電炉製鋼圧延工場の基礎知識
製鋼用アーク炉
製鋼用アーク炉とは
製鋼用アーク炉は、電気炉の一種です。電気エネルギーを電極と被溶解物の間に発生させたアークを介して熱エネルギーに変換し、 発生したエネルギー(アーク放電時の熱エネルギー)によって被溶解物を高速溶解することができます。被溶解物は主に鉄スクラップです。溶解後に新しい鋼材、例えば建築用の棒鋼やH形鋼、ステンレス鋼などに再生されます。
日本では、年間の粗鋼生産量の約3割がアーク炉によって作られています。その比率は年々増加しており、単に鋼生産の手段としてだけでなく、省資源対策(鉄のリサイクル)としての役割を持ちます。
また、電気炉による製鋼は高炉・転炉製鋼法と比較して二酸化炭素の排出量が少ないという特徴があるため、循環型社会、低炭素化社会実現の観点からも重要な設備であると言えます。
鉄鋼用アーク炉の基本構造と特性

アーク炉の炉体は、耐火レンガで覆われた炉の中に、黒鉛電極と鉄スクラップ(又はDRI)との間に発生させたアーク熱 (部分的にジェール熱も加算) に依って鉄スクラップを高速溶解します。
解された鉄 (溶鋼)は1500℃以上の高温になり、成分を調整した後、炉の外に取り出されます。この昇温と保温の為にもアーク熱が活用されます。
アーク炉は非常に大きな電力を必要とします。数十トンものスクラップを短時間で溶かすためには、数十MW以上もの電力が必要になるためです。このため、アークは数百V、数十kA以上という非常に大きな電流になります。
・炉体: 炉内を高温に保ち、溶融金属を保持する役割を担います。耐火物で内張りされており、熱損失を最小限に抑えます。
・電極: 電極は人造黒鉛など耐熱性の高い材料でできており、アークを発生・持続させるための電極です。電極昇降装置により昇降することでアーク長・アークインピーダンスを調整します。
・電源: 大電流を供給する交流アーク炉は変圧器、直流アーク炉は変圧器と整流器から構成されます。
交流アーク炉と直流アーク炉
前述の通り、製鋼用アーク炉は、交流アーク炉と直流アーク炉があります。前者は半世紀以上にわたる実用化の歴史を有するのに対し、後者は平成になって本格的な大形炉導入が開始されました。
交流アーク炉の発達の歴史は、RP(Regular Power)操業、HP(High Power)操業、UHP(Ultra High Power)操業という変遷をたどってきました。この流れは、電圧に比べて電流を多くする、いわゆる低電圧大電流化(力率≒0.7前後)への流れでした。
しかしながら、現状70kA程度を最大とする電極電流の制限や電極原単位、電力原単位低減の観点から、二次電圧を可能な限り高くし(900V以上)、高電圧低電流にて高エネルギーを注入し操業する技術が導入され、現在相当数の炉で実用に供され生産性向上に大きく寄与しています。
直流アーク炉は、電気エネルギーを交流からいったん直流に変換する必要があります。電源構成は複雑となる反面、アーク長は交流に比べ長く短絡頻度は少なく、電流値の制御が可能、アーク切れはほとんど起きないというメリットがあります。大容量設備に適した炉となっております。