エネルギー・環境事業のルーツをたどる
無停電電源装置(UPS)の歴史(中編)
近年、急速な勢いで拡大している情報処理システムにおいて、特にオンラインシステムでは信頼性・安定性が重要な事項であり、システムの動作を支えるシステム電源装置のそれは、一段と厳格に要求されている。一方、電力用サイリスタの発達とともに各電力機器の静止形化が進み、電算機用電源も従来の回転型(M-Gセット)から静止形(サイリスタインバータ)へ移行してきている。
今回、富士通・富士電機共同できわめて信頼度の高い並列冗長式サイリスタインバータを開発し、日本中央競馬会殿に(略)納入し、すでに好調な実用運転に入っている(以下略)
富士時報 第44巻第8号(1971年)より抜粋
1970年代には全国の銀行をネットワークでつなぐオンラインシステム化が急速に進んでいきます。現金自動支払機(ATM)が普及し、人々がキャッシュカードを持ち、給与支払いは口座振り込みへと移行していきます。オンラインシステムが社会に不可欠な存在になると、災害対策や故障対策としてバックアップ系システムや停電対策用のサイリスタインバータによる無停電電源装置が整備されていきました。
特にオンラインシステムの中枢となる各金融機関の事務センターでは、UPSを含む電源システムに高い信頼性が求められ、UPS単体の故障時でもバックアップ可能な並列冗長システムが開発されました。また、1975年にはバックアップ回路として商用電源を同期無瞬断切換するシステムを開発し、当社は、(社)日本電機工業会の進歩賞を受賞しました。このシステム技術は、UPSの需要拡大に大きく貢献寄与し、現在でもほとんどのUPSに適用されています。

富士時報第49巻第12号(1976年)より
サイリスタインバータによる静止形無停電電源装置は、定電圧定周波数(Constant-voltage Constant-frequency)であることから日本ではCVCFとして注目を浴び、以降十数年間、この呼び名が定着していた時期がありました。
サイリスタ式の無停電電源装置は、多数の実績によりその高い信頼性が実証され、金融機関以外にも電力・ガス・水道などの公共用や病院、放送局などの社会インフラ、さらには石油・鉄鋼などの一般産業用などますます多くの分野に利用されるようになっていきました。
最近のコンピュータシステムは、オンラインによる集中制御方式から端末機による機能分散処理に変わりつつあり、電源も小容量、高信頼性のものが要求されている。また、パワートランジスタの性能向上と安定した供給により、10kVA程度まではトランジスタ方式で製作可能となり、従来のサイリスタ方式のように転流回路を必要としないため、過渡特性、効率において大幅な性能向上が可能である。今般、当社では1φ3kVAトランジスタ式CVCFインバータを製作納入した。(略)
富士時報 第51巻第6号(1978年)より抜粋

富士時報第58巻第1号(1985年)より
コンピュータの普及はやがてパソコンやOA(Office Automation)、FA(Factory Automation)など、私たちの生活や仕事の身近なところにまで広がってきました。OA、FA機器の停電対策のニーズに応えるため、小容量のUPSも開発されました。小容量では高信頼と並んで小型、低価格が要求されますが、パワートランジスタの実用化への開発が進んだことで、当社では小型・軽量化を可能にするパワーMOSFET(注)1を使用した0.5から10kVAの単相出力タイプのUPSを製品ラインアップに加えました。
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(注1)
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MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor):トランジスタの一種。スイッチング速度が速く、消費電力が小さい。小型化しやすい。
近年パワートランジスタの高耐圧、大電流化の実現により小容量のみならず、大容量UPSのCVCFインバータにも適用範囲が急速に拡大してきた。本装置はトランジスタのもつ自己消弧作用、高速スイッチング作用など優れた特性を生かし、インバータはPWM制御を採用した。
富士時報 第56巻第1号(1983年)より抜粋
パワートランジスタの適用は大容量領域にも広がっていき、1983年には標準系列として20から600kVAまで開発が完了しました。1980年代のUPSは、ターンオフサイリスタ(GTO)や初期のパワートランジスタであるバイポーラトランジスタ(BJT)など新しい半導体素子の実用化とともに小型・軽量化、高性能・高効率化が進みます。また、パワー半導体のスイッチング動作の高速化により、小型化および出力性能が向上するPWM制御(注2)が採用されるようになりました。
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(注2)
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PWM制御(Pulse Width Modulation):高速スイッチングのON-OFFにより出力のパルスの幅を変化させる制御。UPSではこれをフィルターで滑らかにし出力波形をきれいな正弦波に近づける。
(つづく)