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環境 富士電機レポート/統合報告書

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「環境ビジョン2050」の取り組みを通じて
脱炭素化とサーキュラーエコノミーを推進し、
持続可能な社会の実現に貢献します。


執行役員常務
生産・調達本部長

大日方 孝

 近年、気候変動は地球規模でさまざまな影響を及ぼしています。豪雨や熱波などの自然災害の頻発や生態系への影響は、私たちを取り巻く自然や社会経済においても看過できない脅威となっています。また、これまでの大量消費・大量廃棄型の活動の結果、生物多様性の損失、汚染や資源の枯渇など、世界的な環境危機が進んでいます。これらの問題に対処するには、脱炭素化とサーキュラーエコノミー(循環経済)移行に向けた取り組みを加速させることが必要であり、私たち企業が果たすべき役割は、ますます重要になっています。
 富士電機は、「環境保護基本方針」に基づき、地球環境保護を経営の重要課題と位置付け、2019年度に「環境ビジョン2050」を策定しました。2022年度には、パリ協定が定める「気温上昇1.5℃水準」に整合するよう「2030年度温室効果ガス排出量削減目標」を改定し、2024年度には、サーキュラーエコノミーの推進を2030年度目標に掲げました。2024年度に行った、現中期経営計画などを踏まえた2030年度目標(環境KPI)の定期検証の結果については、それぞれ達成可能な見通しであり、計画に沿って主要施策が進捗していることを確認しました。
 今後の課題は、サーキュラーエコノミーへの転換に向けた具体的な取り組みの推進です。当社はEUエコデザイン規則に適応した環境配慮型製品への移行を進め、サプライチェーン全体で環境負荷を限りなく低減するゼロエミッションの実現を目指していきます。
 また、自然関連の情報開示スキーム(TNFD)や新たに公表された国内サステナビリティ開示基準(SSBJ)に対応し、適切な情報開示に向けた準備を進めていきます。
 これからもエネルギー・環境分野で培ってきた技術を活かし、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

環境保護基本方針
環境ビジョン2050
環境ビジョン2050 2030年度目標

サプライチェーン全体で取り組む環境負荷低減

富士電機は、「環境ビジョン2050」において、「温室効果ガス排出量の削減」「サーキュラーエコノミーの推進」を重要課題と位置付け、研究開発部門、調達部門、各工場など、事業活動全体での課題解決に向け、中長期的な視点で環境ビジョンの達成に取り組んでいます。

研究開発での取り組み

 グリーントランスフォーメーション(GX)関連の新たなニーズに応える新製品の創出を目指した研究開発を推進しており、水素・アンモニアなどへの燃料転換、CO2回収、熱プロセスの電化などの分野で、製品による社会のCO2削減に向けた新技術の獲得に挑戦しています。
 サーキュラーエコノミーに関しても、国際的な規制動向への対応に向けた、リサイクル材料の評価・適用技術など環境負荷の低減に向けた技術開発や、新たなビジネスモデル実現に向けた新製品の創出を推進しています。また、規格・規制のルールメイキング活動へ参画することで、環境負荷低減と経済活動の調和を目指しています。
 さらに、これら活動の指針とすべく、GX戦略やロードマップの策定も進めています。

調達での取り組み

 お取引先様と協働し、グリーンサプライチェーンの構築を推進しています。
 サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減活動の中で、調達品については、現在、お取引先様ごとに温室効果ガス排出量を算出しています。排出量上位のお取引先様には、面談を通じて削減のための協働アイテムを抽出し、活動計画を策定していきます。一方で、部材単位でのカーボンフットプリント(CFP)※1の算定を目的とした富士電機CFP調達ガイドラインを策定し、お取引先様への勉強会を通して理解を深めていただき、算定データの収集を行っていきます。
 また、製品に使用される化学物質については、お取引先様に「富士電機グリーン調達ガイドライン」の遵守をお願いし、環境負荷低減を推進しています。

※1 CFP:製品にライフサイクルでの温室効果ガス排出量を明示する仕組み

ものつくりでの取り組み

 生産時の温室効果ガス排出量(Scope1+2)の2030年度目標(2019年度比46%超削減)達成に向け、生産技術革新による温室効果ガスから電化(再エネ)への切り替え、製造プロセスの変革や生産効率の改善、設備エネルギーの最適制御および省エネ設備への更新により、環境負荷低減を推進しています。製造プロセスの変革では、燃料使用設備である塗装の乾燥工程、焼付工程の低温化、電化などの要素技術の開発を推進します。生産効率の改善については、設計段階からものつくりの効率を実現するDFM※2を推進し、時間当たりの生産量の拡大を図ります。また、設備の稼働監視と最適な運転により、省エネを実現します。工場では計画的な太陽光発電設備の導入を推進し、加えて再エネ電力の調達を拡大していくことで、目標達成に向けた計画的な取り組みを進めています。
 サーキュラーエコノミーの推進については、材料の歩留まり改善や再利用を推進し、廃棄物・最終処分量を限りなく低減するゼロエミッションや化学物質の管理・削減により環境負荷を低減していきます。

※2 DFM(Design for Manufacturing):製造しやすい設計

事業・製品での取り組み

 環境貢献製品によって、社会のCO2削減に貢献します。代表的な貢献製品であるインバータについては、(一社)日本電機工業会のCO₂削減実績量可視化の実証実験に参加。モータのトルクや回転数を制御することで省エネを実現し、その結果生じるCO₂排出量(Scope3)の削減効果を可視化しています。この取り組みにより、企業のより効果的なCO₂削減策や、産業界全体の脱炭素化に寄与することを期待しています。  
 サーキュラーエコノミーの推進については、研究開発・ものつくり・事業部門が連携して、エコデザイン規則やCFPに対応した環境配慮型製品への移行を進めます。

「脱炭素社会の実現」に向けた取り組み

2024年度実績と進捗

2024年度の主な取り組み

 生産時の温室効果ガス排出量削減への取り組みとしては、2022年度から取り組んできた生産拠点への太陽光発電設備の導入を推進。2024年度は、国内5拠点、海外2拠点で合計約5,300kWを設置し、運転を開始しました。また、全工場で横断的な省エネ活動に取り組み、インフラ設備や生産設備の更新の際に最も省エネ効果の高い設備を選定するなど計画的な活動を進めました。使用電力量の多い半導体生産拠点では、再エネ電力購入の拡大に向け、20年間のオフサイトPPA※1の契約を3件締結しました。
 サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量のうち約95%を占める製品使用時の排出量(Scope3カテゴリ11)については、第7世代IGBT パワー半導体などの高効率製品の比率を高めることで排出量を抑制しました。

※1 オフサイトPPA:敷地外に設置した再エネ発電設備などから、電力系統設備を介して電気を購入する仕組み

2030年度に向けた取り組み

 2026年度中期経営計画に基づく2030年度までの生産増の予測を前提に、温室効果ガス削減計画の実現性を検証しました。
 自社工場での生産活動(Scope1+2)に材料の調達から製品の出荷、納入後の排出(Scope3)まで含めたサプライチェーン全体での温室効果ガス排出削減や製品による社会のCO2削減貢献量の各指標については、目標達成に向け進捗していることを確認しました。
 当社の2030年度目標は、日本政府の脱炭素目標(NDC※2)より高い削減目標となっており、今後も、脱炭素社会の実現に向けて取り組みを進めていきます。

※2 NDC(National Determined Contributions):国が決定する貢献

サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(Scope1+2+3)削減

 サプライチェーンで発生する温室効果ガス排出量を、国際基準「GHGプロトコル」に基づき算出しています。Scope3における温室効果ガス排出量の大部分を占めるカテゴリ11(製品使用時の排出量)は、パワー半導体では、電力損失が少ない第7世代IGBTモジュールの売上拡大やシリコン・カーバイド(SiC)製品への移行により、製品使用時の温室効果ガス排出量は減少を見込んでいます。サプライチェーンの上流で排出されるカテゴリ1においても、お取引先様との協働・支援に向けた活動を推進しています。2030年度目標(2019年度比46%超削減の67百万トン以下)の達成に向け、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減を目指します。

サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量と削減量

生産時の温室効果ガス排出量(Scope1+2)削減

 半導体を中心とした生産増の予測を前提に、生産時の温室効果ガス排出量の46%超削減(2019年度比)達成を目指して、必要な施策を推進しています。
 再エネ電力の購入拡大では、長期契約による安定確保を進め、全社電力使用量※3における再エネ電力比率を2024年度の9%から2030年度までに55%まで拡大することを目指しています。

※3 電力使用量:電力購入量+自家太陽光発電量

製品による社会のCO2削減

 当社は、事業領域をエネルギー・環境分野と定め、カーボンニュートラルの実現に貢献する「製品による社会のCO2削減貢献量」を指標にして、2009年度から算定を開始しています。対象貢献製品は年々拡大し、2024年度の売上構成比は30%となっており、インダストリー事業のインバータやクリーンエネルギー分野を中心に貢献量は増加しています。

対象貢献製品の対売上構成比 (2024年度)

TOPICS

環境に貢献するGX新領域製品の拡大

 当社は、既存事業の維持・拡大を図るとともに、GXやデジタル化、グローバル事業を重視し、新製品の投入を通じて脱炭素化に貢献します。中長期的には、水素社会や燃料転換、熱の電化などのGX新領域の市場を見据え、環境に配慮した製品開発を加速しています。これらの取り組みにより、更なる事業拡大と環境貢献を図っていきます。

「循環型社会の実現」「自然共生社会の実現」に向けた取り組み

2024年度実績と進捗

2024年度の主な取り組み

 欧州を中心にサーキュラーエコノミーへの移行に向けた規制が進みつつあり、企業に対しては、サプライチェーン全体での環境負荷低減への取り組み、情報開示への対応が求められています。2024年度は、その一環として、環境配慮型製品への移行に向けた体制・ルール作りに取り組みました。
 また、廃棄物最終処分量の削減に取り組み、特に海外生産拠点での分別強化や処理業者の開拓を進め、最終処分率0.15%の高水準を維持しています。

2030年度に向けた取り組み

国内外の環境規制の要件に対応した環境配慮型製品への移行に向けた準備を進めています。製品ごとの資源や環境負荷などのトレーサビリティ開示への要求に対しては、カーボンフットプリント(CFP)の算定やEUデジタル製品パスポート(DPP)※に対応するための体制づくりに取り組んでいます。

※ DPP:製品の持続可能性などに関する情報を電子記録として提供する仕組み

環境配慮型製品への移行

 「ライフサイクル全体で環境負荷が発生しないものつくり」の実現に向け、環境配慮型製品の要件を見直しています。製品開発、設計において、従来の省エネ、省資源化などの要件に加え、リサイクル性やCFPの開示、廃棄物の削減や生物多様性への対応などの要件を追加します。

環境配慮型製品のイメージ

カーボンフットプリント(CFP)への対応

 製品のライフサイクルで排出される温室効果ガスをCO2排出量として数値化する取り組みを進めています。
 2024年度は、代表2機種(電磁開閉器、自動販売機)で調達から生産までの試算を実施し、算定に向けた課題を抽出しました。
 2025年度は、算定機種を低圧インバータ、半導体などに拡大するとともに、お取引先様との連携による一次データの収集などにも取り組んでいきます。

電磁開閉器のCFPイメージ(CO2排出量)

TCFD・TNFD提言に基づく情報開示

 2020年6月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明して以来、気候変動に起因する「リスク・機会」の分析結果を事業戦略に反映するとともに、TCFD提言に基づく情報開示を更新しています。
 2024年度は、新たにTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに基づき、当社の製造拠点が自然資本に依存する度合いや、自然資本へ与える影響、また事業におけるリスクと機会を、TNFDが推奨するLEAPアプローチに沿って評価しました。