監査役座談会

富士電機レポート2021

監査役座談会

コーポレート・ガバナンスの実効性向上に貢献する
監査役会の取り組み

 当社は、上場会社の機関設計として監査役設置会社を選択しています。その狙いは、常勤監査役の実査型監査により監査の実効性が確保できる、監査役が独任制である、自己監査リスクを排除しつつ経営判断原則に照らした実質的な妥当性監査も期待できるなどのメリットによるものです。
 今回は、こうした機関設計のもと、コーポレート・ガバナンスの更なる実効性向上に向けた監査役会の取り組みの現状と課題について、監査役による座談会を行いました。

写真:奥野 嘉夫

奥野 嘉夫

常勤監査役

写真:松本 淳一

松本 淳一

常勤監査役

写真:平松 哲郎

平松 哲郎

社外監査役

写真:高岡 洋彦

高岡 洋彦

社外監査役

写真:勝田 裕子

勝田 裕子

社外監査役

監査役活動の評価と課題

ポイント

  • 監査の実効性確保のため、監査役、内部監査部門、監査法人の綿密な連携や常勤監査役の現場監査を重視

  • 更なる実効性向上のためには、監査計画段階でのリスク認識の共有化が重要

  • 社外監査役の更なる事業理解向上のため、常勤監査役の現場監査への同行の機会も検討

奥野
 監査の実効性確保のため、監査役、内部監査部門、監査法人の連携、いわゆる三様監査による各監査機能の強化と現場監査を重視していますが、現状の監査役活動に対するご認識と課題についてご意見をお聞かせください。

松本
 まず、三様監査については、内部監査部門とは、常勤監査役との月次の連絡会に加え、年1回、監査役会において監査結果などの報告を受け意見交換を行っています。また、監査法人とは、監査計画、四半期レビュー、年度監査報告の節目で、監査役会として綿密な説明を受けて意見交換を行うなどの連携をしています。
 それから、現場監査については、常勤監査役は基本的に当社各部門と国内連結子会社を毎年、海外連結子会社を当該拠点の位置付けに応じて毎年または隔年で往査していますが、前期はリモート監査も含め、のべ83部門・拠点を往査しました。往査の概況などについては、三様監査の要点などを含め、毎月、活動報告書を社外監査役にお送りし、情報共有に努めています。

平松
 当社の監査役活動は、監査役監査基準をはじめとする各種規範にかなり忠実に運営されていると認識しています。また、昨年度より、監査役スタッフとして執行部門から独立した専任者(監査役付)1名を配置いただいており、監査の実効性向上に向けた監査環境の整備も順次図られています。
 三様監査のうち内部監査部門は監査役にとって最も重要なパートナーであり、社外監査役としては、個々の案件の細部よりも、経営の役に立っているかという観点から視るようにしています。一方、監査法人に期待するのはひとえに公正・厳正な意見を出してもらっているかであり、その際、強制的な捜査権的なものを持たない監査法人がどれだけ当社の円滑な協力を得て判断しているかを注意深く視ています。また、常勤監査役の現状の往査頻度などについては適正なレベルと理解しており、その結果は随時ご報告を受け大変参考になっています。
 社外監査役としてさまざまなご報告を受ける際は、ある事象についてその裏側、いわば氷山の大きさがどの程度なのかに留意して伺うようにしています。あとウィズコロナでの往査に関しては、オンライン方式では代替できない部分をいかに捕捉し監査の実効性向上に結び付けるか、今後更に磨きをかけていただければと思います。

高岡
 当社の社外監査役としてまだ1年ですが、今までお話がありましたように監査役設置会社として重要である三様監査、現場監査、そして情報の共有化は、規定通り適切にできていると思います。
 これからの課題としては、海外を中心に事業を拡大していくなかで、限られた人員で行う監査役監査の実効性を高めるため、特に三様監査における監査計画段階での連携を強化することが挙げられると思います。つまり、パートナーである内部監査部門や監査法人に対して、「こういうところを重点的にチェックしてほしい」などの監査役のリスク認識に基づく要望を先行して伝えておくことが今後より重要になってくるのではと思います。

勝田
 私も当社の社外監査役になり1年になりますが、当社の事業範囲が幅広い分野にわたるなか、常勤監査役には本当に精力的に数多くの現場実査を実施いただいており、その内容も月次で共有いただいています。内部監査部門や監査法人からも定期的にお話をお聞きする機会があり、それぞれ自己監査ツールやデジタル監査によるデータ分析などの新しい手法も活用しながら、現状は基本的にバランスの取れた三様監査が実現できていると認識しています。今後は、他社の事例なども参考にしつつ、さらに当社の監査をより効率的で精度や実効性を高めることを目指した取り組みを継続していくことが重要と思われます。
 当社の事業理解の面では、取締役会での担当執行役員による事業戦略説明や工場視察会などの機会に加え、毎月の社内報には、新製品の技術内容や、各事業所での活動やSDGsへの取り組みなどが紹介されており、大変有意義に拝見しています。今後は、富士電機グループ監査役協議会での活動内容の共有や社外監査役が常勤監査役の現場監査に立ち会う機会なども設けていただけるとより理解が深まると考えております。

経営リスクの多様化に対する注力監査事項

ポイント

  • 海外展開拡大に伴い、海外子会社のコンプライアンスはますます重要

  • サプライチェーンリスク、品質リスクなどにも改めて留意

奥野
 昨年度からKAM(監査上の主要な検討事項)の制度が導入され、また、執行部門で行っている遵法推進委員会においては、中期コンプライアンス方針の重要課題として新たに「海外子会社のコンプライアンス活動強化」が挙げられており、監査役会としても注視しているところです。経営リスクの多様化に伴い監査役会としてフォローすべき事項も増えていますが、現状のご認識と課題についてお聞かせください。

松本
 リスク管理体制の監査については、執行部門が社内規程に基づいて作成するリスク管理シートの運用(リスク管理PDCAサイクルの実施)状況を確認しています。また、コンプライアンスについては、遵法推進委員会などを通じて、規制法令ごとのコンプライアンス・プログラムへの取り組み・推進状況や内部通報制度の状況などを監査していますが、海外展開の拡大に伴い、今後は海外子会社におけるコンプライアンスがますます重要になると思います。
 コンプライアンスで一番大切なのは教育であり、経営層・管理者がコンプライアンス徹底のメッセージを従業員に繰り返し発信し続けることによって、組織の隅々まで遵法意識を絶やさないようにすることが極めて重要です。

平松
 我が国企業で大きな不祥事が起こる度に監査役の法的権限が強化されてきた歴史があるわけですが、多様化するリスクにどう対処するかというと、やはり3つのディフェンスラインによる統制が基本になると思います。まず、現場の業務執行部門における日常の内部統制(第1防衛線)、次に、財務、法務、経営企画その他の然るべき内部統制部門による専門的見地からの監視(第2防衛線)、そして、内部監査部門によるモニタリング(第3防衛線)です。
 社外監査役としては、特に他社でのトラブルの報道などに接する都度、当社ではあり得ないなどと先入観を持たず虚心坦懐に、各防衛線がその機能を適切に発揮しているかを確認するよう心掛けています。

高岡
 今後グローバルに事業を拡大していくことを考えると、私も海外子会社のコンプライアンス強化が大きな課題になると考えています。海外子会社は国内に比べどうしても目が届き難いですし、法制度や文化なども日本と異なります。とりわけ、注力地域と位置付ける東南アジアの子会社については、コンプライアンス監視機能の強化に向けた新たな体制・仕組みづくりを考えてもよいのではないでしょうか。
 また、さまざまな経営リスクのなかでも、特に注視しているのはサプライチェーンのリスクです。サプライヤーに対するアセスメントの取り組みを強化していると聞いていますが、今後は、2次・3次サプライヤーまでどのようにカバーしていくかが課題でしょう。また、一社購買というのは購入部材がコアであればあるほどリスクが高い。安定的な部材調達のため、購入部材のマルチソース化に取り組まれているとは聞いておりますが、遺漏なく対応いただければと思います。
 情報リスクに関しては、サイバー攻撃についてはさまざまなセキュリティ対策が講じられていると理解していますが、特に海外子会社での情報資産の物理的な持ち出しリスクにも留意が必要かと思います。
 それから、メーカーとしての信頼性に大きく関わる品質リスク。昨年度、製品不具合対策費用として多大な損失を計上しましたが、先ほどお話のありました「氷山の一角」を意識しつつ、3つのディフェンスラインで万全の対策を取っていただければと思います。

勝田  
 当社のKAM項目にも挙げられた、昨年度のパワー半導体の一部製品の不具合問題に係る一連の対応は適切に行われており、お客様や株主からも一定のご理解は得られたのではないかと感じています。
 海外子会社のコンプライアンスという点では、一番不正が起こりやすいのは調達の場面かと思います。調達不正は各国の汚職防止法とも絡み、また域外適用なども視野に入れながら対応していく必要があります。

社外監査役が果たすべき役割

奥野
 それでは最後に、社外監査役の皆様が中立的・客観的な立場において、それぞれの専門性やご経験を生かして、当社の監査役会あるいはコーポレート・ガバナンスの更なる実効性向上に向け、どのように貢献していきたいとお考えか、お聞かせください。

平松
 金融機関での業務経験を通じて非常に多くの企業を見てきましたし、現役の社長として経営者の苦労というのも些かは理解しているつもりですので、そういう観点から経営判断に役立つような意見を申し上げていきたいと考えています。コーポレート・ガバナンスの実効性向上に向けた一助として、監査役監査報告の重み、つまり、監査報告書を型通り出せないことは企業にとって重大な事態につながるという事実を改めて自覚するとともに、その辺りを社内の方々にも忘れられないよう努めていきたいと思います。

高岡
 監査役に求められる役割として、独立性、専門性に加え、取締役に対し言うべきことは言うといった倫理性も必要となります。ただ、極端にリスクを強調して、保守的なリスクテイクをやり過ぎるのも問題ですので、リスク管理を予防的にきちんとやっていくという点での助言を心掛けたいと思います。私自身は、総務部門、会社経営者、監査役を経験してきましたので、そこで得たコーポレート・ガバナンスの構築やリスク管理面での知見を生かし、ステークホルダーからの期待に応えられるような務めを果たしていきたいと思っています。

勝田
 監査役は株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務執行を監査することが職責です。その意味で、一般的に取締役会では、ある程度議論や方針が固まった段階で案件が挙がる形になりがちなので、意思決定に際して検討すべき情報や資料は十分か、他の選択肢の有無や付随するリスクについてそれぞれのメリット・デメリットを踏まえて十分に議論は尽くされたか、という見地からの質問や意見をすることを心掛けており、取締役会での合理的な経営判断の意思決定プロセスの妥当性を確認する立場として貢献できればと思っています。まだまだ当社の業務内容について理解が不十分な点は多いのですが、社内弁護士経験や企業法務を通じて弁護士として培った知見や専門性を生かして引き続き必要な助言をしていきたいと思います。
 それから本日のテーマである「ガバナンスの実効性向上」ということでは、ダイバーシティという観点が、女性や外国籍の方の役員や管理職登用も含め、まだ少し弱い面があるとは感じています。女性活躍推進についてはすでに社内でさまざまな取り組みがなされていることは承知していますが、成果が出るまで時間がかかる問題でもあるので、中長期的な計画策定に踏み込み、社外にも開示しながら進めることも検討するとよいのではないかと思います。当社が社会からの期待に更に応えていけるよう、社外監査役として貢献できればと考えています。

奥野
 貴重なご意見・ご指摘ありがとうございました。ご指摘いただいたことも念頭に、監査役としての活動を一層強化していくとともに、監査役会としてコーポレート・ガバナンスの更なる実効性向上に貢献していければと思います。

撮影時以外はマスクを着用し、新型コロナウイルス感染症への対策を行った上で座談会を実施しました。

写真:座談会風景