2023年調査
化学工業のIoT・スマート工場化の現状と今後の動向

化学工業のIoT・スマート工場化の現状と今後の動向

化学工業のIoT・スマート工場化の現状と今後の動向のイメージ

化学業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進んでいます。データ・AI関連技術や自動化・遠隔操作関連の最新技術を活用し、生産効率の向上や製品の品質改善を目指しています。

背景には人材不足の解消や国際競争力の強化などがあり、また地球温暖化対策として、エネルギーの最適利用、カーボンニュートラルの実現も重要な課題として認識されています。

例えば経済産業省は、IoTやAIを活用した「スマート保安」を推進し、化学プラントの安全性を高め、人手不足の問題を解決しようとしています。さらに、2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップも示されており、化学業界はCO2排出量の削減に積極的に取り組むことが求められています。

【参考URL】

デジタルガバナンス・コード(経済産業省)

スマート保安官民協議会(経済産業省)

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省)

化学工業のIoT・スマート工場化に関連する意識調査

IoT・スマート工場化への取り組み状況を把握するため、富士電機では化学工業従事者を対象に、「IoT・スマート工場化に関連した取り組み状況に関する調査」を実施しました。

以下ではIoT・スマート工場に関連する重要キーワードの解説と、本調査の実施結果についてご紹介ていきます。

調査概要

対象エリア:全国
調査対象者:化学工業従事者
回答者属性①経営層・役員クラス:1.0%、部長クラス:12.5%、課長クラス:34.7%、係長・主任クラス:51.7%
回答者属性②製造・生産部門:77.1%、生産管理部門:12.8%
有効回答数:749人
調査方法:インターネット調査
調査期間:2023年2月22日から23日

DX(デジタルトランスフォーメーション)

経済産業省のデジタルガバナンス・コードによるとDXは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されています。

化学業界では、IoTなどの技術革新により、膨大なデータを活用できるようになりました。これらのデータを分析し、デジタル技術をビジネスに取り込んでいくことで、競争力維持・強化することなどが可能になります。 DXは、省力化・生産性の向上やカーボンニュートラル化に向けた取り組みにおいても不可欠な要素となっています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の意識調査結果のグラフ

DX(デジタルトランスフォーメーション)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の18.4%、「ある程度知っている」が34.7%、「言葉を聞いたことがある」が27.1%となりました。「全く知らない」の回答は全体の19.8%という結果になりました。


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スマート保安

スマート保安とは、IoTやAI等の先進技術を活用し、保安力の維持・向上、生産性向上を目的にした取り組みです。経済産業省では「スマート保安官民協議会」を通じて、この取り組みが推進されています。化学工場の安全な運転・操業には保安・保全活動が必須です。しかし、設備の老朽化や人材不足が課題となっています。

スマート保安は、IoTなどのデジタル技術を活用し、これらの課題を解決するもので、例えば従来人の作業で行っていた保全活動を、遠隔監視や予兆保全に置き換えプラントの状態をリアルタイムで把握し、トラブルを未然に防ぐことで、生産性の向上と安全性の確保を実現できるようになります。

スマート保安の意識調査結果のグラフ

スマート保安について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の10.1%、「ある程度知っている」が13.2%、「言葉を聞いたことがある」が26.7%となりました。「全く知らない」の回答は全体の50.0%という結果になりました。


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デジタルツイン

デジタルツインは、現実世界の設備を仮想空間に再現する技術です。総務省では、デジタルツインを「現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組み」と定義しています。

例えば化学プラントのデジタルツインを作成することで、プラントの運転状況を可視化し、シミュレーションを行うことができます。 これにより、新しいプラントの設計や既存プラントの改善を効率的に行うことが可能となり、コスト削減や製品品質の向上等の効果が期待されています。

デジタルツインの意識調査結果のグラフ

デジタルツインについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の4.2%、「ある程度知っている」が9.0%、「言葉を聞いたことがある」が24.3%となりました。「全く知らない」の回答は全体の62.5%という結果になりました。

ソフトセンサ―

ソフトセンサーは、直接計測が難しい温度や圧力といった数値を、他の計測可能なデータから推定する技術です。デジタルツインとも関係が深く、部分適用もできる手軽さが魅力の技術です。

例えば、製品の品質を左右する成分濃度を、温度や圧力などのデータから間接的に把握することができるようになります。これにより、人が買いする作業を減らすことができ、結果として製品品質の安定化や、生産プロセスの最適化が可能になります。

また、設備の異常を早期に検知し、予兆保全を行うことで、生産停止のリスクを減らし、メンテナンスコストを削減するなどにも適用が期待されています。

ソフトセンサ―の意識調査結果のグラフ

ソフトセンサーについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の6.9%、「ある程度知っている」が13.5%、「言葉を聞いたことがある」が25.3%となりました。「全く知らない」の回答は全体の54.2%という結果になりました。


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GX(グリーントランスフォーメーション)

GXとは、環境省によると「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革」としており、脱炭素とエネルギー安定供給、経済成長を同時に実現する取り組みのことを目指す取り組みのことをさします。

化学業界においては、化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーを活用し、CO2排出量を削減することが求められており、具体的には、工場のエネルギー効率化、再生可能エネルギー導入、低炭素な製品開発などが挙げられます。

GX(グリーントランスフォーメーション)の意識調査結果のグラフ

GX(グリーントランスフォーメーション)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の6.9%、「ある程度知っている」が14.9%、「言葉を聞いたことがある」が26.7%となりました。「全く知らない」の回答は全体の51.4%という結果になりました。

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量と吸収量の合計を実質的にゼロにすることを意味しています。 日本政府は20250年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにするカーボンニュートラルを目指す宣言をしており、また、内閣府と各省庁で「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定、公開しています。

化学業界におけるカーボンニュートラルは工場のエネルギー消費量やCO2排出量を測定・管理し、CO2排出量を低減する必要があり、化学製品や素材の生産・開発においても低炭素化やカーボンリサイクルへの対応が求められています。

カーボンニュートラルの意識調査結果のグラフ

カーボンニュートラルについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の27.8%、「ある程度知っている」が42.7%、「言葉を聞いたことがある」が23.6%となりました。「全く知らない」の回答は全体の5.9%という結果になりました。


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EMS(エネルギー管理システム)

EMSは、工場内のエネルギー使用状況を可視化し、効率的なエネルギー管理を支援するシステムです。特に、FEMSと呼ばれる工場向けのEMSは、電力の使用量だけでなく、熱エネルギーの使用量も管理し、総合的なエネルギー効率の向上を図ります。

従来のEMSといえば電力を対象としたエネルギー管理が注目されていましたが、近年では電力と熱エネルギーを対象としたものになりつあり、脱炭素化にむけたシステムとしての期待が高まっています。また、エネルギーの消費量などのデータは、製造活動と深く関係しているため、生産管理や設備保全業務にも応用されています。

EMS(エネルギー管理システム)の意識調査結果のグラフ

EMS(エネルギー管理システム)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の12.8%、「ある程度知っている」が28.5%、「言葉を聞いたことがある」が28.8%となりました。「全く知らない」の回答は全体の29.9%という結果になりました。


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化学工業のIoT・スマート工場化の展望

AIや機械学習を活用したデータ分析、自動運転技術、ロボットの導入など、最先端技術の技術検証が活発で、すでに生産性の向上や品質の安定化への実装が進んでいる部分もあります。

IoTやAIのさらなる発展、各省庁の取り組みから、今後も化学業界ではDX化・スマート化、地球温暖化対策としてカーボンニュートラルの実現、CO2排出量削減に向けた取り組みも加速していくと予想されます。





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