富士電機株式会社

IR資料室富士電機レポート/統合報告書

社長COOインタビュー

脱炭素社会の実現に向けて、
エネルギー・環境分野でお客様に最適な
ソリューションを提供します
代表取締役社長COO 近藤史郎

Q1: 社長COO就任から1年を経て、できたことを教えてください。

2023年度中期経営計画の売上高目標1兆円を前倒しで達成

2022年4月に社長COOに就任し、執行の責任者としてやるべきことは、2023年度を最終年度とする中期経営計画の達成(売上高1兆円、営業利益率8%以上)と次期成長戦略の策定を2年間で実行することと言ってきました。そのなかで、2022年度に中期経営計画の目標である売上高1兆円を一年前倒しで達成したことは、できたことの1つだと思います。

当社を取り巻く環境が常に変化するなか、中期経営計画で描いた戦略をやり切るため、まず私は国内の工場、支社のみならず、海外拠点にも足を運び、社員に対し、短期的・中長期的な「変化への適応力」を高めることの大切さを言い続けてきました。世界中でさまざまな想定外の事象が起き、また中長期的な新たな価値観へのシフトが進むなか、社員一人ひとりが情報感度を上げて変化の予兆を捉え、自身の気づき、考えを発信してほしい、決めたことはチーム一丸となってやり抜こうと呼びかけてきました。

この1年はさまざまな変化が生じましたが、短期的な対応がある程度機能したと実感しています。例えば、自動車の電動化に伴うパワー半導体やデジタル化に伴うデータセンター向けの需要増、工作機械向け器具の短納期対応など、こうしたお客様のニーズに真摯に対応し需要を取りこぼさなかったこと。また、素材価格高騰や部材調達難などの厳しい環境に対しては、従来から進めていた部材のマルチソース化を強化するだけでなく、部門の垣根を越えて代替部材への設計変更、さらに当社製品の高付加価値化に見合った販売価格アップなどに取り組みました。加えて、当社の売上や利益は事業の特性上、第4四半期、とりわけ3月に偏重する傾向がありますが、先々に生じるリスクを予測し、計画との乖離に早めに対応することを従来以上に徹底してきました。

このように社員一人ひとりが、常に変わっていく環境に柔軟に対応し、チームとなって諦めずに取り組んだ結果、念願の売上高1兆円を達成し、さらに売上高、営業利益、営業利益率、当期純利益いずれも過去最高を更新することができました。

Q2: 2023年度中期経営計画を前倒しで達成した今、2023年度の経営課題を教えてください。

次期中期経営計画につながる2023年度に仕上げる

基本的に実行すべき2つの使命は変わりませんが、現中期経営計画の目標を前倒しで達成したので、2023年度は、改めて利益重視の経営に舵を切り、営業利益率9%以上、当期純利益625億円を必達目標とします。これまでの十数年間は、ものつくり力の強化などの経営改革や全社活動「Pro-7」を通じた会社のあらゆる業務プロセスの見直しにより、さまざまな手を尽くして営業利益の改善を徹底して行ってきました。逆に言えば、ここから先もう一段上の利益水準を目指すのはそう簡単ではなく、今眼前にある課題は手ごわいものだと覚悟しています。また、今期からは営業利益に加えて、当期純利益にもこだわり、在庫管理やシステム案件の受注前審査などプロジェクト管理を徹底し、無駄なコストを発生させないよう取り組んでいきます。次期中期経営計画につなげていくにあたり、重要なポイントは4つあります。

1つ目は、パワエレ インダストリーの収益力の強化です。低圧インバータなどのコンポーネントの事業体質強化に向けて、地設、地産地消をさらに強化するとともに、部品の共通化による生産性向上を図っていきます。

2つ目は、発電プラントと食品流通の収益性の更なる改善です。発電プラントは、脱炭素化を背景に需要が拡大している再生可能エネルギー事業に注力し、設備の信頼性向上や稼働率改善に向けたサービス事業を強化するなど、引き続き収益性重視のポートフォリオ変革に取り組みます。食品流通は、省エネやオペレーションの改善を実現する自販機やコンビニエンスストア向け環境型ショーケースなど高付加価値商材の提案を推進するとともに、事業規模に適したものつくり体制に再編し、事業体質を強化していきます。

3つ目は海外事業の拡大です。海外事業はまだ発展途上にあり、まずは海外売上高3,000億円超を達成することです。昨年度はパワエレのグローバル商材の開発優先順位を機動的に変更し、タイムリーに市場投入できた商材がある一方で、これにより一部の商材は市場投入・拡販が遅れるなどの課題がありました。事業環境が目まぐるしく変わるなか、今年度は将来を見据え、製品開発の優先順位付けの精度を上げ、グローバル商材を計画通り投入していくことが重要だと考えています。また、これまでアジア・インドで実施してきたM&Aや協業の成果の刈り取りをさらに強化していきます。成果の一例として、シンガポールの富士SMBE社が、アジア市場におけるデータセンター向けの旺盛な需要を継続して取り込んでいます。現地主導で顧客ニーズを把握してシステム提案を行い、日本側は必要に応じて技術サポートをするなど、連携した仕組みが徐々にできあがってきています。他のアジア拠点でも現地主導で日本が支援する体制に変えていくことが必要です。

4つ目は、新製品の売上拡大です。社内では2023年度の新製品売上高目標を2018年度比1.5倍と掲げていましたが、2022年度に1.4倍に到達し、2023年度は1.7倍まで伸ばす計画です。これまでは自動車の電動化の加速により、半導体の新製品売上は年々伸びていますが、2023年度は複数機種のプラットフォーム化によりコストダウンを実現した低圧インバータ、データセンター向けに業界最大容量となる無停電電源装置などのパワエレの売上を伸ばす計画です。開発、設計、製造、営業、全部門が連携し、総力を挙げて顧客ニーズにマッチした新製品を生み出すサイクルを加速し、売上拡大を目指します。

これらの取り組みを確実に実行することで、2023年度経営計画を達成し、次期中期経営計画につながる年に仕上げたいと考えています。

Q3: 2024年度以降の更なる成長に向けた取り組みを教えてください。

次期中期経営計画の具体化

現在、2024年度から始まる3ヵ年の次期中期経営計画の議論を進めています。新たな中期経営計画では2030年の富士電機のありたい姿(目標)を定め、未来を起点に逆算して考えるバックキャスティングと、現在を起点とし未来を導きだすフォアキャスティングを整合し、成長戦略を描いていきます。当社が目指す方向性として、エネルギー・環境分野で、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献するという方針は今後も変わらず、まさに当社の存在意義であると言えます。

部門間シナジーの最大化により、更なる成長を目指す

2050年の脱炭素社会の実現など社会課題解決に向けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)の取り組みが加速しています。2030年に向けて一層サステナビリティが重視されるなか、お客様や社会の価値観の変化をしっかり捉え、移行期に生じる事業機会を逃さないことが重要です。

当社の強みは、エネルギーの供給サイドから需要サイドまで一気通貫でお客様課題を解決できる事業ミックス・技術ミックスを持っていることです。この特長を活かしたさまざまな成長機会があるなか、パワエレとパワー半導体をコアにして、エネルギー・環境分野で市場の変化に応じて社会価値を創出する。お客様にとって最適なシステム・ソリューションを提供するには、部門間の枠を超えて柔軟性を持って対応することが肝になります。(図1)

そのようななか、お客様のニーズをいち早く捉えるため、昨年4月に部門横断で全社のカーボンニュートラル関連商談を取りまとめる専門部署をパワエレ エネルギーに設置しました。発電プラントの再生可能エネルギーとパワエレの系統蓄電池システム、分散グリッドなどの引き合いを200件以上いただいており、足元のお客様の課題に対する取り組みは軌道に乗り始めています。

一方、水素などの燃料転換、熱エネルギーを含む需要家サイドの電化や電力需給のバランスを調整し最適化するなど、比較的リードタイムの長い案件に対しては、2021年度に技術開発本部内に立ち上げた新製品開発プロジェクト室がハブとなり、営業、事業、研究開発の部門が横断的に連携して、市場・顧客動向を分析し、新製品開発を推進しています。中長期の開発テーマを2030年に向けた会社の成長戦略と結びつけ、事業ポートフォリオをいかに描くかが課題です。ここでの検討案件が順次、商品企画審査を通過するようになれば、こちらも軌道に乗ると思っています。もちろん、現行の事業を伸長させることも非常に大切で、市場の価値観がシフトするなか、製品ポジションがどう変化するか、さらには必要となる新技術・新製品を予測し、ニーズを掴むための的確な施策と投資を行っていきます。

図1 温室効果ガス排出削減への貢献
脱炭素電源・分散化、エネルギー安定供給・最適化、省エネ・自動化、電化

2030年に向けた社会と市場の変化を社員一人ひとりが捉え、これらに対応していくため、従来の「変化への適応力」に加えて、2つの「そうぞう力」を働かせてほしいと考えています。2030年をどのように想い描き(Imagination)、どのように創り出していくか(Creativity)。それぞれの社員が未来を想い描いて、それを実現するために社内だけでなく、さまざまな業種のお客様と議論をしながら富士電機の競争軸を見極め、実行計画に落とし込んで、チームで創り出していきたいと考えています。

これらの事業戦略視点の検討に加えて、経営基盤を更に強化するためには、コーポレート部門の横ぐし戦略も非常に重要です。なかでも、人財が極めて重要だと考えています。社員の幸せと会社の持続的成長の好循環の実現に向け、競争優位性の源泉である人財の価値を最大限引き出し、個々の働きがいにつながる仕組みの検討を関連部門と進めています。生産や調達面においても、地設、地産地消がより重要となり、部門・地域で横断した連携強化も不可欠となります。並行してDXを推進し、更なる生産性向上を図っていかなければなりません。また、環境ビジョンと整合した事業戦略と目標設定や、想定外の変化に対応できるレジリエンスの強化に向けリスク対応力を一層高めていくことも必要です。そして、戦略を整合させて束ねるために、財務・非財務指標の両面で企業価値向上に資する経営指標の目標設定をするとともに、社員も共有しうるKPIを定めることが大切だと考えています。

2023年は富士電機100年の集大成を飾る年であり、未来の富士電機を真剣に考える年でもあります。2030年のありたい姿と3ヵ年の次期中期経営計画をしっかり議論し、ステークホルダーであるお客様、株主様、お取引先様、地域の皆様等々から信頼され、成長する企業でありたいと考えています。