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研究開発・知的財産 富士電機レポート/統合報告書

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技術開発本部長画像

富士電機の成長戦略を牽引する
新製品の創出と新技術の獲得に挑戦します


執行役員
技術開発本部長

中山 和哉

 当社を取り巻く事業環境が不確実性を増す中にあっても、脱炭素社会への転換や循環経済への移行、デジタル化に向けた投資の拡大といったトレンドは今後も続くと考えます。これらのトレンドに伴って生じるお客様の新たな課題を解決するため、コア技術を磨き、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献する新製品や、グローバル商材の開発を強化しています。さらに、将来の社会課題の変化を洞察し、新たなニーズに応える新製品の創出を目指して、パートナー企業やアカデミアとの協業・共創を通じて革新的な新技術の獲得に挑戦しています。
 また、新製品・新技術の競争優位性を確保するための知的財産のポートフォリオ形成や、事業をグローバル展開する上で不可欠な国際標準化活動に取り組んでいます。

中長期的な研究開発の進捗

 2024年度を初年度とする2026年度中期経営計画における研究開発戦略として、研究開発ポートフォリオに示す現行領域(①)と成長領域(②)の新製品開発を進めるとともに、2030年以降の成長に資する新領域(③)に係る研究開発にも取り組んでいます。
 この研究開発戦略を実現するため、2025年度の研究開発費は対前年度18億円増加の397億円とし、2024年度に引き続き、当社の成長戦略を支える成長領域および新領域の研究開発への投資を拡大します。また、研究開発の最重要KPIと位置付けている新製品売上高(上市後5年以内)については、2026年度に2023年度の1.2倍以上とする目標を掲げています。

2024年度の主な開発の進捗

 現行領域(①)では、プログラマブルコントローラやエレベータ用インバータなどの次世代機を市場に投入し、サーボシステムや天然エステル変圧器などの系列拡大を進め、小容量UPSや超音波流量計などを開発中です。
 成長領域(②)のGX関連では、電動車向けと再生可能エネルギー向けの新たなパワー半導体モジュールの開発を完了し、モビリティ分野では港湾向け陸上給電システムを発売、エネルギーマネジメント分野では太陽光発電用ストリングPCSなどの開発を進めました。DX関連では、プラント向け監視制御システムのエンジニアリング機能強化やEMSプラットフォームの開発を完了し、デジタル変電所対応機器などを開発しています。さらに、グローバル商材として製鉄・セメントなどのプラント用ドライブ装置を発売し、ドライエアC-GISやVCB盤、飲料サーバなどの開発を進めています。
 新領域(③)では、2030年度以降の成長に資する新製品の創出と、そのために必要な新技術の獲得に取り組みました。

研究開発費グラフ
新製品売上高推移グラフ

研究開発ポートフォリオと主な進捗

  • ①現行領域 現行事業の維持・拡大に向け『次世代機開発、競争力強化、プラットフォーム開発拡充』

  • ②成長領域 成長戦略を牽引する『GX、DX、グローバル新製品を2026年度までに投入』

  • ③新領域 2030年度以降の市場拡大を見据えた『GX新技術獲得と新製品創出に挑戦』

研究開発ポートフォリオと主な進捗の図

新製品創出・新技術獲得の強化

 2030年度以降に市場拡大が見込まれている「燃料転換」や「熱電化システム(インダストリーP32)」、「CO2分離回収」など、当社にとって新領域となる分野での新製品の創出と新技術の獲得を進めるにあたり、パートナー企業との共創を拡大しています。
 化石燃料からアンモニアへの燃料転換の実現を目指して、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業のひとつである「アンモニア燃料船サプライチェーン構築における周辺機器開発」に伊藤忠商事株式会社とともに参画しています。当社は、これまでに培った計測技術と新たな高感度化技術を融合させて、有害なアンモニアを安全に取り扱うための漏洩センサや残留アンモニア回収装置などの開発に取り組んでいます。
 また、2024年度は下記のスタートアップ企業2社に出資し、新たな協業を開始しました。今後も、有望なパートナー企業への出資を通じて新技術の獲得を積極的に推進します。

残留アンモニア 回収装置
残留アンモニア
回収装置
配管内 残留アンモニア計測器
配管内
残留アンモニア計測器
アンモニア漏洩センサ
アンモニア漏洩センサ
̶ 現場主義の製造業向けAI サービス ̶
株式会社フツパー

 フツパー社は、画像解析による外観検査や生産ラインの最適な人員配置を実現する独自のAI技術を、高品質なパッケージで提供できる点が強みです。当社の商材と組み合わせてシナジーを発揮するソリューションを創出することにより、当社のスマートファクトリー事業の強化を目指しています。

̶ 独自の固溶合金ナノ粒子製造技術 ̶
株式会社 illumines (イルミナス)

 イルミナス社は、複数の元素で構成される径10nm以下の固溶合金粒子を安定的に生産する技術を保有しています。この技術を活用して、パワー半導体やクリーンエネルギー分野に適用する触媒などの高性能な新材料を開発することにより、脱炭素社会の実現に貢献する競争力ある新製品の創出を目指しています。

独自の固溶合金ナノ粒子製造技術の画像

知的財産活動の取り組み

 当社は、知的財産を重要な経営資源と位置付け、知的財産方針の下、知的財産権の戦略的な獲得と活用を通じて製品の競争優位性を確保するとともに、グローバル市場で遵守が求 められる国際標準への対応を進めています。
 中長期的には、成長分野の事業や製品を対象とした知的財産活動および国際標準化活動を強化するほか、新製品創出に向けた市場分析力向上を目指し、知的財産分析を活用しています。

知的財産方針
  • 知的財産の分析による知財戦略の立案と実行

  • 事業ごとの知的財産ポートフォリオの強化とリスクの低減

  • 戦略的国際標準化活動の強化

知的財産ポートフォリオ強化

 当社が保有する知的財産権は、事業ごとの知的財産ポートフォリオ(主要な技術ごとに整理した保有知的財産)として管理しており、事業状況の変化を勘案した維持・放棄などのメンテナンスを継続的に行っています。
 2024年度は、加えて中期計画で掲げた領域ごとの成長戦略を支える活動に着手しました。具体的には、中期計画で定義した成長領域(GX、DXなど)と新領域(燃料転換、熱の電化など)における発明提案を、2026年度までに総合で10ポイント向上させる目標を設定しました。目標達成に向け、研究開発部門との連携を密にし、共同で発明提案を抽出する活動を進めています。
 今後もこの取り組みを継続し、当社の成長戦略を知的財産の側面から支えていきます。

新製品の創出に向けた知的財産分析(IPランドスケープ)の活用

 競争力の高い新製品を創出するため、当社では製品開発の初期段階から「IPランドスケープ」を積極的に活用しています。IPランドスケープは、公開特許や学術論文を基に技術動向や業界の主要プレイヤーを分析し、戦略的な意思決定を支える手法です。
 2024年度は、30件以上のプロジェクトでIPランドスケープを適用しました。例えば未参入の事業領域においては、技術動向分析(右図)を基に新たな開発テーマを策定するなど、戦略的な新製品創出に向けた取り組みを進めています。

国際標準化活動・ルールメイキングの強化

当社では、海外事業展開に必要な国際規格準拠や認証取得を計画的に進めています。各本部長が委員を務める国際標準化委員会で方針や戦略を決め、これに基づいて事業分野ごとに 形成されたワーキンググループにて国際標準化活動を行っています。また、GXなどの新たな分野においては、市場動向を踏まえ、国内外の標準化活動に策定段階から主体的に関与する「ルールメイキング活動」を展開し、ビジネスへの貢献を目指しています。2024年度にはその一環として、業界団体と連携した実証試験に参画しました(以下のTOPICSを参照)。

研究開発のTOPICS

パワーエレクトロニクス・パワー半導体の基礎研究を強化する
「富士電機×東北大学先端技術共創研究所」を設置

 国立大学法人東北大学(以下、東北大学)と富士電機は、脱炭素社会の実現に向けたパワーエレクトロニクス、およびパワー半導体分野の研究活動を推進すべく、「富士電機×東北大学先端技術共創研究所」を2024年11月に設置しました。
 本共創研究所では、当社のパワーエレクトロニクス・パワー半導体分野における技術に、東北大学の材料・プロセス・デバイス・回路・装置・システムなど多岐にわたる先端的な研究力を融合させ、高効率な小型パワーモジュールや電源・駆動システムの研究を加速するとともに、脱炭素社会の実現に貢献する、新たな価値創出に向けた共同 研究テーマの探索に取り組みます。

東北大学 冨永総長と近藤社長COOの写真
東北大学 冨永総長と近藤社長COO(写真右)

東北大学の「共創研究所」制度は、大学内に企業との連携拠点を設け、大学の教員・知見・設備などに対する部局横断的なアクセスを可能とすることで、共同研究の企画・推進、人材育成、および大学発ベンチャーとの連携をはじめとする多様な活動を促進するものです。

知的財産活動のTOPICS

GX分野における戦略的なルールメイキング活動

 2024年度、当社は一般社団法人日本電機工業会(JEMA)およびJEMA会員企業3社と共同で、生産現場のCO2排出削減量を認証・表示する新システムの構築と検証を実施しました。具体的には、モータ駆動へのインバータ導入時や再生可能エネルギー(太陽光)適用時の各種データを認証機関に送り、第三者認証を取得したCO2排出削減量をスマートフォンなどで可視化するシステムを構築・検証しました。このようにしてCO2排出削減量を製品の「グリーン価値」として示すことで、省エネ製品の付加価値を高め、環境意識の高いお客様への訴求を可能にします。
 現在、この新システムの普及を目指し、ガイドライン整備を含むルールメイキング活動に参画しています。これらの取り組みを通じ、当社のビジネスを優位に進めるとともに、新しいGX需要も獲得し、中長期の事業・利益の拡大に貢献します。

CO2排出削減量を認証・表示する新システムの検証の図