富士電機株式会社

富士電機製品コラム

再生可能エネルギーへの転換に時間がかかる一方で、原油コストの高騰から日本国内では電気料金の値上げが続いています。こうした2022年の国内事情を背景に、エネルギーコストの削減と地球環境保護への対応が求められているという両面から導入が進むエネルギーマネジメントシステム(EMS)の概要とメリット・デメリット、実際の導入事例などについて解説します。

1.エネルギーマネジメントとは

エネルギーマネジメントとは、広義にはエネルギーを使用状況に応じて管理することを意味しますが、一般的には工場やビル、住宅などの施設や地域における電力の需給バランスを最適化するための管理を指します。

2.エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは

「見える化」「分かる化」「最適化」

エネルギーの使用状況を可視化し、照明や空調、設備機器の稼働を制御することでエネルギーの運用を最適化するためのシステムです。

3.エネルギーマネジメントシステム(EMS)が注目される理由や背景

EMSが注目を集める理由は、地球全体の気候変動や資源の枯渇に対するカーボンニュートラルやSDGs(持続可能な開発目標)など環境問題への対応が求められているからです。環境問題への対策としてエネルギーの利用を最適化し、必要以上にエネルギーを使用しないこと配慮が必要となっています。また、エネルギーの利用を最適化することで利用者はコストの削減をおこなうことも可能です。

3.1. EMSの国内市場規模

2018年度の国内におけるEMSと関連する設備やサービスを合わせた市場規模はおよそ8,834億円でした。翌2019年度には1兆円を突破しており、2030年度には1.7兆円に達すると予測されています(富士経済調べ)。今後も需要は増えていくものと予想されます。参照元:エネルギーマネジメントシステム、関連設備・サービス市場を調査

3.2. EMSの国内市場規模

電気料金平均単価の推移

エネルギーの今を知る10の質問

出典: 経済性 | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

2019年度の国内の電気料金は、2010年に比べて家庭用で約22%、産業用で約25%値上がりしており、2021年には過去10年間における※最高水準に達しています。日本はエネルギー自給率が11.8%と極めて低く、OECD加盟35か国中34位と低迷しています。日本はエネルギー資源に乏しく、石油やLNG(液化天然ガス)といった化石燃料は輸入に頼らざるを得ず、輸入コストがそのまま電力料金に反映されやすいことが主な理由です。

参照元: 経済性 | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

※2022年1月時、電力会社の料金を基に算出

4.エネルギーマネジメントシステム(EMS)が注目される理由や背景

エネルギーマネジメントシステム(EMS)は管理する対象によって呼び名が異なりますが、エネルギーの収支を管理するためのシステムという基本的な部分はすべてに共通しています。主な管理対象には工場(FEMS)、ビル(BEMS)、家庭(ホーム、HEMS)、工業団地などの地域(コミュニティ、CEMS)があります。各々について見ていきましょう。

4.1. FEMS(Factory Energy Management System)

2工場におけるエネルギー管理はFEMS(フェムス)と呼ばれ、エネルギーの管理を生産計画やサプライチェーンと連動させることで生産性の向上とエネルギーコストの削減を両立させます。省エネ法への対応やISO50001規格認証のために導入が推進されています。

4.2. BEMS(Building Energy Management System)

BEMS(ベムス)は、オフィスビルや商業ビルを対象としたEMSで、ビル内の消費エネルギーを「見える化」し、無駄なエネルギー消費を抑えるためのシステムです。大規模ビルではBAS(Building Automation System, ビル中央監視制御システム)と連動してエネルギー需給の最適化を図ります。

4.3. HEMS(Home Energy Management System)

スマートスピーカーなどのホームネットワークとIoTデバイスの登場により急速に普及が進んでいるのがHEMS(ヘムス)です。センサを使用した照明や空調の自動制御、モバイルデバイスによる外出先からの遠隔操作などにより無駄のないエネルギー消費へとつなげます。政府は2030年までに全世帯にHEMSを普及させることを目標としています。

4.4. CEMS(Community Energy Management System)

CEMS(セムス)は地域全体のエネルギー需給を管理し、コントロールするシステムです。BEMSやHEMSによる消費側の需要に対して、電力会社などの供給側による発電や電圧など電力供給の制御を行います。CEMSを始めとする各種EMSに蓄電システムや再生エネルギー、交通システムなどを包括してスマートコミュニティと呼んでいます。

5.エネルギーマネジメントシステム(EMS)のメリット

エネルギーマネジメントシステムのメリット

EMS導入の主なメリットは、省エネによるコスト削減と環境問題への対応ですが、そのほかにも設備ごとのエネルギー量を正確に把握し、使用効率を高めることにつなげられるのも大きなメリットです。ここでは具体的なメリットについて解説します。

5.1. 消費エネルギー量を見える化できる

EMSを導入していない場合、電気代やガス代といったコストの多寡でしかエネルギー消費を把握できませんが、EMSを導入することでどの設備がどのくらいエネルギーを消費しているか、リアルタイムで可視化することができます。また、消費エネルギー量からCO2排出量も算出できるので、環境への効果も具体的に見えるようになります。そのためエネルギー消費の効率化や環境への効果に対して成果が具体的に報告しやすくなります。また、得られた情報を基にエネルギー計画を改善していくことも可能になります。

5.2. 非効率な機器や稼働状況を特定することができる(分かる化)

EMSは個々の設備や機器から情報を収集するだけでなく、過去のデータと比較し、分析することでエネルギー消費が最適化出来ていない機器や稼働状況を特定することができ、メンテナンスに活かすことができます。機器の稼働効率の低下や消費電力の変化から、老朽化や故障の前兆を判断することも可能です。

5.3. エネルギーの運用を最適化できる

非効率な機器に対して、最新の省エネ機器の導入や制御技術の導入によってエネルギー運用を最適化することができます。 見える化・分かる化・最適化のサイクルを繰り返すことで、常に最適なエネルギー運用を行うことが可能です。

設備のライフサイクルコストという課題を解決するための機器については、富士電機のEMSソリューションをご参照ください。

富士電機のEMSソリューション

6. エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入課題と解決方法

EMSの導入には、見える化するための設備導入や運用サービスの契約などの初期投資が必要です。また、導入する施設に応じた機器の選定や運用には専門的な知識が必要で、これらがEMS導入の課題となる場合があります。こういった課題はデメリットのように感じられるかもしれませんが、それぞれに対して解決策があります。

6.1. 初期コストがかかるが補助金を利用できる

EMSの導入には初期費用がかかり、場合によっては大きな金額となる可能性があります。また、導入後の運用コストも必要となるため、効率よく運用できないと想定したコストの削減に結びつかないリスクもあります。

初期コストについては経済産業省が提供している補助金制度を利用することで一部の費用をまかなうことが可能です。運用コストも導入時に専門家への協力をお願いする事で解消することができます。

6.2. 機器の仕様によっては導入が難しいこともある

EEMSにはさまざまな機器が必要で、例えばFEMSの場合はエネルギー管理以外に生産設備を管理する機器も必要となりますが、工場で生産される製品によって機器の仕様やシステム構成が変わります。運用する施設と機器の仕様がマッチしていないとEMS全体の導入が難しいものとなる場合もあります。まずはEMSを提供している事業者に相談することで導入が可能か判断すると良いでしょう。

6.3. 運用には専門知識が必要になる

EMSを的確に運用するには設備ごとのデータ分析と、分析結果を運用に反映させることのできる専門知識が必要です。省エネに関する知識だけでなく、エネルギー全般と電力に関する知識、エネルギー関連法規やICTに関する知識も必要であり、幅広い知識とスキルを持つ専門家が必要です。 専門家が社内にいない場合にはEMSを提供している事業者に運用についても相談すると良いでしょう

富士電機のEMSソリューションについて相談する

7. エネルギーマネジメントシステム(EMS)の補助金制度とは

経済産業省による「先進的省エネルギー投資促進支援事業補助金」制度では、

原油換算量として
①省エネ率30%以上
②省エネ量1,000kl以上
③エネルギー消費原単位改善率15%以上
の設備導入に対して100万円~15億円の範囲で補助金が交付されます。
令和3年度の公募は終了していますが、令和4年度も同事業が予算案としてすでにまとめられており、再開が待たれます。


参考:資源エネルギー庁 先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金

8. エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入事例

EMSの導入事例として富士電機の半導体分野向けソリューション(山梨工場)と電気器具製造工場向けソリューション(吹上工場)をご紹介します。

8.1. 富士電機(山梨工場)
『EMSソリューションにより5年間で34%のエネルギー削減達成』

自動車製造の溶接ロボット

パワー半導体チップを製造する富士電機の山梨工場では、24時間稼働のため停電があっても生産ラインを止めないことが課題です。また、非常に多くのエネルギーを必要とするため、省エネも重要な課題です。富士電機では自社のEMSソリューションによるエネルギーの「見える化・分かる化・最適化」により、5年間で34%のエネルギー削減を達成、「止まらない工場」を実現しています。

省エネとライン停止の課題を解決した事例を見る

8.2. 富士電機(吹上工場)
『電力需要予測システム活用により3年間で27.5%のエネルギー削減達成』

自動車製造の溶接ロボット

富士電機機器制御株式会社の吹上工場は、電力需要予測システム「ZEBLA」(ゼブラ)を活用した省エネ活動の推進を行っています。ZEBLAは電力需要を予測し、最適な省エネ対策を自動で行うEMS(Energy Management System)です。過去のデータから電気使用量のピークを予測し、足りないときには重要度の低い機器の間引き運転をおこない、リアルタイムで省エネ対策を実行します。

吹上工場事業所では2010年から「省エネによる事業所の体質強化計画」に取り組み、エネルギーのムダ削減を目的に、使用量の見える化や生産ラインの再構築、空調・照明の最適化を進めてきました。この施策とZEBLAの組み合わせは、生産性と快適性を損なわずに電力需要のピークを分散させ、2018年度にはエネルギー原単位(原油換算)で対2015年度比25.7%の削減を実現しました。

電力需要予測システム活用による省エネ活動の推進事例を見る

 

9. まとめ

エネルギー消費を見える化することでエネルギーコストとCO2排出量の削減につながるEMS技術は、天然資源に乏しくエネルギー自給率の低い日本にとって、なくてはならない存在となりつつあります。持続可能な開発目標(SDGs)についての議論が高まり始まり、環境問題への取り組みが企業にとっても重要となってきました。導入にあたっては専門的な知識と初期投資が必要となりますが、適切なサービス事業者の選定と補助金の利用で課題は解決できるはずです。政府や自治体による各種支援制度も充実していますので、この機会にEMS導入の検討を始めてみてはいかがでしょうか。

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