化学プラント・工場の基礎知識
化学業界の課題とIoT・AI技術

化学業界の課題とIoT・AI技術

化学業界の課題とIoT・AI技術のイメージ

IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)などの技術が普及したことで、さまざまな業界でプラント・工場のスマート化が進んでいます。

富士電機が2022年5月に実施した、化学工業従事者を対象としたインターネット調査「化学工業のIoT/AIの利用・活用に関する調査」によると、IoT/AIの活用状況についての設問(N=320)では 「現在取り組んでいる」と回答したのは全体の70.3%、「今後取り組む予定がある」が29.7%という結果になりました。

一方で「必要性は感じているが、取り組んでいない」「取り組んでない」の回答は0.0%となり、このことからも化学業界でIoT/AIの取り組みが活発である様子が伺えます。

化学プラントでは、とくに保安・保全分野にスマート技術の活用が進んでおり、化学業界の保安・保全に関連する課題解決方法として検討が進んでいます。

関連:まるごとスマート保安サービス

IoTやAIを活用して設備のデータ収集と分析を行い、保安・保全管理業務の最適化を支援。富士電機の優れた診断技術で、省人化・リモート化・コスト削減などの課題を解決します。

化学業界の課題

化学業界では、化学プラント設備の老朽化に起因するリスクへの対応をどうするか、保安・保全する人材の高齢化・退職などによる人材不足にどう対処するかが課題となっています。

老朽化したプラント設備は、安全・安定稼働のために定期的な点検・修理が必要で、今後もこのニーズは高まることが予測されています。適切な保安・保全を行うためには、人材と技術・ノウハウを確保する必要がありますが、人材獲得は難しく、教育・技術継承には中長期的な取り組みが必要とされます。

プラント設備の老朽化

日本のプラント設備のほとんどは、高度経済成長期(1955から1972年頃)に建設されたものが多いとされています。メンテナンス・改修を繰り返してはいるものの、数十年経過しているため、稼働率の低下、機械故障・停止リスク、製品品質への影響などへの懸念、安全性への懸念などさまざまな課題への対応が求められています。

人材不足

日本国内において、今後労働人口の低下は避けられず、専門性の高い人材の獲得が難しくなることが予測されています。一方で、産業分野の保安・保全の熟練者の高齢化が進んでおり、退職による人手不足、技術・ノウハウ消失などのリスクがあります。

IoT・AI技術活用による課題解決とメリット

経済産業省が実施したスマート保安先行事例に関する調査(出所:「スマート保安先行事例集 」経済産業省 平成29年4月)によると、安全性向上のメリットとして「作業履歴の管理」、「熟練ノウハウの蓄積・可視化」、「従来把握できなかった状態の監視」、「故障の予測」、は収益性向上のメリットを「エネルギーコストの削減」、「生産性向上による売上拡大」、「維持修繕におけるコスト削減」、「新ビジネス創出を通じた売上拡大」という結果がでています。

スマート化を進めることで、従来難しいとされていたことが可能になり、化学プラントの安全面・収益面でさまざまなメリットがあります。

化学工業のIoT/AIの利用・活用に関する調査のイメージ
出所

スマート保安の目指すべき姿 経済産業省「スマート保安の促進」 2021年3月

化学プラントをスマート化するための技術要素

化学プラントにスマート技術を適用することで、プラント・工場内のさまざまなデータをリアルタイムに取得でき、このデータを生産性向上・品質改善や保安・保全業務に活用することができるようになります。

化学工業におけるIoT/AIに関連したシステム等の利用・活用状況

富士電機が2022年5月に実施した、化学工業従事者を対象としたインターネット調査「化学工業のIoT/AIの利用・活用に関する調査」によると、 IoT/AIに関連したシステム等の利用・活用状況について、「取り組んでいる」との回答は「遠隔監視・稼働監視システム」の回答が最も多く21.3%、次いで「データ分析基盤・IoTプラットフォーム」が20.3%、「可視化・見える化システム」が20.0%という結果になりました。

IoT/AIに関連したシステム等の利用・活用状況の調査結果
化学工業におけるIoT/AIに関連したシステム等の利用・活用状況

[「取り組んでいる」との回答比率]

  • VR (仮想現実) /AR (拡張現実) 7.8%

  • 予知保全・予兆保全システム 14.1%

  • ソフトセンサ 11.9%

  • AI画像認識・解析システム 17.5%

  • データ分析基盤・IoTプラットフォーム 20.3%

  • 遠隔監視・稼働監視システム 21.3%

  • 品質改善・品質安定化システム 15.6%

  • 可視化・見える化システム 20.0%

  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI) 10.0%

  • ドローンの活用 6.3%

出所

化学工業のIoT/AIの利用・活用に関する調査 2022年5月

IoTセンサー

生産設備・機械などにセンサーを取り付け、温度・振動・圧力などのデータをネットワーク経由で情報を収集、保安・保全業務や設備稼働状況の遠隔監視などを可能にします

例えば化学プラントで転機(モータ・ファン・ポンプなど)の保安の場合、広大なプラント内の設備を人力で点検するには限界があります。また人材の確保も容易ではありません。

IoTセンサーを活用することで、遠隔地にある設備の状態を把握しやすくなり、効率よく適切なメンテナンスを実施することが可能になります。

関連:ポンプ・モータ・ファンの保全コストを削減

化学プラント・工場のポンプ・モータ・ファンの保全コストを削減する回転機故障予兆監視システム。振動センサーを活用した故障予知で化学プラントの保全コストを削減、遠隔監視も可能に。

関連:クランプオン式蒸気用超音波流量計/EMSソリューション

配管工事不要で簡単に取付けられ、圧力損失の心配なしに蒸気流量を測定可能。高精度で飽和蒸気の流量を測定し、蒸気流量の「見える化」を実現。EMS連携で省エネにも貢献します。

スマートグラス

スマートグラスを活用し、保安・保全業務のペーパレス化やハンズフリー化を可能にします。これにより作業員の負荷を軽減、安全性の確保が可能になります。

また、Web会議システムなどと連携することで、プラント現場の状況をリアルタイムで共有しながら、作業指示を行うなどが可能になります。

関連:スマートグラスを活用したスマート保安・保全

化学プラントの点検・保全をスマートグラスで支援するための遠隔作業支援パッケージ。IP67の防水・防塵・Zoom対応。写真撮影、音声入力、動画撮影などの機能により保全・保安作業をハンズフリー化、作業負担を軽減します。

適用事例

工場現場のトラブル対応を遠隔作業支援で実施、平均復旧時間を約1/5に短縮

統計解析・機械学習

IoTセンサーで取得したデータ、画像や製造工程で得られる大量データ(ビックデータ)の分析を可能にます。 従来、このようなデータ解析には多くの時間と労力が必要でしたが、統計解析や機械学習などの技術を活用し、解析の自動化をすすめることで、短時間に解析結果を得ることが可能になりました。

化学プラントの場合では配管の画像診断、設備劣化診断、異常兆候検知やプラントの最適化運転などにも利用されています。

参考:PLCデータ・振動センサーによる予知保全

食品工場現場で異常検知・不良原因解析・故障解析を簡単に。エッジコンピューティングで食品製造現場の機械設備データを統計解析。取り付けが容易で、インフラ工事が不要、製造現場でスピーディな改善が可能。

参考:多変量解析ツール

品質シミュレーションにより製品品質改善・歩留まり向上を可能に。導入実績550社以上のアナリティクス・AIで、製造工程の診断・分析による加工精度の向上、品質歩留まり向上、設備異常診断などを可能にします。

ドローン

主に保安・保全業務に産業用ドローンが活用されています。これにより人が容易に入り込めない場所の設備高所・危険領域等における保安作業の代替、 巡視データの自動取得などが可能になります。

従来と比較して点検頻度を高めることができ、保安・保全の生産性向上が期待され、現在さまざまなドローンの開発と活用が進んでいます。

ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスとは、体に着付けることができるコンピューターのことを指します。

ウェアラブルデバイスの代表的なものにはスマートグラス、スマートフォンやタブレット、時計型デバイス、衣服型デバイスなどがあります。

活用例としては、ウェアラブルデバイスによる化学プラント・工場作業の現場支援、スマートフォンやリストバンド型デバイスを活用した作業員のリアルタイムの状況把握、 スマートデバイスへの作業指示などがあります。

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コラム:遠隔作業支援技術による設備保全の効率化と人材不足対策

化学工業における設備保全は、人材不足や技術継承が課題となっています。遠隔作業支援技術は、人の作業を省力化し、技術継承に有効です。化学工場のスマート保安を実現するためには、IoT・AI技術の活用に加え遠隔作業支援技術を活用することが重要になります。

コラム:スマートファクトリー化と脱炭素化が進む化学業界の現状と課題

化学工業の製造・生産部門を対象に実施した意識調査で、「DXについて知っている」との回答は53.1%となりました。このページではスマートファクトリー化と脱炭素化に関連した重要キーワードの解説と、化学工業を対象とした最新の意識調査結果についてご紹介します。