電炉製鋼圧延工場の基礎知識
製鋼用アーク炉を構成する電気設備

製鋼用アーク炉を構成する電気設備

実用化されているアーク炉には、商用周波数を利用した3相交流炉と1本電極の直流炉の2種類があります。それぞれの炉を構成する電気設備は、表に示すような内容となっています。

また、回路の構成図は、以下に示すような形が一般的です。

交流アーク炉の電源システム構成例のイメージ
図1 交流アーク炉の電源システム構成例
直流アーク炉の電源システム構成例のイメージ
図2 直流アーク炉の電源システム構成例

製鋼設備には、炉外精錬設備と呼ばれる設備も含まれます。回路構成は交流炉と同じで、製鋼母線(22kV~33kV)に接続されます。ただし、直列リアクトルは不要です。

交流アーク炉の電源設備

炉用変圧器

アーク炉の中心となる設備であり、受電電圧やアーク炉の並列設置状況、フリッカ対策の必要性などに応じて、最適な巻線構成で設計する必要があります。近年では、大容量のフリッカ補償装置を接続したり、炉外精錬炉を併設したりすることが一般的になり、1つのタンクに2つの変圧器を設置する方式や、変電所に降圧変圧器を設置するケースもあります。

炉用変圧器は、頻繁に発生する炉内の短絡電流による機械的な強度、大電流や高調波電流による熱損失の増加、ローカルヒート(局所的な過熱)など、アーク炉特有の厳しい条件を考慮して製造されています。そのため、低圧側の端子は水冷式とし、結線をオープンデルタとすることで、変圧器タンクの貫通部でのローカルヒートを軽減しています。

電気炉用変圧器
画像1 電気炉用変圧器
フリッカ補償装置
画像2 フリッカ補償装置

タップ切換方式

炉用変圧器の二次側電圧は、溶解プロセスに合わせ広範囲の電圧調整をする必要があるため、20~40V程度のステップで15から19個程度のタップが設けられており、頻繁にタップ切換えが行われます。そのため、負荷時タップ切換器が不可欠である。

タップ切換器を接続するための巻線構成は、様々な工夫がされています。一次等価タップ切換方式が一般的ですが、それ以上の容量の変圧器では、間接タップ切換方式が用いられます。

間接タップ切換方式は、タップ切換器の定格に合わせてタップ巻線を設計できる、二次側のタップ電圧の間隔を均一にしやすい、タップ巻線の回路を利用してアーク電流を計測するCTを内蔵できる、タップ幅の変動幅を広く設定できるなどの利点があります。ただし、鉄心が2つ必要になるため、変圧器全体の重量や寸法が大きくなるというデメリットもあります。

負荷開閉装置

製鋼用アーク炉の開閉装置には、以下の仕様が求められます。

・開閉頻度: 1日に数十回から200回と、非常に高い頻度で開閉が行われます。

・開閉器の寿命: 定格電流での開閉で10万回以上の寿命が求められます。

・負荷変動: 炉の負荷変動が激しく、定格電流の2倍以上の電流が頻繁に流れます。

・繰返し過電流: 繰り返し発生する過電流に耐える必要があります。

過去には空気遮断器などが使用されていましたが、現在は真空遮断器が広く採用されています。真空遮断器は、開閉時に発生するサージ電圧を抑制するために、CRサージ吸収器が接続されます。

炉用多頻度真空遮断器
画像3 炉用多頻度真空遮断器

電極昇降制御装置

電極昇降制御装置は、駆動方式によって液圧式と電動式に大きく分けられます。日本では、電動式が主流です。従来は、交流巻線形電動機の一次電圧をサイリスタで制御する方式が一般的でしたが、昇降速度の高速化(操業時間の短縮)や制御精度の向上によるアークの安定化を目的に、かご形電動機を交流インバータで制御する方式が主流となっています。

昇降速度は、溶解のプロセスに合わせて最適な速度を上昇・下降ともに設定することができます。電力の投入効率は、アークの安定性に大きく影響されるため、電極の応答速度が重要です。電動機は内蔵ブレーキ付きの特殊なものとなります。

直列リアクトル

高電圧低電流で操業すると、アークが不安定になりやすく、電力投入効率が低下したり、フリッカ障害が増大したりするといった問題が発生することがあります。炉用変圧器の一次側(電圧間接制御の場合は三次側)に直列リアクトルを挿入し、溶解の進行に合わせて最適なリアクタンスを選択することで、これらの問題を低減し、幅広い運転条件で最適な運転を行うことができます。

直流アーク炉の電源設備

変圧整流装置

直流アーク炉用の変圧整流装置は、基本的な構成は電解プラントなどの産業用変圧整流装置と同一ですが、過電流に耐えるなど、特殊な設計が求められます。アーク電圧と電流を高速に制御する必要があるため、整流素子には容量にかかわらずサイリスタが使用されています。

サイリスタは、アークの変動に伴う急激な電流変動にも耐えられるように、熱的にも機械的にも強固な構造になっています。結線は、出力電圧が数百ボルト以上になることからブリッジ結線となり、高周波ノイズの発生を低減するために、多相整流が用いられます。

変圧整流装置(12相整流)上図2台で1炉分の構成
画像4 変圧整流装置(12相整流)上図2台で1炉分の構成

炉内短絡時サイリスタ点弧角制御だけでは、制御応答が遅れて電流が数百%以上にオーバシュートすることがあります。そのため、サイリスタ装置は、この過電流に対応できるように、定格電流よりもはるかに大きな容量で設計する必要が出てきます。

この問題を解決するために、高速な電流制限機能を備え、同時に直流側のリアクタンスによって電流の立ち上がりを緩やかにする必要があります。直流リアクトルは、このために設置されます。

電極昇降制御装置

直流アーク炉では、油圧駆動方式が採用されています。交流アーク炉では、昇降制御はインピーダンスを一定に保つ制御が一般的ですが、直流アーク炉では、アーク長が電圧にほぼ比例するという特性を利用して、電圧を制御することで等価的にアーク長を制御します。

制御には、交流炉と同様にPLCによる高速制御が採用されていますが、アークの安定化を促進するための様々な補助的な制御ロジックが組み込まれています。

その他の設備

機器冷却装置

炉体は工業用水で冷却する必要がありますが、屋内に設置される炉用変圧器、直列リアクトル、整流装置も、多くの冷却水を必要とします。変圧器は、工業用水を水-油熱交換器で冷却し、整流装置は、素子を純水で冷却し、純水を工業用水で冷却することが一般的です。

しかし、工業用水の品質によっては、冷却器の腐食が急速に進行してしまうことがあります。そのため、冷却管を二重にする、特殊な材質の冷却管を使用するなどの対策が検討されます。冷却水が変圧器の絶縁油や純水に混入してしまうと、すぐに絶縁破壊が起こってしまうため、特に注意が必要です。これらの腐食対策に加えて、水配管の圧力が過剰にならないように設計することも重要です。

自動溶解制御装置

溶解を自動化することは、最適な通電パターンを分析し、操業を支援したり、帳票を作成したり、上流・下流のプロセスとの連携を効率化したりする上で非常に重要です。自動溶解制御の中心となる主な機能は、以下の通りです。

・通電パターンの作成

・溶解条件の確認と準備作業ガイダンス

・溶解制御
(プロセスに応じた電流・電圧設定、電極感度選択・電力の制御、追加装入タイミング判定)

・精錬期制御
(電流・電圧・電極感度等の制御量切換、溶落判定)

・電力デマンド制御との連動

・生産管理システムとの連動

・スクラップ秤量システムとの連動

・各種帳票作成

アーク炉の基礎知識