・点検部門における技術継承の問題・課題
富士電機では2022年に食品製造・化学工業の技能・技術継承に関する意識調査を実施しています。この調査結果の保全・点検部門の技術継承に関する問題・課題関する設問(フリーアンサー)では、熟練作業員から若手への技術継承をどうするかについての課題が散見されました。
技術継承のためには教える側・教わる側の両方の人材が必要であり、人材育成が簡単ではないことを意味します。この課題に対応するためには保全業務のスマート化を進めつつ、少ない人員で保安体制を維持・継続するための工夫などが必要だということになります。
この課題に対する解決方法の一つが、遠隔作業支援技術です。
遠隔作業支援技術とは?
遠隔作業支援技術とは、例えば工場現場の作業員と遠隔地の本部を繋ぎ、リアルタイムに情報共有や指示・アドバイスを可能にすることで保全作業を支援する技術のことです。 近年、IoT技術やウェアラブルデバイスの進化により、様々な現場で活用が進んでいます。
設備保全に活用できる遠隔作業支援技術にはさまざまなものがあります。例えば化学業界の保安・保全分野で実際に導入されるものとしては、 スマートデバイスやクラウドサービスなどを使用し、現場作業の作業支援、効率化や設備保安の作業品質の維持・向上を実現するためのシステムなどがあります。
このシステムは一般に遠隔作業支援システムと呼ばれており、スマートグラスなどのスマートデバイスが採用されています。

スマートグラス
スマートデバイスにはさまざまな種類・形態がありますが、このひとつにスマートグラスがあります。スマートグラスは多機能・ハンズフリー・軽量であるなどの特徴があります。 現場に必要な多くの機能を内蔵し、軽量で、作業員の視野を妨げず、またハンズフリーでの作業を実現できるというメリットがあります。
提供されている主な機能には、写真・動画の撮影記録、例えばZoomなどのWeb会議システムを活用した双方向通信、音声入力機能(作業内容の記録などに活用)、QRコードなどを活用した設備情報の呼び出し、作業指示内容の表示、・マニュアル、ドキュメントや動画の表示などができます。
スマートグラスの性能は年々向上しており、高解像度のカメラでの画像・動画撮影、音声認識による音声入力、アプリケーションの充実、軽量化やバッテリー持続時間も改善されつづけています。これら機能は保全作業に有効活用することができます。

設備保全の効率化に役立つ機能
・写真・動画撮影
真や動画に関しても、少し前の製品ではやはり解像度が低く、メモリ容量も小さく、音声も粗い、などの課題がありました。画像、音声記録が高解像度・高精度で記録できることで、教育資料や記録に十分役立てられ、作業記録と同時に写真を撮影、保存することもできるようになりました。
・音声入力
音声入力の面でも、昨今ではハンズフリー、音声認識コマンドでの操作など、かなり自由度が上がっており、音声認識により点検結果などを帳票入力することも普通にできるようになっています。これにより、ペーパレス化やリアルタイムのデータ分析なども可能になっています。
・通信・情報共有
スマートグラスを活用しない場合、現場と本部との情報共有が難しいという課題がありました。スマートグラスの通信・情報共有機能を使うことで、トラブル対応時の初動が素早く対応できるようになり、単に現場の画像を画面で共有するだけではなく、本部側の熟練作業者や作業指示担当者が画像に作業指示や、会議システムを使用した複数拠点からの支援も可能になりました。
・ディスプレイ
現場側ディスプレイも軽量、かつ小型、高精細になっており、細かな図面や仕様書を参照しながらの作業も簡単になりました。タブレットやスマートフォンを持ち歩くのも手がふさがってしまうため安全面でも問題となることがありますが、スマートグラスであればハンズフリーで保安・保全作業が可能になります。
今後もスマートグラスの性能の向上が期待されるため、従来適応が難しいとされていた業務にも利用が進んでいくと考えることができます。
スマートグラスを活用した遠隔作業支援システム
このようなスマートグラス機能とデータベースやその他支援機能を組み合わせたものは一般に遠隔作業支援システムと呼ばれています。遠隔作業支援システムは作業記録機能、現場と熟練作業員とのリアルタイムの状況共有、ノウハウの蓄積や遠隔による保安・保全作業支援機能などが利用できます。
これらを保全作業に活用することで工場現場の作業員と遠隔地の本部を繋いだり、作業員を画像、音声によって接続し、指示、支援、記録、情報共有といった作業支援を可能にしています。

[主な機能]
・QRコードなどを活用した設備情報の呼び出し
・作業指示内容の表示
・マニュアル、ドキュメントや動画の表示
・QRコードなどを活用した設備情報の呼び出し
・作業指示内容の表示
・マニュアル、ドキュメントや動画の表示
化学工業における遠隔作業支援システムの利用動向
では化学工業において遠隔作業支援システムはどの程度導入が進んでいるのでしょうか。富士電機では2022年に化学工業の技能・技術継承に関する意識調査において、遠隔作業支援システムの利用状況を調査しました。
この調査では、遠隔作業支援システムの活用について「取り組んでおり、うまくいっている」と回答したのは全体の12.6%、「取り組んだが、うまくいってない」が20.4%、「取り組んでいない」が55.6%となりました。従業員規模別では、5000人以上で導入が進んでいるという結果になりました。
取り組みがうまくいかない理由の一つとして考えられることは、スマートデバイスの性能が現場のニーズに追いついていなかった可能性が考えられます。一方で、昨今はスマートデバイスが急速に進歩したこともあり、課題となっていたことが解消されていくことが予想されています。

スマート保安を実現するための遠隔作業支援システム
遠隔作業支援技術の活用することによる保全業務のスマート化 今後、IoTやAI分野の技術革新が進むことが期待されています。例えば経済産業省では、IoTやAIを活用した「スマート保安」を推進しており、スマート保安の実用範囲の拡大・利用環境整備が進むことで、多くのプラントや工場においてスマート保安が普及されると予測できます。
しかし、人が必須の保安・保全作業は多く、IoTやAI技術で代替不可能な作業がある等の課題が残されており、この課題を解決するためには、IoT技術やセンサーの導入を進めしつつ、人に依存した保安・保全業務の軽減・効率化を検討する必要があります。
保全・保安のスマート化を成功させるためには、この点にも注目する必要があります。 必要に応じて遠隔作業支援技術を採用することで、保安・保全業務の軽減・生産性向上をサポート・効率化することで、人材育成や技術継承など保全作業に関する課題を解決できる可能性があります。
スマート保安官民協議会(経済産業省)
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業種別ソリューション