鋳造工場の基礎知識
電気炉の予防保全・メンテナンス

電気炉の予防保全・メンテナンスの重要性

電気炉の予防保全・メンテナンスのイメージ

電気炉は、電気エネルギーを熱源として使用します。安全かつ安定した操業を行う上で、日常の運転前点検と定期的な部品交換・メンテナンスが欠かせません。

設備の予期せぬ故障や停止は、機会損失やロスコストが発生するだけではなく、企業にネガティブなイメージを与え経営リスクの一部となるためです。

予防保全はこれらリスクを低減し、工場の稼働率や品質の向上、安全性の確保などを可能にします。

予防保全とは

予防保全(PM:Preventive Maintenance)とは設備や機械の故障やトラブルを未然に防ぐために行われる取り組みです。 電気炉の場合、定期的な点検や保守作業により、異常な振る舞いや部品の摩耗を早期に発見し修理や部品交換をしたり、機械の正確な動作や最適な状態を維持することなどの取り組みが該当します。 これにより、生産能力の低下や品質の低下を防ぎ、効率的な生産が可能となります。

予防保全とバスタブ曲線

予防保全とバスタブ曲線のイメージ

予防保全は、設備や機械の故障やトラブルを未然に防ぐために行われる取り組みです。一方、バスタブ曲線は製品の寿命と時間の関係を表すグラフです。

バスタブ曲線は、製品の寿命を時間の経過に対して表現するために使用されます。曲線の形状は、製品の故障率を示しています。曲線の初期部分は初期故障期間で、故障率が比較的高いことを示しています。

その後、製品の安定性が向上し、故障率が低下します。しかし、時間の経過とともに製品の老朽化が進み、故障率が再び増加する段階があります。

予防保全の目的は、バスタブ曲線の初期故障期間と、故障率が再び増加する段階で製品の寿命を最大化することです。バスタブ曲線を理解し、予防保全を適切に実施することで、設備や機械の寿命を最大限に延ばし、生産性や品質の向上、コスト削減を実現することができます。

予防保全のメリット

ライフサイクルコスト削減

予防保全により、故障や大規模な修理を未然に防ぐことができます。これにより、予期せぬ停止や修理にかかる高額な費用を削減することができます。また、予防保全により機械の寿命を延ばすことができるため、新たな設備投資を遅延させることも可能です。

安全性向上

予防保全は、機械の安全性を向上させる効果もあります。定期的な点検やメンテナンス作業により、電気炉の異常や不安全な状態を早期に発見し、修理することができます。これにより、作業員や周囲の安全を確保することができます。

安定性・信頼性の向上

予防保全により、機械設備の安定性と信頼性が向上します。定期的な点検やメンテナンス作業により、機械の正確な動作を維持することができます。これにより、生産ラインの安定性が向上し、信頼性の高い製品を一貫して生産することができます。

予防保全事例:電気炉/誘導炉における保全ポイント

電気炉/誘導炉は、高温に溶けた金属を保つ耐火物・炉体と高電圧・大電流の電源とで構成され、しかも、冷却水や油圧回路も組み合わさった非常に特異性のある電気設備です。以下では誘導炉を例に、リスク低減のための予防保全の主なポイントや、予防保全事例をご紹介します。

主な保全のポイント

電気炉/誘導炉の保全ポイント

炉体まわり

  • 炉コイル交換 冷却水ホース・水冷フィーダ等。機器によりますが交換周期の目安は6年前後です。

受電盤

  • パワーヒューズ・真空遮断器・過電流継電器等。機器によりますが交換周期の目安は10年前後です。

主変圧器

  • オイルクーラ・送油ポンプ・絶縁油等。機器状態によりますが交換周期の目安は10年前後です。

整流器盤・インバータ盤・整合盤

  • 制御装置・インバータスタック・冷却水ホース等。機器によりますが交換周期の目安は8年前後です。

冷却水装置

  • 冷却水ポンプ・イオン交換樹脂・ストレーナ等。機器によりますが交換周期の目安は10年前後です。

炉制御盤

  • PLC・変換器タッチパネル等。機器によりますが交換周期の目安は8年前後です。

炉体まわりの予防保全事例

コイル交換

炉体まわりの予防保全事例イメージ

誘導炉のコイルは溶解炉の心臓部です。万一、コイルに異常が発生した場合、長期間の操業停止を余儀なくされます。操業の安定化を図る上で予備コイルの購入を強く推奨いたします。また、既に予備コイルと交換され、修理されずに保管されているものにつきましては、早急に修理・オーバホールし、いつでも交換可能な状態に整備しておくことを推奨します。

冷却水不足・断水による絶縁焼損事例

冷却水不足・断水による絶縁焼損事例イメージ

絶縁テープおよびターン間絶縁リングが焼損し、絶縁テープが剥離しています。

コイル導体の層間短絡(レヤーショート)

コイル導体の層間短絡(レヤーショート)イメージ

コイルのターン間で放電現象が発生し、導体が溶損し最終的に通水穴に達して冷却水が漏れ出します。絶縁テープおよび層間リングの絶縁低下、ターン間に異物(金属)が混入し絶縁を損傷させたり、湯差しによる絶縁物の炭化等により、層間短絡事故が発生します。

コイル導体の穴あき記録写真

コイル導体の穴あき記録写真イメージ

一般的にコイル導体の期待寿命は20年前後です。水質の悪化・耐火物の膨張等によりコイル導体が変形したり、割れや穴あき等が発生します。

コイルセメントおよび炉頂部

コイルセメントおよび炉頂イメージ

セメント全体的にクラックが入っており、湯差しと思われる変色箇所が見られます。炉頂部キャスタブルにクラックが入っており、部分的に浮き上っています。定期的な補修が必要です。

インダクタケース

インダクタケースイメージ

インダクタ返却時の事前調査時点では水圧試験に問題はありませんでしたが、その後、使用中に水冷パイプから水漏れが発生する事例がありました。

水冷フィーダ

水冷フィーダイメージ

水冷フィーダは出湯する度に可撓するため、出湯回数が増えるにつれて内部の素線が劣化し最終的には断線に至ります。また、被覆のゴムは温度上昇や経年劣化により硬化・ひび割れし、漏水することがあります。

ダイヤル温度計

ダイヤル温度計イメージ

冷却水の流量低下は、温度上昇として検出されます。温度計が壊れていると、トラブルの拡大につながります。

冷却水ホース

冷却水ホースイメージ

炉コイルに使われる冷却水ホースは、絶縁性をもつ特殊品です。

接点付き圧力計

接点付き圧力計イメージ

冷却水の圧力低下は、炉コイルの抜熱に必要な流量を確保できず、コイルの絶縁劣化や焼損につながります。圧力計は安定操業に重要な機器です。

油圧シリンダ

油圧シリンダイメージ

油漏れを放置すると、湯玉の飛散などにより着火事故につながる恐れがあります。また、ホースの破損により炉体の予期せぬ下降で挟まれ事故などの危険があります。

電源機器まわりの予防保全事例

制御装置

制御装置イメージ

制御装置内部の電解コンデンサは60000時間(約7年)前後で容量低下が進みます。周囲温度が高いと劣化は加速されます。

PLC・アナログ変換器

PLC・アナログ変換器イメージ

制御装置と同様に機器内部の電解コンデンサの劣化は周囲温度により寿命低下を招きます。廃型機種はパーツの供給が終了しているものが多いため、現行機種への更新が必要です。

整合コンデンサ(炉用コンデンサ)

整合コンデンサ(炉用コンデンサ)イメージ

周囲温度が高いと、絶縁油の内圧が高まり液漏れや筐体の膨張破損につながります。粉塵の堆積は地絡・放電故障につながるため、清掃により環境維持に努めてください。

変圧器オイルクーラ

変圧器オイルクーライメージ

水冷変圧器の場合、オイルクーラの配管が閉塞すると絶縁油温度が上昇し変圧器内部の劣化を加速します。配管が腐食漏水すると、内部に冷却水が侵入して短絡事故に繋がります。

変圧器絶縁油ガス分析

変圧器絶縁油ガス分析イメージ

変圧器内部の内部異常を診断するためには、定期的なガス分析による傾向観察が有効です。

インバータ2次冷却水回路

インバータ2次冷却水回路イメージ

純水は定期的に全量交換するだけでなく、コンディション維持のためにイオン交換樹脂も定期的に交換してください。循環ポンプ・熱交換器は予備の購入を推奨します。

サイリスタ素子

サイリスタ素子イメージ

サイリスタ素子には特性ランクがあります。交換の際には特性ランクを合わせる必要があります。

各種基板

各種基板イメージ

基板に使われる電解コンデンサは60,000時間(約7年)前後で容量低下が進みます。周囲温度が高いと劣化は加速されます。

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