エネルギー・環境事業のルーツをたどる
無停電電源装置(UPS)の歴史(後編)

無停電電源装置(UPS)の歴史(後編)

1990年代: IGBTの採用による小型・軽量、高性能、高効率化

ここ数年のUPSの技術開発の主眼は高周波スイッチング技術の適用にかかわるもので、(略) これらの技術はMOSFETやIGBTなどの高速スイッチング素子の性能向上と電流容量増大に伴い、順次容量の大きなUPSへと適用拡大されつつある。
今回、富士電機では、スイッチング素子としてIGBTを用い高周波スイッチング技術を適用した小形・軽量、高性能の三相UPSを開発し、75kVA機から200kVA機までを系列化した (以下略)

富士時報 第63巻第6号(1990年)より抜粋

1990年には入力部の交流から直流に変換するコンバータと直流から交流に逆変換するインバータ双方にIGBTを採用したオールIGBT式のUPSを75~200kVAのラインアップを揃え、翌1991年にはさらに1,000kVAまで拡大されました。

富士IGBT式大容量UPS。富士時報第65巻第1号(1992年)より
富士IGBT式大容量UPS
富士時報第65巻第1号(1992年)より

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、MOSFETの高速スイッチングと大電流を流せるバイポーラの特性という両方の長所を併せ持った半導体モジュールであり、UPSだけでなくパワー半導体分野全体でも現在の主流となっています。
装置の変換効率は、サイリスタ型の大容量UPSが80%であったことに対して、IGBT式を採用した当時の当社の大容量UPSシリーズでは、約90%となり、電力ロスは約半減。装置本体の大きさも約1/3に小型化することができました。(いずれも200kVA機での比較)

365日24時間連続稼働のコンピュータセンタ向けの大容量無停電電源装置(UPS)をアウトソーシング事業用に納入した。(中略)A系、B系UPS共通の直送回路と他系負荷へも給電可能なバックアップ回路を設けて、A系、B系の異常時、保守時および将来更新時にも負荷へ安定したUPS出力を無停止給電できる高信頼度システムとしている。

富士時報 第69巻第1号(1996年)より抜粋

1990年代後半には、Microsoft社が発売したWindows95の登場と通信技術の発展により、インターネットの普及が急激に加速しました。上記引用で登場した「コンピュータセンタ」は現在のデータセンターの走りであり、そのサービスに求められる高信頼性と連続稼働の観点から、コンピュータセンタに納入されるUPSシステムは、装置の異常時や保守時、将来の更新時にも備えた極めて高い信頼度を実現したものでした。

ミニUPS Jシリーズ(1~10kVA) 富士時報第73巻第1号(2000年)より
ミニUPS Jシリーズ(1から10kVA)
富士時報第73巻第1号(2000年)より

また、高信頼性をもつUPSによる設備の安定稼働のニーズはコンピュータのバックアップ以外にも、半導体製造会社向けなど高付加価値製品の生産ラインにも広がっていきました。
1999年に系列化したミニUPS Jシリーズ(1から10kVA) は、保守性の向上とともに、小型・軽量化を図った小容量UPSでした。半導体製造装置などコンピュータを搭載した産業用機械の電源をバックアップするニーズに応え、産業分野の幅広い用途でUPSが使用されるようになりました。

2000年代以降: データセンターの大規模化から、高効率化、省スペースの要求

情報技術の発展により通信ネットワークは急速に広がり、特にインターネットは世界中で一般的に利用されるようになっている。ここ数年は欧米や日本でインターネットデータセンターの建設ラッシュが始まり、その隆盛はアジア諸国に移行していくと考えられている。一方、世界がインターネットでつながった結果、基幹となる情報通信機器は24時間365日無停止が義務づけられ、それらを支える電力の安定化も非常に重要な課題となってくる。

富士時報 第74巻第7号(2001年)より抜粋

2000年代に入るとデータセンターの建設ラッシュが始まります。金融系などのオンプレミス(自社内で管理・運用)のデータセンターから、近年では、地震や停電対策、厳重なセキュリティを特長としたクラウドサービス用のデータセンターへと市場が拡大していきます。

データセンター建設の要件として、サーバを設置するラックのスペースをいかに確保するか、は重要なポイントの一つです。そのため、UPSに対しても、より小型化することが求められました。
また、サーバの高性能・高密度化に伴い、データセンターで必要な電力も大きくなってきました。こうしたなかで、データセンターでの電力使用量の極力抑制するために、UPSの変換効率も重要なファクターとなっています。

UPS7000HX-T3シリーズ(2011年度発売)
UPS7000HX-T3シリーズ
(2011年度発売)

当社は、パワー半導体デバイスを自社開発できるという強みにより、UPSでも新技術による小型・軽量化、高効率化を進めてきました。
上記引用したデータセンター向け「7000Dシリーズ」(2007年発売)で95%まで高めた電力変換効率は、2011年に発売した「HXシリーズ」では、世界初となるRB-IGBT(注3)を用いた新3レベル電力変換(注4)回路を採用することで、業界最高クラスとなる97%まで高まりした。

(注3)

RB-IGBT:Reverse-Blocking IGBT。UPSなどに使用すると回路の簡素化

(注4)

新3レベル電力変換:従来の2レベルにくらべ、スイッチング損失を低減。いずれもUPSを小型・軽量化、高効率化できる。

ハイパースケールデータセンター向け大容量UPS「7500WXシリーズ」1,200kVA(2021年発売)
ハイパースケールデータセンター向け大容量UPS「7500WXシリーズ」1,200kVA
(2021年発売)
富士電機 無停電電源装置(UPS)の歴史年表
貢献するSDGs目標
産業と技術革新の基盤をつくろう
気候変動に具体的な対策を

当社の無停電電源装置(UPS)は、自然災害や突発的な事故による停電・瞬低・電圧変動などの電源トラブルから大切なシステム・データを守る製品です。近年、私たちの生活やビジネスに欠かせないコンピュータや重要な社会インフラとなっているデータセンターの安定稼働を支え、インターネットや通信環境など重要な社会インフラの強靭化に貢献しています。これは、当社のSDGs目標「9.産業と技術革新の基盤を作ろう」に貢献するものであり、製品の高効率化による省エネは、「13.気候変動に具体的な対策を」にも大きく貢献しています。

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