エネルギー・環境事業のルーツをたどる
無停電電源装置(UPS)の歴史(前編)

無停電電源装置(UPS)は、台風や落雷などの自然災害や、突発的な事故による停電時の電源をバックアップするシステムです。クラウドシステムなどの大規模コンピュータは私たちの生活やビジネスを支える重要なインフラとなっており、また、病院や放送、製造ラインなど、電源トラブルが致命的になる設備は数多く、UPSは産業・社会インフラの強靭化にかかせないものとなっています。
その用途から高い信頼性が要求されるUPSにおいて、富士電機はパワーエレクトロニクスの発展とともに時代のニーズに合わせた高信頼な製品・システムを開発してきました。富士電機の創業以来、約100年に渡り、時代ごとの最新の技術を紹介しつづけてきた「富士電機技報(注)」から無停電電源装置の歴史を紐解いていきます。

(注)

1924年に「富士時報」として創刊。現在は「富士電機技報」に誌名が変わっています。

1950年代:無停電電源装置の登場

当社がはじめて無停電電源装置の研究開発に取り組んだのは1950年代までさかのぼります。1954年に試作機を完成し、各方面に展示して以来、さらに実験研究を重ね、IG式、MSG式、MIG式という3つの方式の無停電電源装置を確立し、1955年にはおのおのについて実績を持つようになりました。

有線無線通信用の電源装置には従来主として蓄電池が使用されている。蓄電池は使っても使わなくても次第に放電して電圧が下がってしまうし、(中略)数年で寿命がつきて廃物となる。その他日常の保守も面倒であって常に電解液の比重調整や補充電等が必要であり、また局舎で占める床面積が大きい等の欠点があるため、無人局用の電源装置としては取り扱いにくいものである。(中略)当社でも昨年来無停電電源装置につき実験研究をおこない製品も納入してきた(略)

富士時報 第28巻第5号(1955年)より抜粋

当時回転機を主力事業のひとつとしていた当社の強みを活かし、発動機(エンジン)と電動機(モータ)兼発電機を使ったシステムを採用。当時、通信用の電源装置として使われていた蓄電池は寿命や保守性に欠点がありましたが、フライホイール(はずみ車)と呼ばれる重量のある円盤を高速回転させることで運動エネルギーを蓄積、停電時には慣性力により発電させることで無停電化し、蓄電池の悩みを解決するものでした。装置の容量としては5から30kVAの規模のものが納入されました。

日本電信電話公社納入単相25kVA MSG式無停電電源装置。富士時報第29巻1号(1956年)より
日本電信電話公社納入単相25kVA MSG式無停電電源装置
富士時報第29巻1号(1956年)より
IG式無停電電源装置結線図。富士時報第28巻第5号(1955年)より
IG式無停電電源装置結線図
富士時報第28巻第5号(1955年)より
1960年代:コンピュータ向け大容量UPSと静止形の登場

富士通経由中山競馬場向け計算機用電源の250kVA無停電電源装置はディーゼル発電機-電磁クラッチ・はずみ車・誘導電動機-200kVA発電機-50kVA発電機から構成される大容量のセットである。

富士時報 第40巻第1号(1967年)より抜粋

富士通経由中山競馬場向け250kVA無停電電源装置
富士通経由中山競馬場向け250kVA無停電電源装置
富士時報第40巻第1号(1967年)より

当社は1966年に、250kVAの大容量UPSを中山競馬場(千葉県)に納入しました。本競馬場には、富士通信機製造株式会社(現在の富士通株式会社)が国内で初めて開発したトータリゼータシステムが採用されましたが、当社の大容量UPSは、何万人分もの馬券の投票数とオッズを計算する本システムの電源の安定化を担いました。

このときの無停電電源装置は、まだ、フライホイールを利用したものであり、中山競馬場に続いて、阪神競馬場、京都競馬場にも納入されましたが、一方で、半導体のサイリスタをインバータ部に適用した定電圧定周波電源装置(CVCF)の開発も進めていました。

大形サイリスタ素子の開発に伴い、応用分野の拡大とともに各種大容量装置が製作されるようになってきた。(中略)大容量三相自励インバータ装置を標準化するための諸問題を実際に装置を試作して検討した。(中略) 交流電動機の可変速運転用電源装置、無停電電源装置に使用した場合の問題点について具体的な検討を行った。

富士時報 第40巻第1号(1967年)より抜粋

このころ、電子計算機すなわちコンピュータはめざましい勢いで発展しており、その電源装置も重大な使命を帯びるようになります。従来の電動発電機方式(M-G方式)の電源装置は、騒音や振動が大きく、設置場所の制約があったことから、小型軽量で設置場所の自由度が高いサイリスタインバータによる定電圧定周波電源装置が注目を浴びるようになっていきます。
1969年には大容量三相サイリスタインバータによる200kVAのCVCF(定電圧定周波数)電源装置を松本工場で開発し、富士通川崎工場の電子計算機用電源として納入しました。

(つづく)

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