電炉製鋼圧延工場の基礎知識
アーク炉とフリッカ対策

フリッカとは

照明のチラつきのイメージ

電圧が短時間で繰り返し変動し、人の目で照明がチラついた事を感じる現象をフリッカ(電圧フリッカ)と言います。

電圧フリッカは、工場内の照明のチラツキだけでなく、系統への電圧擾乱を与える事になります。そのため電圧フリッカ対策をしっかりと行う必要があります。

電圧フリッカの影響


照明のちらつき: 照明がチラつくと、視覚的な疲労や不快感を与え、作業効率の低下や安全性の確保が難しくなることがあります。

電力系統の安定性の低下: 大規模な電圧フリッカは、電力系統全体の安定性を損なう可能性があります。

電圧の変化と照明の変化(参考)

白熱電球の特性
図(a) 白熱電球
蛍光ランプの特性
図(b)蛍光ランプ

アーク炉と電圧フリッカ

アーク炉のイメージ

アーク炉は、アーク放電により大きな電流を消費し、電流が急激に変化します。特に問題となるのは無効電力の変動です。無効電力は変動が大きくなると、電圧変動を大きく引き起こし、電圧フリッカの発生に大きく影響します。

電圧フリッカ対策の基本原理

電圧フリッカは、主にアーク炉の運転に伴う無効電力の変動によって発生します。そのため、電圧フリッカ対策の基本は、この無効電力の変動を抑制することです。電圧変動(ΔEr)は、リアクタンス(X)と無効電力変動量(ΔQ)の積に比例するという関係があります。

電圧変動の算出式



この式から、電圧フリッカを抑制するためには、以下の2つの方法が考えられます。

系統のリアクタンス(X)を小さくする: 電力系統のインピーダンスを低減することで、無効電力の変動による電圧変動を小さくすることができます。

無効電力変動量(ΔQ)を小さくする: アーク炉の運転によって発生する無効電力の変動を抑制することで、電圧変動を小さくすることができます。

電圧フリッカ対策の種類

電圧フリッカ対策には、大きく分けて以下の3つの方法があります。

変動負荷と並列に接続する対策装置

・無効電力補償装置 (SVC): 系統の無効電力を補償することで、電圧変動を抑制します。SVCには、TCR(サイリスタ制御リアクトル)やSTATCOM(静止型無効電力補償装置)などがあります。

・フィルタ: 特定の周波数の高調波成分を除去することで、電圧波形の歪みを改善します

変動負荷と直列に接続する対策装置

・リアクトル: 系統のリアクタンスを増加させることで、電流変動を抑制します。

操業による対策

・アーク炉の運転制御: アーク炉の運転方法を工夫することで、無効電力の変動を抑制します。具体的には(1)予熱装置の設置、(2)スクラップ裁断設備の設置、(3) 溶解期毎の最適タップの選定、(4)電極昇降装置の最適調整などの対策が考えられます。

無効電力補償装置とは

無効電力補償装置(SVC: Static Var Compensator)は、電力系統の無効電力を調整することで、電圧変動を抑制し、電力系統の安定化に貢献する装置です。アーク炉のような大きな負荷変動を伴う設備において、電圧フリッカ対策として活用されます。

静止型無効電力補償装置
静止型無効電力補償装置

無効電力補償装置の種類

無効電力補償増値による電圧フリッカ対策には、他励式と自励式があります。両装置とも、無効電力を補償することで、電圧変動を抑制し、フリッカを低減させる効果があります。どちらの方式を選択するかは、システムの規模、コスト、要求される性能など、様々な要因を考慮して決定する必要があります。

無効電力補償装置の種類の表

上記の他、複数の無効電力補償装置を組み合わせることで、より高度な制御を実現する方法や、近年ではAIやIoT技術を活用した高度な制御システムの開発が進んでいます。

参考資料

・大容量自励式フリッカ補償装置の導入事例

この資料内では、製鋼業向け大容量自励式フリッカ補償装置の導入事例が掲載してあります。この事例では、従来の他励式装置から自励式装置への更新により、少ない設備容量で高いフリッカ補償性能を実現しました。また、コンパクトな設計により、限られたスペースにも設置できるなど、設備の効率化にも貢献しています。

出所 富士電機技報 Vol.89 No.2 p.099(2016)

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・フリッカ補償システムの最新制御技術

電力供給の「電気の質」に対する要求がより厳しくなってきている現在、フリッカ補償装置(SFC)の役割はより重要なものとなってきています。パワーエレクトロニクスを駆使したSFC には、サイリスタを用いた他励式SFC および自己消弧デバイス(IGBT など)を用いた自励式SFCがあります。本稿ではフリッカ補償システム(他励式および自励式)の最新制御技術について紹介しています。

出所 富士時報 Vol.80 No.2 p.131(2007)

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アーク炉の基礎知識