電炉製鋼圧延工場の基礎知識
製鋼工場の配電設備
アーク炉を含む製鋼工場の配電設備
配電設備の基本構成
アーク炉を含む製鋼工場では、製鋼に必要な電力が数十から100MVA程度、圧延などの負荷電力が数十MVA以上に達するため、工場への受電電圧は、通常66kV以上の特別高圧となります。大規模な工場では、220kV以上の受電となるケースもあります。一般的な配電設備の構成は、図に示すような形になります(図を簡略化するため、1回線受電で表現しています)。

一般動力負荷の保護
アーク炉による電源の乱れから一般動力負荷を保護するために、降圧変圧器を分けるのが一般的です。特殊な方法として、降圧変圧器に3次巻線を追加し、この3次巻線に一般動力を接続する方法もありますが、変圧器を特別に設計する必要があるため、特別な場合にのみ用いられます。また、非常時に備えて、製鋼用の母線と一般動力の母線を同じ電圧にして、母線連絡CB(常時開放)にて接続する方法もあります。
電力会社との責任分界点
図に示すような受配電設備の構成では、一般的に、66kV~220kVで受電した地点以降は、工場側で設計・製作を行うのが一般的です。しかし、海外では、降圧変圧器や力率改善設備までを電力会社が負担する場合もあります。このような場合は、降圧変圧器のインピーダンスや、力率改善設備の設計仕様などを確認し、それらを炉の設計条件として考慮する必要があります。
高調波対策
交流アーク炉の平均的な力率は、0.8から0.85前後です。一方、アーク炉から発生する高調波は、電力系統に大きな影響を与えるため、これを抑制するための対策は必須です。
力率改善コンデンサは、キャパシターと直列接続のリアクトルにて構成され、キャパシタンスとリアクタンスの配分によって高周波を吸収する機能を持たせることができます。そのため、力率改善と高調波抑制の両方の機能を兼ね備えた装置として設計されることが一般的です。
力率改善コンデンサ兼高調波フィルターの設計
この装置を設計する際には、以下の情報を事前に把握しておく必要があります。
・アーク炉の負荷と運転時の力率
・目標とする力率改善率(電力会社と協議して決定)
・アーク炉運転中に発生する高調波の量(アーク炉の運転状態や変圧器の励磁突入電流など)
・高調波の許容値(電力会社と協議して決定された値や、関連する規格)
製鋼母線にこの装置を接続する際には、以下の点に注意する必要があります。
・アーク炉無負荷時に発生するフュランチ現象による電力つき上げ(遮断性能・TR絶縁障害)
・炉用変圧器投入時の励磁突入電流時の電圧変動、波形歪
・コンデンサ用の遮器選定(特に低次調波フィルター用の遮断器は要注意)
・系統側に存在する高調波成分のフィルターへの流入
・一般動力側のコンデンサへの高調波電流流入(時として共振現象)
・電力系統との共振
また、フリッカ補償装置としてサイリスタ制御リアクトル方式(TCR:Thyrister Controlled Reactor)を採用する場合には、補償用のコンデンサが追加されるため、全体のコンデンサ容量が大きくなります。
そのため、コンデンサのバンク構成や投入順序を慎重に検討する必要があります。 直流アーク炉の場合、発生する高調波は高次調波に集中するため、低次の高調波フィルターは不要と考えられることが多いです。しかし、変圧器の励磁突入電流が発生する際に、2次の高調波が大きな擾乱を引き起こすことがあります。
アーク炉への配線と誘導障害
アーク炉用の変圧器は、炉の近くに設置されることが多く、配線にはケーブルが使用されます。このケーブルを流れる電流には、高調波成分が多く含まれており、短絡や無負荷の状態が繰り返されるため、ランダムな変動となります。
そのため、ケーブルを敷設する際には、この電流の変動や高調波によって、他の機器(特に電子機器)が過熱したり誤動作したりしないよう、ケーブルの経路や他のケーブルとの距離などに注意する必要があります。