エネルギー・環境事業のルーツをたどる
汎用インバータの歴史(前編)

汎用インバータの歴史(前編)

モータの回転速度を制御するインバータは、プラントや工場で使われるファン、ポンプの省エネを始め、エレベータ、クレーン、コンベア、工作機械など、さまざまな種類の機械や設備の自動化にそのニーズは拡大しつづけ、産業インフラに欠かせない装置として進化してきました。インバータは、モータを必要な回転数に制御して最小限のエネルギーで運転させることができるため、省エネひいては、CO2削減に貢献する製品の代表と言えます。
富士電機は1976年に汎用インバータとしてFRENIC5000シリーズを系列化して以来、累計1800万台以上(2023年3月現在)の汎用インバータを生産してきました。さまざまなニーズに合わせて変化してきた汎用インバータが、どのように生まれ、進化していったのか。富士電機の創業以来、約100年に渡り、時代ごとの最新の技術を紹介しつづけてきた「富士電機技報(注)」からインバータの歴史を紐解いていきます。

(注)

1924年に「富士時報」として創刊。現在は「富士電機技報」に誌名が変わっています。

1960年代:インバータの登場

富士電機技報に「インバータ」が製品として初めて登場したのは1966年までさかのぼります。それ以前、モータの回転速度を制御する装置としては水銀整流器などが使われており、当社も1950年代から、鉄の圧延設備向けなどに継続的に多数納入していました。一方、こうした用途で使われていた直流モータは回転速度の制御がしやすいことがメリットでしたが、ブラシの摩耗などにより定期的なメンテナンスが必要というデメリットもありました。

(略)―――サイリスタを用いた単相インバータは各電力会社、徳山ソーダ、宇部興産などに多数納入した。三相インバータとしては東京都水道局向け揚水ポンプ駆動用200V 50Hz 3kVAを製作した。

富士時報 第39巻第1号(1966年)より抜粋

サイリスタの登場によって電力変換の分野での置き換わりが進み、その優れたスイッチング特性により、任意の周波数に交流出力を制御できるインバータが交流モータの運転制御用途で活躍していくことになります。交流モータはブラシを使用していないため、特に連続運転時のメンテナンス面で優位性が大きく、産業用途ではインバータによる交流モータの使用が広がっていきます。

製鉄所向け圧延機用サイリスタ装置。富士時報第42巻第1号(1969年)より
製鉄所向け圧延機用サイリスタ装置。
富士時報第42巻第1号(1969年)より

サイリスタインバータは電算機や各種計測器用の交流安定化電源として、ますます需要が増加し、従来の回転機に代わり多数使用されるようになってきた。また紡績機用などの電動機の可変速電源としてのインバータも需要に応じ標準化を行った。――― (略) ―――当社ではすでに紡績プラントを中心にして自励インバータによる電動機群運転装置を多数納入している。

富士時報 第44巻第1号(1971年)より抜粋

当時、日本の主力産業であった繊維産業においては、生産工程における素材のたるみや切断が品質上の不具合となることから、複数のモータを同期回転させる必要があり、その制御用などに、サイリスタインバータが用いられるようになりました。電算機用途はインバータ制御による安定出力を電力安定化に活かしたもので、その後の無停電電源装置の発展へとつながっていきます。高速サイリスタによるインバータ技術は可変速運転の可能性を飛躍的に拡大させました。

交流モータの運転制御用としての活躍の場が広がったサイリスタインバータですが、小容量では価格上のメリットが出しづらく、ある程度大きい容量のモータか、1台のインバータでたくさんのモータを同時運転する用途が主な導入先となっていました。

1970年代:オイルショックから省エネの始まり

1970年代には世界経済を大混乱におとしいれた2度のオイルショック(石油危機)が襲います。日本の産業界においても原油価格の高騰によるインフレが景気を減速させ、エネルギーの安定供給が最重要課題であると認識されました。この経験をきっかけに、元々「もったいない」文化が根強かった日本では「省エネルギー」という考え方が浸透し、現在にいたるまで企業や家庭での省エネが促進されています。

サイリスタインバータFRENIC1000VG
サイリスタインバータFRENIC1000VG

当社のサイリスタインバータは1970年代半ばには製品系列を12.5-200kVAまで拡大し、特に繊維関係の用途では年間百数十台の需要に対処するほど成長していました。サイリスタインバータによってモータを高度な制御で運転できるようになると、より幅広いニーズに適用するため、小容量・低価格化への期待が高まってきました。

トランジスタインバータの登場

交流可変速駆動は、今日では可変速駆動の中心的存在になりつつあり、この傾向に呼応して昨年は各種の開発・改良を行った。――― (略) ―――小容量として価格上のメリットが出せるトランジスタ使用の電圧制御型インバータ(FRENIC5000)を2~12.5kVAまで系列化し、当社特有の瞬時停電対策を施した形で繊維関係の需要に対応した。

富士時報 第50巻第1号(1977年)より抜粋

初代汎用インバータ 5kVA(1976年発売)
初代汎用インバータ 5kVA(1976年発売)

そこで1976年に登場したのが、パワートランジスタを適用し、小容量・低価格のメリットを打ち出したFRENIC5000シリーズでした。インバータは半導体のスイッチング回路によって、出力する電圧や周波数を制御していますが、スイッチングの周期が短い(=周波数が高い)ほど電流容量やコンデンサなどの容量を抑えられ小型化できます。FRENIC5000は、半導体素子にサイリスタよりも高速なスイッチングが可能になるトランジスタを採用したことでインバータの小型化に成功し、特に小容量で期待の大きかった低価格化のニーズに応える製品でした。トランジスタの使用による小容量インバータの系列化は汎用インバータ元年ともいえる大きな一歩でした。

トランジスタインバータの歴史は、容量の拡大と高性能化、低コスト化の繰り返しであった。現在、コストとの対比において、その性能は十分な評価を受け、普及の時代を迎えている。交流電動機を効率よく無段階に変速させるためにはインバータが必要であり、従来はサイリスタインバータが用いられていたが、小容量の範囲は経済的に実用が困難であった。高電力用パワートランジスタの開発とこれを適用した経済的なインバータの開発により、小容量電動機の分野まで可変速駆動されるようになった。

富士時報 第58巻第4号(1985年)「トランジスタインバータの展望」より抜粋(一部要約)

オイルショック後、産業分野の各所で省エネルギー化の検討が始まる中、FRENIC5000シリーズは、ファン、ブロア、ポンプの可変速駆動による省エネのニーズに応えるインバータでした。小型・軽量の機能的なデザインに加え、安全回路、自動運転回路の実装により、だれでも運転可能な汎用インバータとして、人気を博していきました。

(つづく)

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