開発ストーリー
使う人への優しさを詰め込む 奥行き45cm。狭い売り場もセルフ化できる新型釣銭機

店舗の人手不足やキャッシュレス決済の広まりの影響などで、会計のセルフ化が急速に進んでいる。大型スーパーやコンビニだけではない。これまでセルフレジとは縁の薄かった小型店舗でも珍しい光景ではなくなっている。多様なニーズに応えるため、「釣銭機」はどう変わったのか。富士電機の社員三人に聞いた。
ガチャガチャ……シュッ、ジャラ!

種類ごとに分けられたケースから弾き出された硬貨が、横に後ろに規則正しく移動して1カ所に集まる。1枚1枚、ベルトコンベヤに乗せられて登っていき、取り出し口で一気にジャラッと飛び出す。その間、約4秒。
「ピタゴラスイッチみたいでしょ」
品質保証部の山本は、新たに開発した釣銭機の構造を「ガチャガチャガチャってお金を運んでいく、トランスフォーマー的なかっこよさがある」と話す。
硬貨がベルトコンベヤで動く速さは、秒速1メートル。お金を止めずに、速く、確実に運ぶ。釣り銭に間違いは許されない。
「苦労することも多いけど、ぜんぜん飽きないですね」
富士電機三重工場では自動販売機が多く生産され、自販機への愛に溢れた社員がいる。一方で、釣銭機も国内シェアトップクラス。自販機愛に負けない釣銭機愛を熱く語る社員たちがいた。
コロナ禍がレジを変えた

これまで富士電機の釣銭機は、店員が操作する対面レジ専用の機械としてつくられてきた。
それがコロナ禍で状況が変わった。スーパーやコンビニの省人化が進み、多くの店が釣銭機の入金・出金口を客側に向けて、本来の使い方とは違うかたちでセルフレジとして使うようになった。
セルフレジのニーズが一気に高まり、「新たな顧客からの相談が増えた」と営業統括部の大西は話す。
「飲食店やクリニック、調剤薬局など、小型店舗から問い合わせがきたんです。従来の釣銭機ではスペースを取りすぎて置き場がない。セルフレジとして使いたくても使えない、という店が少なくありませんでした」
現場の温度を肌で感じた大西は、集まった声をすぐに三重工場の開発陣に伝えた。
お金を、持ち上げる

2023年4月、セルフレジ用釣銭機の開発がスタートした。
金銭機器部で設計を担当する髙橋は、「従来の釣銭機は硬貨ユニットと紙幣ユニットを横並びにしていたので、設置面積が大きくなっていた。そこで、硬貨と紙幣のユニットを縦に積んでスペースを小さくすることにしました」と話す。
「横型」から「縦型」にする。一見シンプルな発想だが、実現は簡単ではなかった。
「下に置いた硬貨のケースから、上の取り出し口までお金を持ち上げなければいけません。従来の横型には硬貨を持ち上げる仕組みがなかったので、どうやって運ぶか、機構をイチから考えました」
さまざまなアイデアが出たが、最終的に、硬貨を1枚ずつベルトで挟み、ベルトコンベヤの要領で上に運ぶことにした。
髙橋は入社して10年、釣銭機一筋の開発者だ。釣銭機の魅力をこう語る。
「富士電機の中でもちょっと毛色が違うんですよね。構造にも制御にもメカトロニクス技術がふんだんに使われていて、この楽しさは他の製品じゃなかなか味わえないです」
しかし、まったく新しい「縦型釣銭機」の開発では、ベテランの髙橋も予期しない大きな壁が立ちはだかった。
ピンチこそ、発見がある
製品完成を目前に思わぬ問題が発生した。
硬貨を持ち上げる部分で、お金をうまく上まで運ぶことができない。出てくるスピードが遅れたり、運ばれないまま止まってしまったりすることもあった。
髙橋は「シミュレーションでは問題なかったので、これなら大丈夫だと思っていたのに想定外でした」と振り返る。開発初期から一緒に作ってきた山本も、原因がまったくわからなかった。

狭い機構の内部は肉眼ではのぞけない。まずは詰まる場所を探ろうと、細い胃カメラのようなカメラを差し込んでみた。すると、信じられない光景が映った。
「10円玉がピッタリ溝にはまっていたり、上がったはずの1円玉がベルトコンベヤに挟まっていたり。こんなことあるのか?って思いました」(山本)
どこで止まるかはわかった。だが、なぜ止まるのかは、静止した画像では見えてこない。動きそのものを捉えるしかなかった。出金口の覆いをスケルトンにし、ハイスピードカメラを据えて、硬貨が運ばれる一部始終を撮影した。
山本は3日間、釣銭機に張り付き、出金口に目線を合わせ、硬貨が運ばれるのをじっと見つめていた。
「やっぱり気になるし、ずっと見ちゃうんです。ピンチの時だから難しい顔を装っていましたけど、じつは、新しい発見を期待して、ちょっとワクワクしてました(笑)」
映像をスローモーションで再生すると、原因が見えてきた。
運ばれた硬貨は設計上、覆いに当たって自然に取り出し口へ落ちる。ところが、勢いが強すぎる硬貨は、覆いではね返ってベルトへ戻ってしまっていた。
大きな500円玉と小さな1円玉のように、サイズの違う硬貨が隣り合うと、ベルトの挟み方にわずかな差が生まれる。挟む力が変われば、運ばれる勢いも変わる。きれいに落ちる硬貨もあれば、はね返る硬貨もある。詰まりの正体だった。
そこで、覆いの内側に、運ばれてきた硬貨の勢いをやわらげる仕掛けを設けた。勢いがそろうと、大小どの硬貨もきちんと落ちるようになった。
載せるだけで、すぐ使える
最大の壁を乗り越えた縦型釣銭機は、業界最薄の奥行き45cm、設置面積を約40%削減することに成功。2025年10月に量産体制を確立し、販売を開始した。進化したのは薄さだけではない。出金口の位置を高くし、客はかがまずに釣り銭を受け取れるようにした。小さくしながら、使いやすさをアップさせた。
大西は、「いくつかのメーカーに興味を持っていただいて、市場での手応えを感じています。営業として、これからどんどん売っていきたい」と意気込む。

釣銭機を上から見た画像(左)。従来機より奥行きが25cm、幅が2cm短くなった。
縦型釣銭機(ECS-V8)は、高さは低くなっているものの、入金・出金口は上にあるため、人が使いやすい設計になっている(右)
従来の機種では釣銭機本体だけをPOSメーカーに納めていたため、筐体は別に用意してもらう必要があった。一方の縦型釣銭機は、筐体と釣銭機を一体型にしたことで、顧客の手間を大幅に減らしている。
「システムを載せるだけですぐに使える、と好評です」(大西)
自分のつくったものが、街にある

大西は入社2年目。規模の大きい発電系の仕事がしたいと富士電機を選んだ。しかし、配属されたのは食品流通事業で、釣銭機の営業だった。
希望していたものより規模の小さい製品だが、まったく悲観していない。大西は「釣銭機はすごく難しい製品で、知れば知るほど楽しくなってきました」と話す。
「それに、2年目で担当顧客を任せてもらえるなんて、他の部署ではありえません。ここでは若くても重要な役割を与えてもらえるので、日々の成長を感じられます」
髙橋の仕事のやりがいは、身近なところで役立つ製品を作っていることだ。「一般のお客さんが自分の作った製品を触っているところを見るとうれしい。入社したときはコーヒーマシンを作りたかったんです。でも、金銭を扱う部署に配属されて、いざやってみると面白かった。今となってはこっちで良かったなと思います」。
山本も、生活の中で触れることができる製品を作ることが喜びだと話す。
「コンビニのスムージーの機械とか、自分がかかわっていないものも友だちに自慢しちゃいます。あれはうちの会社の製品なんだよ!って」
釣銭機は、人への優しさ
今後、縦型釣銭機はどんどん小さくなっていくのだろうか。
髙橋は「機械をただ小さくすればいいという話ではない」と言う。「使う人がお金を取り出しづらくなったり、お店側のメンテナンスがしづらくなったりすると意味がないので」。
実際に、大西が「筐体下部にレシート紙などの備品やUPSを収納できるスペースを設けてほしい」という店舗の声を反映したところも、他社と差別化する大きなポイントになった。
立ったまま釣り銭を取り出せる高さについて、山本は「デザインに人間工学を取り入れました」。髙橋は「開発側では気づかない視点だった」と話した。

三人に学生へのメッセージを書いてもらった。
髙橋(上)は「頭で考えるだけだと、機会を逃してしまうこともある。自分の足で動いて、現場の人たちと話す行動力が大事だと思います」。大西(中)は「社会人1年目はたくさん失敗しましたが、それも成長の糧だととらえて、今後もどんどんチャレンジしていきたいと思っています」と言い、山本は「ものづくりには、よく見てよく触れることが大切。日頃から世の中のトレンドを察知して、自分が体験したことを仕事に活かすようにしています」と話した。
設計も、品質保証も、営業も、開発初期から思いは1つ。「どうしたら人が使いやすいか」を考え抜いてきた。釣銭機を愛する三人が優しさを詰め込んだ「縦型釣銭機」は、徹底したユーザー目線で、売り場の多様なニーズに応えていく。